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147.最高の姿で妃を迎えるために
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緊張しすぎて眠れない夜が明けて……空は曇りだった。快晴ならよかったとぼやきながらも、口元が緩む。今日はトリシャとの結婚式だ。正式に署名をして、ようやく彼女は僕の妻になる。皇妃という肩書もついてきてしまうが、それはおまけだった。
さすがに自分一人で礼服を着用するのはニルスが許さず、執事としてきっちり役目をこなした。型崩れや皺を防ぐため、トルソーごと持ち込まれたシャツの袖に手を通す。もう知られている傷跡を隠すように羽織ったジレのボタンを留める。上に刺繍や銀細工の飾りが美しいジュストコールを重ねた。
男である僕はまだいいけど、着飾る花嫁は主役であるだけに大変だろう。事前準備はもちろん、着替えも明け方から始まるらしい。前日から会えない仕来りの花嫁ベアトリス皇妃の完成が待ち遠しい。
全体の色は白や銀、差し色として青を使用した。僕の瞳の色に合わせて、トリシャのドレスにちりばめられたお飾りと合わせるためだ。純白も綺麗だが、それは今夜の寝着まで取っておきたいし。別に婚礼衣装が白でなくてはならない理由や根拠はないが、いつの頃からか慣例になっていた。
皇族であり、民の手本である以上、あまり奇抜な恰好は好まれない。慣例に従い白を基調としながらも、トリシャが望んだ青と僕の希望する銀を上品に織り込んだ。デザインを担当した騎士の未亡人達には、褒美を奮発しないとね。素晴らしい出来だ。
鏡の前に立つ僕の黒髪を、ニルスが手慣れた様子で撫でつける。艶のある黒髪は前髪をほとんど上げてしまい、僕らしくない。はらりと前髪の一部を解いたニルスは満足そうに頷いた。用意された飾りの勲章やらブローチを次々とつけていく。
祭りのリースに似て、ごちゃごちゃと重かった。
「省略できない?」
「陛下、本日は晴れの日でございます」
執事の口調で窘めてくるニルスに、肩を竦めた。勲章同士が軽く触れ合い、カシャンと乾いた音が響く。最後にマントを乗せられた。これがまた刺繍だらけで重い。皇帝としての責任を感じさせる重さだけど、儀礼の時に何度か付けたので慣れたものだ。長く引きずる裾を捌いて襟を直した。
「うん、問題ないかな」
姿見を両側に用意した侍従達に頷き、下がらせた。離宮から一緒に出たかったのだけれど、今日だけは本宮で支度をした。理由は簡単だ。式のために着飾った彼女を見て、僕が我慢できると思う? 人目が少なく、ベッドがある自室の前だよ。襲うに決まってる。
ひとつ息を吐いて気持ちを落ち着けようとするが、高鳴る心臓が鎮まる様子はなかった。
「こんなに緊張したの、初めてだ」
皇帝の玉座に初めて腰を下ろした日の方が、よほど落ち着いていたよ。苦笑いして襟元に手を触れる。その手をニルスがそっと押さえた。
「緊張して当然なのではありませんか? 崩れますので触れるのはお控えください。最高のお姿で姫様をお迎えしなければなりません」
弟に言い聞かせる兄のようなニルスを振り返り、僕は深呼吸して顔を上げた。時間だ。マントや階級章を付けた儀礼用の騎士服に身を包んだ双子が開いた扉をくぐり、前にマルス、後ろにアレスを従える。少し離れた位置でニルスが一礼した。
彼は帝国一の大貴族ナーリスヴァーラ大公として参加するため、婚約者となったシュルストレーム女公爵ソフィをエスコートする。ここで一度お別れだった。式の大広間で会おう。そう告げずとも通じ合う義兄弟に頷き、柔らかな絨毯へ足を踏み出した。
さすがに自分一人で礼服を着用するのはニルスが許さず、執事としてきっちり役目をこなした。型崩れや皺を防ぐため、トルソーごと持ち込まれたシャツの袖に手を通す。もう知られている傷跡を隠すように羽織ったジレのボタンを留める。上に刺繍や銀細工の飾りが美しいジュストコールを重ねた。
男である僕はまだいいけど、着飾る花嫁は主役であるだけに大変だろう。事前準備はもちろん、着替えも明け方から始まるらしい。前日から会えない仕来りの花嫁ベアトリス皇妃の完成が待ち遠しい。
全体の色は白や銀、差し色として青を使用した。僕の瞳の色に合わせて、トリシャのドレスにちりばめられたお飾りと合わせるためだ。純白も綺麗だが、それは今夜の寝着まで取っておきたいし。別に婚礼衣装が白でなくてはならない理由や根拠はないが、いつの頃からか慣例になっていた。
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鏡の前に立つ僕の黒髪を、ニルスが手慣れた様子で撫でつける。艶のある黒髪は前髪をほとんど上げてしまい、僕らしくない。はらりと前髪の一部を解いたニルスは満足そうに頷いた。用意された飾りの勲章やらブローチを次々とつけていく。
祭りのリースに似て、ごちゃごちゃと重かった。
「省略できない?」
「陛下、本日は晴れの日でございます」
執事の口調で窘めてくるニルスに、肩を竦めた。勲章同士が軽く触れ合い、カシャンと乾いた音が響く。最後にマントを乗せられた。これがまた刺繍だらけで重い。皇帝としての責任を感じさせる重さだけど、儀礼の時に何度か付けたので慣れたものだ。長く引きずる裾を捌いて襟を直した。
「うん、問題ないかな」
姿見を両側に用意した侍従達に頷き、下がらせた。離宮から一緒に出たかったのだけれど、今日だけは本宮で支度をした。理由は簡単だ。式のために着飾った彼女を見て、僕が我慢できると思う? 人目が少なく、ベッドがある自室の前だよ。襲うに決まってる。
ひとつ息を吐いて気持ちを落ち着けようとするが、高鳴る心臓が鎮まる様子はなかった。
「こんなに緊張したの、初めてだ」
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「緊張して当然なのではありませんか? 崩れますので触れるのはお控えください。最高のお姿で姫様をお迎えしなければなりません」
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