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114.予想しなかった告白

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 豪華な晩餐が運ばれる前のテーブルは、大きな花籠が飾られていた。中央に置いて視線を遮るニルスの作戦だろう。うん、豪華さもあるし問題ないね。

 普段は丸テーブルを使う僕だけど、仕事の時は習わしに従う。長方形の長いテーブルは数十人が一緒に食事できる広さがあった。さすがに客人を端と端で分断する失礼は許されない。こちらが先に揚げ足を取られるわけにいかなかった。

 顔は見えるが絶対に手が届かない、絶妙な距離で椅子が用意されている。他の椅子をすべて片付けたのは、いいアイディアだった。普段は使わなくても置いてある椅子を、さり気なく隣室へ運んだようだ。

「トリシャ、先に座ろうか」

「はい」

 ホスト役といえど、僕は皇帝だからね。立って客人を迎える義務はない。長方形のテーブルの頂点に腰掛ける僕から見て左側、すぐ手が届く距離にトリシャの椅子が用意されている。椅子を引いたアレスに微笑んだトリシャが腰を下ろしたのを確認し、マルスに促されて着座した。

 来客を告げる侍従の声に許可を出し、ソフィをエスコートするニルスが一礼する。礼装で固めた彼は柔らかいブラウンを多用していた。ミントグリーンのトリシャを引き立てるつもりだろう。ソフィは山吹色を少し落ち着かせたドレスだ。こちらもトリシャと並ぶと相性がいい。

 最後にまだ妃のいないヨアキム国王が続いた。侍従に椅子を引かれて腰掛けるソフィをエスコートしたニルスが、僕の右側に回った。大公の肩書は伊達ではない。そもそも皇族の僕と一緒に育った彼は、最低限の礼儀は身につけていた。皇位を簒奪した後で、僕と一緒に礼儀作法を徹底的に叩き込まれている。

 ニルスの隣に用意された椅子に落ち着いたヨアキムは、丁寧に柔らかい口調で礼を述べた。突然の参加になったことを詫び、光栄だと締め括る。僕が心配するほどのことはなかったか。

 運ばれる食事を楽しみながら、政が絡まない雑談を続ける。穏やかな笑みを浮かべたトリシャは、視線を僕やソフィの間で行き来させた。時折ヨアキムの話に相槌を打つ余裕もある。完璧な淑女の振る舞いで、デザートまで駆け抜けた。

「皇帝陛下、素晴らしい晩餐です。皇妃殿下の美しさもさることながら……シュルストレーム女公爵ソフィ様に見惚れておりました。ご存知の通り、私に妻はまだおりません」

 まさか?

「シュルストレーム女公爵閣下を口説く権利を、お許しいただきたい」

 予想外の言葉に、反射的にニルスと顔を見合わせた。ソフィが問題なければ……いや、それだとトリシャの侍女が消えてしまう。だが彼女にも幸せになる権利はあって。混乱は一瞬だった。

「申し訳ございません。ソフィは私の婚約者です」

 ニルスが微笑んで断りを入れる。口説く権利は、他者の婚約者に対して皇帝が与えることは出来ない。ニルスとの交渉になり、ソフィがどちらを選ぶかという話にすげ替えられた。目を細めたヨアキムは口元に笑みを浮かべる。

「皇帝陛下の乳兄弟である、ナーリスヴァーラ大公閣下がお相手でしたか。ですが簡単に諦められないのです。恥ずかしながら一目惚れでして……私にもチャンスをいただけないでしょうか」

 苦虫を噛み潰した顔のニルスは、食後の紅茶を口に含んで気持ちを落ち着かせる。驚きすぎて固まったソフィを気遣うトリシャが、困ったような顔で僕を見た。

 ……正直、僕も困ってるんだよ。予想してなかった展開に「そうだね、2人に話をよく聞いてからにしよう」と答えて解散となった。
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