51 / 79
51.やっと娘を取り戻せるわ
しおりを挟む
私の可愛い娘が戻って来る。それもパトリスのお嫁さんとして。私と同じブラウンの髪に、優しい緑の瞳だと聞いたわ。間違いなく私の娘よ。
――母上そっくりの愛らしいご令嬢で、ひと目見て姉上だと分かりました。ですが伯爵家で暮らして来られた方なので、僕の妻として来ていただく予定です――
何度も教えてもらったわ。パトリスが大切にするルーナ、私の娘になってくれるの。手を離した経緯は覚えていないけれど、パトリスは「姉上を魔の手から守ろうと逃したのですよ」と言った。
そうね、私は毒を盛られたから。あのハーブティで、可愛いルーナを奪われてしまうところだった。あの子が無事に成長できるよう、伯爵家に預けて……あら、どうしてお兄様に預けなかったのかしら。
「母上、お忘れですか? 侯爵家は実家なので、バレてしまうからですよ」
答えはいつもパトリスがくれる。ええ、それが正しいの。可愛いルーナは、身分を隠すために「ナタリア」と名乗っているのよね。きちんと覚えました。
「私のルーナはまだ?」
「ナタリアは明日到着しますよ」
穏やかに微笑むパトリスは、離れの手配を終えたらしい。ルーナを迎える部屋も整えたというので、後で見せてもらわなくちゃ。足りない宝石やドレスは、私が買い足してあげなくてはね。
「ええ、ナタリアは傷つきやすいので、優しく愛してください」
「わかったわ。繊細な子なのね」
微笑んで息子に頷く。パトリスは私を大切にする優しい子だわ。息の詰まる王宮から実家へ戻れるよう手配して、大嫌いな夫から離した。何より、大切な私のルーナに会う機会を与えてくれる。
一晩寝たら、あの子を抱き締めることが叶う。望んでも届かなった手が、ようやく娘に触れるのだわ。気持ちが昂って眠れそうにないわね。
「いいですか? 姉上をナタリアと呼んでください。ルーナは仮の名ですから」
「ええ。間違わないようにしなくては、泣かせてしまうわね」
弟と姉は結婚できたかしら? ふとそんな疑問が口をつくけれど、すぐに吹き飛んでしまった。大丈夫よ、すべてパトリスに任せておけばいい。
微笑む私をみて、兄は複雑そうな顔をした。悲しみを堪えるようで、諦めを含んだような。もしかしたら、私が離縁したせいかしら?
「お兄様、ごめんなさいね。私、出戻ってしまったけど」
「ああ、問題ない。リーディアが幸せなら、何も心配しなくていいんだ。この屋敷で昔のように暮らそう」
お母様やお父様はすでにお亡くなりになったけれど、お兄様がいてくれて良かったわ。懐かしい実家の自室で、私は笑顔を振りまいた。だって、この家での私の役割はもう……このくらいしかないのだもの。
**********************
新作【愛してないなら触れないで】22:10更新
「前世」で夫に殺された。結婚式当日に戻った花嫁ローザは初夜に花婿を拒む。
だが記憶を持ってタイムリープしたのは、ローザだけではなかった!?
――母上そっくりの愛らしいご令嬢で、ひと目見て姉上だと分かりました。ですが伯爵家で暮らして来られた方なので、僕の妻として来ていただく予定です――
何度も教えてもらったわ。パトリスが大切にするルーナ、私の娘になってくれるの。手を離した経緯は覚えていないけれど、パトリスは「姉上を魔の手から守ろうと逃したのですよ」と言った。
そうね、私は毒を盛られたから。あのハーブティで、可愛いルーナを奪われてしまうところだった。あの子が無事に成長できるよう、伯爵家に預けて……あら、どうしてお兄様に預けなかったのかしら。
「母上、お忘れですか? 侯爵家は実家なので、バレてしまうからですよ」
答えはいつもパトリスがくれる。ええ、それが正しいの。可愛いルーナは、身分を隠すために「ナタリア」と名乗っているのよね。きちんと覚えました。
「私のルーナはまだ?」
「ナタリアは明日到着しますよ」
穏やかに微笑むパトリスは、離れの手配を終えたらしい。ルーナを迎える部屋も整えたというので、後で見せてもらわなくちゃ。足りない宝石やドレスは、私が買い足してあげなくてはね。
「ええ、ナタリアは傷つきやすいので、優しく愛してください」
「わかったわ。繊細な子なのね」
微笑んで息子に頷く。パトリスは私を大切にする優しい子だわ。息の詰まる王宮から実家へ戻れるよう手配して、大嫌いな夫から離した。何より、大切な私のルーナに会う機会を与えてくれる。
一晩寝たら、あの子を抱き締めることが叶う。望んでも届かなった手が、ようやく娘に触れるのだわ。気持ちが昂って眠れそうにないわね。
「いいですか? 姉上をナタリアと呼んでください。ルーナは仮の名ですから」
「ええ。間違わないようにしなくては、泣かせてしまうわね」
弟と姉は結婚できたかしら? ふとそんな疑問が口をつくけれど、すぐに吹き飛んでしまった。大丈夫よ、すべてパトリスに任せておけばいい。
微笑む私をみて、兄は複雑そうな顔をした。悲しみを堪えるようで、諦めを含んだような。もしかしたら、私が離縁したせいかしら?
