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64.厳粛なる貴族会議の実態
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「まず、最初の報告として……」
集まった貴族諸侯を前に、国王リベルトが口を開いた。本日の議題は、新王族のお披露目と夜会についてだった。予定はあっさり変更される。そのことに異議を申し立てる貴族はいなかった。
ジェラルディーナ姫の提案を聞き、貴族達は騒ついた。これは由々しき事態である。一部の若者は声を荒らげて捲し立て、歳を経た者も眉を寄せた。
「なんということだ」
「我らの気持ちが届いておらぬとは」
「それどころか誤解されているぞ」
「是非ともお会いして説明せねばならん!」
「「「そうだ、そうだ」」」
気合いが思わぬ方向へずれ、ジェラルディーナに直接会おうと盛り上がる諸侯に対し、リベルトはぐさりと杭を刺した。もう釘では追いつかない。杭の太さがなければ、彼らの暴走は止まらないだろう。
「お披露目の夜会まで会わせる気はない」
ぴしゃんと線を引いて希望を潰した。傷付いたと全身でアピールする貴族に、リベルトは兄譲りの黒い笑みで応じる。
「さて……対策を考えるとしよう」
この場に集まった貴族は、前国王から離反した者ばかりだった。シモーニ公爵派と呼ばれた貴族はもちろん、あの婚約破棄騒動で離反しシモーニに忠誠を誓った一族もいる。ロレンツィ侯爵家率いるピザーヌ伯爵家や、元宰相アナスタージ侯爵家が含まれる貴族連合は、名称を中立派としていた。
実際は寝返り派を名乗ろうとして、みっともないと止められた経緯がある。本人達がいたって真面目にその名称を選んだあたり、かなり重症だった。
「我ら一族は、姫の温情を忘れておりません。あの時の助けは本当に……領地の数多の命を救いました」
「舞踏会で侮辱された我が娘を救った姫の優しさは、未来永劫、子々孫々まで語り継ぐ予定ですぞ」
「なにを! シモーニ公爵家の助けにより立て直した我が家に、姫は新たな産業を与えてくださった。そのご恩はこれからお返しする予定なのだ。邪魔をするな」
「それなら当家の方が……!」
盛り上がる議場で、リベルトはにやにやと口元が緩むのを手で覆っていた。隠さなくては、国王の威厳とやらが吹き飛ぶ。自覚はあるが、嬉しいのだから仕方ない。ここに兄上がいなくて良かった。
「では反対意見はないのか?」
「「「「反対」」」」
一斉に否決の札が上がった。それからどうするべきか、貴族達の間で様々な意見と案が飛び交った。活発な議論を纏めながら、リベルトは頬杖をついて呟く。
「私が国王になるより、ルナを女王にした方がいいんじゃないか?」
「賛成」
「あ、その案もいいですね」
思わぬ裏切り者が出た。側近から手が上がり、あっという間に集まった貴族が賛成札を手に取る。
「ルナを説得できるならいいぞ」
「あ、無理です」
「難しいですな」
一斉に札が下がった。結論は宿題として持ち帰ることになり、明日の議論で決まる予定だ。これほど愛される娘であることが誇らしく、浮かれた足取りでリベルトは執務室へ戻った。その直後、兄アロルドとルナが二人でお茶を飲んだと聞き、羨ましさに書類を噛み締めて叱られる。
「リベルト、そなたは王になったのだぞ」
「兄上、ずるい」
会話にならない兄弟喧嘩は、アロルドの勝利で終わったとか。詳細を知る執事ランベルトは口を噤み、当事者以外に知る者はいない。
集まった貴族諸侯を前に、国王リベルトが口を開いた。本日の議題は、新王族のお披露目と夜会についてだった。予定はあっさり変更される。そのことに異議を申し立てる貴族はいなかった。
ジェラルディーナ姫の提案を聞き、貴族達は騒ついた。これは由々しき事態である。一部の若者は声を荒らげて捲し立て、歳を経た者も眉を寄せた。
「なんということだ」
「我らの気持ちが届いておらぬとは」
「それどころか誤解されているぞ」
「是非ともお会いして説明せねばならん!」
「「「そうだ、そうだ」」」
気合いが思わぬ方向へずれ、ジェラルディーナに直接会おうと盛り上がる諸侯に対し、リベルトはぐさりと杭を刺した。もう釘では追いつかない。杭の太さがなければ、彼らの暴走は止まらないだろう。
「お披露目の夜会まで会わせる気はない」
ぴしゃんと線を引いて希望を潰した。傷付いたと全身でアピールする貴族に、リベルトは兄譲りの黒い笑みで応じる。
「さて……対策を考えるとしよう」
この場に集まった貴族は、前国王から離反した者ばかりだった。シモーニ公爵派と呼ばれた貴族はもちろん、あの婚約破棄騒動で離反しシモーニに忠誠を誓った一族もいる。ロレンツィ侯爵家率いるピザーヌ伯爵家や、元宰相アナスタージ侯爵家が含まれる貴族連合は、名称を中立派としていた。
実際は寝返り派を名乗ろうとして、みっともないと止められた経緯がある。本人達がいたって真面目にその名称を選んだあたり、かなり重症だった。
「我ら一族は、姫の温情を忘れておりません。あの時の助けは本当に……領地の数多の命を救いました」
「舞踏会で侮辱された我が娘を救った姫の優しさは、未来永劫、子々孫々まで語り継ぐ予定ですぞ」
「なにを! シモーニ公爵家の助けにより立て直した我が家に、姫は新たな産業を与えてくださった。そのご恩はこれからお返しする予定なのだ。邪魔をするな」
「それなら当家の方が……!」
盛り上がる議場で、リベルトはにやにやと口元が緩むのを手で覆っていた。隠さなくては、国王の威厳とやらが吹き飛ぶ。自覚はあるが、嬉しいのだから仕方ない。ここに兄上がいなくて良かった。
「では反対意見はないのか?」
「「「「反対」」」」
一斉に否決の札が上がった。それからどうするべきか、貴族達の間で様々な意見と案が飛び交った。活発な議論を纏めながら、リベルトは頬杖をついて呟く。
「私が国王になるより、ルナを女王にした方がいいんじゃないか?」
「賛成」
「あ、その案もいいですね」
思わぬ裏切り者が出た。側近から手が上がり、あっという間に集まった貴族が賛成札を手に取る。
「ルナを説得できるならいいぞ」
「あ、無理です」
「難しいですな」
一斉に札が下がった。結論は宿題として持ち帰ることになり、明日の議論で決まる予定だ。これほど愛される娘であることが誇らしく、浮かれた足取りでリベルトは執務室へ戻った。その直後、兄アロルドとルナが二人でお茶を飲んだと聞き、羨ましさに書類を噛み締めて叱られる。
「リベルト、そなたは王になったのだぞ」
「兄上、ずるい」
会話にならない兄弟喧嘩は、アロルドの勝利で終わったとか。詳細を知る執事ランベルトは口を噤み、当事者以外に知る者はいない。
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