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36.僕は黙れと言った

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「お呼びと伺い、すぐに参上いたしました」

「黙れ」

 僕は顔を上げると命じたけれど、口を開けとは言ってない。勝手に挨拶を始めるなんて、どれだけ僕は舐められてるのかな。自然と口元に笑みが浮かんだ。うたた寝するように、肘をついて口元を歪めた僕の意を汲んだニルスが動く。

「皇帝陛下、罪状の読み上げに入ります。よろしいでしょうか」

「任せるよ」

 すでに裁決は下っている。君らは従うだけでいい。それ以外は何も望んでなかった。そう、僕が求めるのは罪人が罪を贖うことだけ。君らにそれ以上の価値なんてないじゃないか。

 見せしめにして、多少の抑止力になればいいけど。まあ、貴族にそんなこと求めても無駄だね。自己の利益のために、他者の足を引っ張るのが彼らの日常なんだから。野生の獣より酷い。

「では失礼いたします。離宮整備に伴い、玄関ロビーのシャンデリアへ細工をした罪でデュシャン侯爵家並びにマルロー伯爵家は断絶、暖房器具への爆発物流入でメリメ公爵家も断絶、皇帝陛下に対する襲撃の主犯としてカミュ公爵家は爵位降格。カミュ公爵家に従い暗殺の手配を行った罪で、クレチアン伯爵家とヴィオネ子爵家の爵位降格、パドルー男爵家は爵位剥奪とします」

 面倒くさいな。こんな家柄ばかりで生きてる連中、全員首を刎ねてしまいたい。だが変な前例を作ると、さらに面倒なことになる。僕はね、自分の足元を揺るがす愚帝になる気はない。トリシャに被害が及ぶ可能性が高いから、緩めに手を打とうか。

「そ、そのような!」

「二度目だ、黙れ」

 僕が吐き捨てた声の冷たさに、びくりと肩を震わせて悔しそうに唇を噛む。その程度の覚悟で、よく最高権力者とその妃を敵に回したものだ。軽率さに感心するよ。情報収集もしないで仕掛ける馬鹿は、僕の国に不要だ。

「皇帝陛下並びに妃殿下となられる婚約者様に対する襲撃未遂の罪で、ペロワ伯爵とカンタール国第二王子殿下の身分剥奪。なお、先に挙げた貴族家すべての資産は凍結後、国庫へ納めるものとします。家名断絶の各家当主は即日投獄の上、裁判を経て処断――以上です」

 感情のない声で淡々と告げられた内容に、その場の貴族は半数が崩れ落ちた。だが残りはまだ足掻く。罰が重過ぎる。私は関係ない。部下が勝手にやったこと?

「マルス、アレス」

「「承知いたしました」」

 すらりと剣を抜き放った双子の騎士は、素早く貴族の首を刎ねた。半数ほどの首が落ちた広間で、僕は溜め息を吐く。絨毯を汚してしまったが、赤いから目立たないね。分厚くて豪華な絨毯もたまには役に立つ。

「な、なぜ」

 おや、まだ喋るのか。どれだけ愚かなんだろう。

「僕は黙れと言った。命令に従わない臣下に生存する権利はない」

 これで少しは黙らせることが出来そうだ。震える貴族達をぐるりと見回し、残った罪人に首を傾げた。何か言いたかったんだろう? 言ってごらん。僕のトリシャを狙う正当な理由なんてあるわけないけど……ね。

 あの薬の効果はあと2時間前後。もう少し片付ける時間がありそうだ。

「ニルス、次」

「はい」

 穏やかに一礼して、騎士達に指示を出す。あっという間に、この場の貴族が片付けられた。引き立てられていく貴族の後ろ姿を見ながら、僕はニルスに渡された書類に目を通していく。足元で絨毯が交換され、あっという間に広間は何もなかったように整えられた。

 第二部の始まりだ。
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