「お兄様、ごめんなさいね。私、出戻ってしまったけど」
「ああ、問題ない。リーディアが幸せなら、何も心配しなくていいんだ。この屋敷で昔のように暮らそう」
お母様やお父様はすでにお亡くなりになったけれど、お兄様がいてくれて良かったわ。懐かしい実家の自室で、私は笑顔を振りまいた。だって、この家での私の役割はもう……このくらいしかないのだもの。
**********************
新作【愛してないなら触れないで】22:10更新
「前世」で夫に殺された。結婚式当日に戻った花嫁ローザは初夜に花婿を拒む。
だが記憶を持ってタイムリープしたのは、ローザだけではなかった!?
123
お気に入りに追加
5,506
あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます
衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。
婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。
シェリーヌは16年過ごした国を出る。
生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。
第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。
第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。28日の更新で完結します。

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです
神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。
そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。
アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。
仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。
(まさか、ね)
だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。
――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。
(※誤字報告ありがとうございます)
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

死にかけ令嬢の逆転
ぽんぽこ狸
恋愛
難しい顔をしたお医者様に今年も余命一年と宣告され、私はその言葉にも慣れてしまい何も思わずに、彼を見送る。
部屋に戻ってきた侍女には、昨年も、一昨年も余命一年と判断されて死にかけているのにどうしてまだ生きているのかと問われて返す言葉も見つからない。
しかしそれでも、私は必死に生きていて将来を誓っている婚約者のアレクシスもいるし、仕事もしている。
だからこそ生きられるだけ生きなければと気持ちを切り替えた。
けれどもそんな矢先、アレクシスから呼び出され、私の体を理由に婚約破棄を言い渡される。すでに新しい相手は決まっているらしく、それは美しく健康な王女リオノーラだった。
彼女に勝てる要素が一つもない私はそのまま追い出され、実家からも見捨てられ、どうしようもない状況に心が折れかけていると、見覚えのある男性が現れ「私を手助けしたい」と言ったのだった。
こちらの作品は第18回恋愛小説大賞にエントリーさせていただいております。よろしければ投票ボタンをぽちっと押していただけますと、大変うれしいです。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
【完結】婚約破棄された悪役令嬢ですが、魔法薬の勉強をはじめたら留学先の皇子に求婚されました
楠結衣
恋愛
公爵令嬢のアイリーンは、婚約者である第一王子から婚約破棄を言い渡される。
王子の腕にすがる男爵令嬢への嫌がらせを謝罪するように求められるも、身に覚えのない謝罪はできないと断る。その態度に腹を立てた王子から国外追放を命じられてしまった。
アイリーンは、王子と婚約がなくなったことで諦めていた魔法薬師になる夢を叶えることを決意。
薬草の聖地と呼ばれる薬草大国へ、魔法薬の勉強をするために向う。
魔法薬の勉強をする日々は、とても充実していた。そこで出会ったレオナード王太子の優しくて甘い態度に心惹かれていくアイリーン。
ところが、アイリーンの前に再び第一王子が現れ、アイリーンの心は激しく動揺するのだった。
婚約破棄され、諦めていた魔法薬師の夢に向かって頑張るアイリーンが、彼女を心から愛する優しいドラゴン獣人である王太子と愛を育むハッピーエンドストーリーです。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる