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41.宮廷の片付けは終わった

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 美しい小鳥を飼っているらしい。そんな噂が広まったのは、僕が毎日離宮へ足を運ぶからだ。執務を終えるとすぐに戻るし、食事のたびに離宮へ移動する。噂にならないはずがなかった。

 宮廷ってのは、お喋り雀の巣だ。ひとつ知れば、さらに奥を暴こうとする下種な貴族に、彼女をお披露目する気はなかった。トリシャが僕を受け入れて妻になった後なら……いや、それでも嫌だ。

 素朴な野の花や薬草を中心にした庭は、トリシャのお気に入りだった。彼女の行動は、逐一報告を受けている。もちろん……無粋な来客のリストもね。

 トリシャをこの宮殿に連れ帰って、もう1ヶ月になる。手元にいる最愛の人に手を出したい反面、大切にしたい気持ちもあった。どこまでも透明な彼女の中に、僕が泥を落としてしまったら? そのシミはもう落ちないだろう。恐ろしいと思うより、好ましいと感じてしまう。汚して、二度と僕から離れられないようにしたい。

 我ながら壊れていると思うけど……謁見の広間で玉座に腰掛け、目の前で許しを乞う愚者共を見下ろすのは、今月に入って何人目だろうか。数えることを放棄するくらいの数だね。斜め後ろに控えるニルスに聞けば、すぐに正確な数とリストが出てくるけど。

「陛下の大切な方に手を出すつもりはなく」

「そ、そうです。ただ一目お目通りを」

「お役に立てると思ったのです」

 次々と耳あたりのいい言葉を並べる声は、命乞いの響きを宿して汚い。こうして謝ることになるのに、どうして僕の鳥籠に手を伸ばした? 馬鹿なのかな。

「そう。役に立てるって? 僕の大切な蝶に一目? 冗談じゃないよ。僕がいて彼女に不自由させる筈ないじゃないか。皇帝である僕より、立派な品物を献上できるとでも?」

 思い上がりも甚だしい。いや、言い訳だとしても彼女の為だなんてよく言えたものだね。怒りを増幅させるだけだよ。だって、僕は報告を受けた時から君らを許す気はなかった。

「代々血塗られてきた粛清の壁、そろそろ乾いたかな?」

 くすくす笑いながらニルスに尋ねると、彼は笑顔で返した。

「先日の赤はもう渇いておりますし、鴉に啄まれた器も今朝片付けました」

「さすがニルスだね」

 僕が今日、新たな贄を壁に掛けると分かってたんだね。ふふっと笑い、震える獲物を見下ろす。3人……人と呼ぶのも癪だけど、これだけぶら下げれば静かになるかな。

「纏めて吊るせ」

「「はっ」」

 双子が敬礼し、あっという間に彼らは引き摺られていく。抵抗する物音や罵声が聞こえなくなったところで、受け取ったリストを取り出した。

 ほとんど横線で消されている。その下段にある3人分の名前に横線を引いた。これで処分は一段落した。僕とトリシャとの間に、新しい関係を築く時期だね。

「離宮に戻るよ」

 一礼して付き従う執事と騎士を連れて、僕は足早に宮殿を横切った。皇帝は複数の妻を娶るのが慣例だけど、僕はトリシャしか要らない。本妻は宮殿の王妃の間に住まう決まりがあったけど、それも彼女のために変更した。数百年ぶりの宮廷法改正を終えた今、僕は足場固めが終わった。

 覚悟して、トリシャ。君を本気で口説き落とすから。
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