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31.胸の空白を埋める宝物の積み重ね

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 穏やかに過ぎていく数日は、胸に空いた穴を塞ぐ宝物のようでした。最初の夜は伯父様達も含めて集まってくれた分家の方々や家族と食事を済ませ、甘える弟と並んで眠る。もう絵本を読み聞かせる歳ではないけれど、王宮での小さな話をいくつか話した。

 ダヴィードの勉強や剣術、分家の跡取り達と過ごした休暇の話に頬が緩む。次はお姉さまもご一緒にと誘われ、社交辞令でないことを祈りつつ頷いた。疲れて眠ったダヴィードの肩まで包んで、隣で目を閉じる。久しぶりの実家は余所余所しいかと思ったけれど、優しい。

 翌日は約束通りお母様と家具を選んだ。使われていない家具の中に、美しいセットを見つける。ベッドからドレッサーや応接セットまで、すべて同じ素材で統一されていた。白い木目を生かし、苺の葉や実を彫刻した逸品だ。

「私の嫁入りの道具だったの。よかったら、ルーナが使ってちょうだい」

「ですが……」

 花嫁道具であったなら、お母様の大切な思い出ではありませんか? 辞退しようとした私に、お母様は思わぬことを仰いました。

「嫁いで来たら、あの人が全部用意してくれていたのよ。それで持ってきたこれを使うと言えなくて、執事に頼んでこっそり隠したの」

 お父様には内緒よ。そう囁いたお母様の微笑みは幸せそうで、この家具を見るたび思い出す甘酸っぱい記憶なのだと理解しました。使わないのはもったいない。でも準備して到着を心待ちにした夫の気持ちも大切。お母様はお父様を愛しておられるのですね。

 幸せな結婚をして、その陰でこうしてしまわれた婚礼家具達。丁寧に仕上げられた彫刻は美しく、繊細で心惹かれました。お母様が重ねて勧めてくださるので、こちらの家具を譲り受けて使うことにします。人工的な着色ではなく、天然の素材で淡く色を重ねた家具はその日のうちに運び込まれました。

 代わりに幼い頃に使用した家具が片付けられます。思い出の品なので、入れ替わりに保管するのだとか。もう着られない小さなドレスや靴は、分家の幼い少女達に分け与えることにしました。型遅れを心配しましたが、質の良いドレスなので飾りを付け替えて使用できるそうです。

 大切に保管してくれた両親や侍女達に感謝しながら、ドレスを選ぶ少女達を見守りました。お父様が王都の屋敷を引き払ったことで、多くの分家が領地に戻っています。今年の社交シーズンの王宮は、少し寂しいかも知れませんね。

「本当に貰っても構わないのですか?」

 目を輝かせてオレンジ色のドレスを抱き締める少女に視線を合わせ、笑顔で「差し上げるから、大切に着てね」とお願いしました。まだ礼儀作法も身についていない年齢なのに、とても魅力的に見えます。もしかしたら、淑女に近づくほど魅力は半減するのでしょうか。

「お茶を淹れたわ、休憩にしましょう」

 お母様の一声で、少女達は連れてきた侍女にドレスを預けます。行儀よく並んで椅子に座り、用意された茶菓子に目を輝かせました。和やかで、礼儀より美味しく食べることを優先したお茶会は、王宮で行ったどのお茶会より楽しくて――私は自然に声を立てて笑っていました。
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