【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
42 / 79

42.婚約の申し出と忠誠の狭間で

しおりを挟む
 私の部屋にお父様とお母様が並び、私は困惑しました。弟ダヴィードは仲間はずれにされたと思わないかしら。それに、皆で話すなら談話室の方がよいのでは? いろいろ浮かぶ言葉を飲み込み、用意された紅茶に口に運びます。

「実はね、カスト君から相談を受けたんだ」

 お父様は騎士であるカスト様を「君」とお呼びになるのですね。その部分が気になって、話を半分ほどに聞いておりました。私より茶に近い金髪をかき上げた父の手が、迷いながら膝の上で組まれる。言いづらいことでしょうか。

 お母様はずっと居ても構わないと仰いましたが、お父様のご意見は違うのかも知れません。そうであれば気にせず、口にしてくだればいいのに。

「彼は婚約したいと……その……」

 私を見てお父様は眉尻を下げました。護衛の専属騎士として名乗りを挙げた方が、突然婚約のお話を? イニシャル入りのハンカチを肌身離さずお持ちなら、相思相愛ですね。専属騎士として遠慮なさっているなら不要な気遣いでした。

 お父様は私が傷つくと思われたのでしょう。専属騎士は結婚せず、護衛対象を一番に考える方もおられます。もちろん全員ではなく、そんな義務もないのですけれど。忠誠を誓ったばかりで、別の令嬢と婚約など許さないとお父様が考えたなら……それは逆に私を傷つけますわ。

 縛り付ける気などないのです。

「どう思う?」

「素敵なことだと思いますわ」

 にっこり笑った私に、安堵の表情を浮かべるお父様。ですがお母様は顔を強張らせました。それからお父様の肩を叩きます。結構強い力をお持ちなのか、パシッと派手な音がしました。

「あなた、まったく言葉が足りておりません。私達の可愛いルーナは、カスト様に婚約者がいると思っています。わかりますか? あの腫れた目元は、失恋したと思っての……」

「お、お母様!」

 驚くほど大きな制止の声が出て、自分でびっくりしました。肩を揺らした私の顔が熱くなり、おそらく真っ赤でしょう。食い入るように見つめたお父様が、お母様と私を交互に確認します。徐に笑顔になりました。

「なるほど、わかった。それなら当事者で話をするのが一番だ! 私達は退散するとしよう。私も妻も婚約には賛成だ。それだけは覚えておいてくれ」

 お父様は謎かけのような言葉を残し、立ち上がります。慌ててお見送りに立つ私に、その場でいいと示されました。出ていくお父様とお母様が扉を閉める前に、するりと細身の騎士が入室します。

 カスト様? 未婚の男女となるので、扉は開けたままにしました。侍女が手早く青い花のカップを片付け、金のラインが美しいカップに交換します。お茶の種類も変えたようで、ハーブのすっきりした香りでした。

 まだ顔が腫れているので俯いて、大きめのタオルで顔を隠します。こんな顔を見せるのは恥ずかしい。好きになった人だから、いつも美しく着飾った私を覚えていて欲しいのです。騎士の礼を取って待つカスト様に、座ってくださいとお伝えしました。

 緊張で固まる私の向かいに腰掛けたカスト様は、私より緊張しているみたい。忠誠と愛情は別なので、婚約に反対したりしないと伝えなくてはいけません。

「あの、カスト様」

「ジェラルディーナ様!」

 同時に呼びかけ、同時に固まりました。
しおりを挟む
感想 264

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます

衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。 婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。 シェリーヌは16年過ごした国を出る。 生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。 第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。 第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。28日の更新で完結します。

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

処理中です...