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141.相談が嬉しいわ(SIDEベアトリス)
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*****SIDE ベアトリス
はぁ……思わし気な溜め息を吐くソフィに、私は首を傾げた。疲れているのかしら。
「休憩にしましょうか」
「あ、いえ。そうではなくて……はい」
止めた刺繍の手を動かした彼女は、予定外の位置に針を刺してしまったみたい。諦めて手を休めました。刺繍道具を避けて、彼女はお茶の準備を始めます。その手元が少し覚束ないのは、何か考え事をしているようでした。
熱湯を扱うのに危ないと思いますが、声を掛けた方が危険度が増す可能性もあり、そわそわしながら見守りました。お茶を運んできたソフィを座らせ、私がカップに注ぎます。
「あ、姫様。私が」
「やってみたいの。お願い」
エリクに淹れてあげたいのよ。そう言い訳を付け加えたら、ソフィも諦めました。紅茶のカップに並々と入ってしまったのですが……変ですね。均等にしようと3回に分けて注いだのに。ソフィも3回ずつ注いでいたはずです。私の時だけ量が多いのは何故でしょう。
「姫様、もっと少しずつ入れた方がよろしいですわ」
別のカップを用意して、淹れて見せてもらいます。なるほど、1回に注ぐ量が多過ぎました。失敗を笑い合い、多過ぎた分の紅茶をソーサーに溢します。
ソーサーは本来、熱い紅茶を冷ますために使われたと本で読みました。カップからソーサーへ流して、そこから飲んだとか。冷めるまで待つなり、スプーンでかき回せばいいのでは? と考えましたが、皆がそう思ったから廃れたマナーなのかも知れません。
そんな雑談をした後、微笑んだソフィに尋ねました。
「ねえ、何かあったの? ここ数日、ニルスとよく会ってるみたいね」
執事としてはニルスと呼び捨て、公式の場で大公殿下として参加される際はニルス殿下とお呼びすることになりました。これはエリクの決めたことです。
熱い紅茶を口元に運んだ彼女が、手を揺らしました。熱かったのか、口を手で押さえています。ごめんなさい、タイミングが悪かったわ。謝罪してソフィが落ち着くのを待つ。そういえば、彼女も今は公爵の位を持つ貴族ですね。お陰で一緒にお茶会をすることも増え、楽しいですが……。
「ご相談してもいいでしょうか?」
「ええ、もちろんよ!」
友人はいませんでした。未来の王太子妃候補でありながら、社交は出来ず1人きり。そんな私に出来た親友が相談をしたい、と。嬉しくて声が弾みました。
真剣な顔でソフィはひとつ深呼吸をして、切り出します。私も口元を引き結んで真剣に聞きました。
「この頃、ニルス様とお話しする機会が急に増えました。それで……その、肩や腰に触れられることも増えて。でも私は元平民ですし」
「あら、ニルスも騎士の息子ではなかった?」
一代爵位の騎士の息子なら、現在大公でもソフィとあまり立場は変わらないわ。それに触れられることを気にしているなら、ソフィ自身が断ればいいのよ。でも違うわね、平民だったことを気にするなら……これは私の時と同じかしら?
フォルシオン帝国の皇帝陛下であるエリクに好きと言われて、魔女だからと断った。今の話と似ています。ふふっ、気づいてしまいました。
「ソフィはニルスのことが好きなのね?」
「ち、違います! いえ、違わない? あっ、えっと……その」
真っ赤になって俯いた彼女に、私なりのアドバイスをひとつ。こっそり耳元で囁いたら、目を瞬いた後で首や手まで赤くなりました。ちょっと過激だった?
はぁ……思わし気な溜め息を吐くソフィに、私は首を傾げた。疲れているのかしら。
「休憩にしましょうか」
「あ、いえ。そうではなくて……はい」
止めた刺繍の手を動かした彼女は、予定外の位置に針を刺してしまったみたい。諦めて手を休めました。刺繍道具を避けて、彼女はお茶の準備を始めます。その手元が少し覚束ないのは、何か考え事をしているようでした。
熱湯を扱うのに危ないと思いますが、声を掛けた方が危険度が増す可能性もあり、そわそわしながら見守りました。お茶を運んできたソフィを座らせ、私がカップに注ぎます。
「あ、姫様。私が」
「やってみたいの。お願い」
エリクに淹れてあげたいのよ。そう言い訳を付け加えたら、ソフィも諦めました。紅茶のカップに並々と入ってしまったのですが……変ですね。均等にしようと3回に分けて注いだのに。ソフィも3回ずつ注いでいたはずです。私の時だけ量が多いのは何故でしょう。
「姫様、もっと少しずつ入れた方がよろしいですわ」
別のカップを用意して、淹れて見せてもらいます。なるほど、1回に注ぐ量が多過ぎました。失敗を笑い合い、多過ぎた分の紅茶をソーサーに溢します。
ソーサーは本来、熱い紅茶を冷ますために使われたと本で読みました。カップからソーサーへ流して、そこから飲んだとか。冷めるまで待つなり、スプーンでかき回せばいいのでは? と考えましたが、皆がそう思ったから廃れたマナーなのかも知れません。
そんな雑談をした後、微笑んだソフィに尋ねました。
「ねえ、何かあったの? ここ数日、ニルスとよく会ってるみたいね」
執事としてはニルスと呼び捨て、公式の場で大公殿下として参加される際はニルス殿下とお呼びすることになりました。これはエリクの決めたことです。
熱い紅茶を口元に運んだ彼女が、手を揺らしました。熱かったのか、口を手で押さえています。ごめんなさい、タイミングが悪かったわ。謝罪してソフィが落ち着くのを待つ。そういえば、彼女も今は公爵の位を持つ貴族ですね。お陰で一緒にお茶会をすることも増え、楽しいですが……。
「ご相談してもいいでしょうか?」
「ええ、もちろんよ!」
友人はいませんでした。未来の王太子妃候補でありながら、社交は出来ず1人きり。そんな私に出来た親友が相談をしたい、と。嬉しくて声が弾みました。
真剣な顔でソフィはひとつ深呼吸をして、切り出します。私も口元を引き結んで真剣に聞きました。
「この頃、ニルス様とお話しする機会が急に増えました。それで……その、肩や腰に触れられることも増えて。でも私は元平民ですし」
「あら、ニルスも騎士の息子ではなかった?」
一代爵位の騎士の息子なら、現在大公でもソフィとあまり立場は変わらないわ。それに触れられることを気にしているなら、ソフィ自身が断ればいいのよ。でも違うわね、平民だったことを気にするなら……これは私の時と同じかしら?
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「ソフィはニルスのことが好きなのね?」
「ち、違います! いえ、違わない? あっ、えっと……その」
真っ赤になって俯いた彼女に、私なりのアドバイスをひとつ。こっそり耳元で囁いたら、目を瞬いた後で首や手まで赤くなりました。ちょっと過激だった?
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