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外伝

外伝1−1.そっか、羨ましかったんだ

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 大切な姉様は、婚約破棄で傷つけられた。僕達家族と過ごす時間を犠牲にして王家に尽くしたのに、もう要らないと捨てられたんだ。その後、彼らがどんな末路だったかを聞いても、気持ちはすっきりしなかった。

 狂っていた王妃、平民落ちしたあの女と第一王子、宰相に追い込まれて死んだ国王……地位や財産を取り上げたって、傷ついた姉様の傷は癒えない。そう思った矢先、思わぬ癒し手が現れた。

 カスト兄様だ。ピザーヌ伯爵家の嫡男で一人息子なのに、姉様の為に家督を放棄した。母方のロレッツィ侯爵家の次男になり、騎士の忠誠を誓う。少し癪で意地悪したけど、分かってた。ルナ姉様はカスト兄様が好きだ。僕やお父様、お母様に対する好きとは違うけどね。

 幸せな結婚式を見つめる僕の目は、潤んで涙を落とす。頬を流れる雫は、悲しいのか嬉しいのか分からないんだ。僕の大切な姉様、僕だけの姉様だったのに……でも、カスト兄様はいい奴だ。姉様が幸せなのに邪魔する気はなくて。それでも、負けたような悔しさが残った。

 ぐっと拳を握り、顔を上げたまま涙を零す。これが今の僕の精一杯だった。俯くほど卑屈になれないのは、姉様に習った王太子としての心構えがあるから。涙を拭く気になれないのは、姉様やカスト兄様に気づいて欲しい本音で。それでも祝福している僕もいる。

「これどうぞ」

 隣の女の子が僕にハンカチを差し出した。宰相アナスタージ侯爵家の遠縁と聞いている。僕にはまだ婚約者が決まっていないけど、さすがに一人で立つのはおかしい。先日の夜会でもパートナーを務めてくれた彼女は、穏やかな微笑みを浮かべていた。柔らかい金茶の髪はふわふわと柔らかそうで、緑の瞳が印象的だ。例えるなら、森の木漏れ日みたいな子。

「ありがとう、オリエッタ嬢」

「お姉様が結婚なさったんですもの、泣いてもいいと思うわ。私も年の離れたお兄様が結婚なさって、とても悲しかったわ。でも嬉しくて、素敵なお嫁さんをもらったことが誇らしかった」

 ハンカチのお礼に返ってきた答えに、僕は驚いた。彼女も兄が結婚した。それを悲しくて嬉しいのは分かるけど、誇らしいのか? 目を見開いた僕に、彼女はちらりと視線を向けてからわずかに俯いた。

「あんな素敵な義姉様を選んだ兄様が誇らしくて、選ばれた義姉様を羨んだの」

 私は醜い子でしょう? そう自嘲した彼女の顔から目が離せなくなる。そうだ、僕も同じだ。カスト兄様に大切にされる姉様を誇らしく思う反面、奪われた悔しさが募った。あんな素敵な姉様を妻に出来るカスト兄様を羨ましいとさえ……。

「同じ痛みか。ねえ、明日は暇? 僕は森へ行って、羨ましいと叫んでみる予定だけど……一緒にどうかな」

 不恰好な誘い方だと思う。でもさ、僕も君も飾ったって同じだよ。本音は羨ましくて、悔しくて、取られたと思ってて……でも幸せになって欲しいんだ。

「暇じゃないわ、あなたが誘ってくれたもの」

 天邪鬼なところが姉様とは大違い。なのに、微笑んだ柔らかな口元が似てる。僕は思ったよりシスコンなのかな?
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