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41.身分不相応な願いを抱きました

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「いま、なんて言ったの?」

 お母様は必死の形相で尋ねますが、私は恥ずかしさから顔を上げられません。こんな娘は恥ずかしい、もういらないと思われたでしょうか。

「恋は素晴らしい感情よ。誰も責める資格はないし、ルーナに好きな人が出来るのは大歓迎だわ。でも……いえ、責めるつもりじゃないの。あなたはロレンツィ侯爵子息カスト様が好きなのね?」

 滲みそうになった涙を瞬きで誤魔化し、お母様の言葉に頷きました。声を出したら震えて、その刺激で涙が落ちてしまいそう。刺繍入りのハンカチを贈られる婚約者がいる方なのに、私の気持ちなんて迷惑だわ。公爵家の令嬢だからと特別扱いされるのは嫌でした。

 貴族は家同士の繋がりで婚約し、婚姻します。それは理解しているから、公爵であるお父様が命じたら、きっとカスト様は逆らえないはず。それは絶対に阻止しなくてはなりません。

「カスト様に告白はしないの?」

「あの方には想う方がおられます」

「間違ってはいないけれど……なぜ拗れてるのかしら」

 小声でお母様が呟いた言葉、前半しか耳に入りませんでした。ショックで後半は遠くなってしまい、唇に歯を立てます。

「話し合ってみたらどう?」

 思い切り首を横に振りました。髪飾りがずれて滑りますが、気にせず強く。面と向かって「好きな人がいる」と言われたら、この弱い心臓は持たない気がしました。私が倒れたら、ご迷惑をお掛けします。

 何より私は、王族の妃に相応しくないと言い渡された身でした。同情する王妃様は第二王子殿下との婚約を口になさいましたが、あれは社交辞令と理解しています。身の程は弁えていますから。

「数年して騒動が収まったら、隣国にでも嫁に参ります。それまでここにいることをお許しください」

 数年だけ愛してください。娘として受け入れてください。その暖かな記憶を抱いて、どこへでも参ります。家のお役に立てるよう、頑張りますから。必死で口にした言葉に絶句した後で、お母様が声をあららげました。

「何を言うの!」

 ごめんなさい。私は身分不相応な願いを……優しくされて甘えてしまった。震える手で離れようとしたのに、さらに強く抱き締められました。強すぎて苦しいくらい。お母様の細い腕のどこに、これほどの強さが秘められていたのでしょう。

「あなたは私の娘、この家にいつまでもいていいの! いつだってシモーニ家はあなたの帰る場所なのよ。離れるなんて許さないわ! ええ、絶対に手を離すものですか」

 お母様の仰った意味が、じわりと胸に沁みてきました。私はシモーニの恥ではなく、娘として受け入れて貰えたのですか? 王家に嫁ぐこともできず、戻された愚かな娘です。不出来だと烙印を押された荷物を、家族が許してくれるのなら。

 ああ、もう何も望みません。恋も愛も、すべてこの家のために捨てましょう。私はお母様やお父様の愛情を受け、弟ダヴィードを盛り立てる家の礎になりたい。

「あなたが結婚したいなら、婿を取ります。領地なんて余ってるの。暮らしていくのに不自由はさせないわ。そうしましょう、ね? ルーナ」

 一気に話を進めるお母様の大きな声に、ノックが重なりました。

「お嬢様、旦那様がお見えです」
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