上 下
23 / 79

23.素敵な騎士様からいただきましたの

しおりを挟む
 馬車が一番足が遅いため、周囲を伯父様の軍が守る形で移動します。その分だけ荷物が積めるので、大所帯の野営も問題なく過ごせました。野生の兎が遊ぶ原っぱで食事をして、伯父様の領地であるメーダ伯爵家に入ります。

 アロルド伯父様は結婚しておられません。そのため、メーダ伯爵家の家督は分家の中から選ぶ予定になっています。現時点で3人ほどの少年が候補に挙がっており、伯父様の厳しい教育に耐えているそうです。お迎えに出てくれた彼らに微笑みかけて一礼し、私はお父様と一緒に与えられた部屋で寛ぎました。

 ここでランベルト達が到着するのを待つつもりです。家の一切を取り仕切る執事が最後に家を出る。彼は馬に乗ってこちらに向かっているでしょう。その間にゆっくり休むつもりでした。伯父様はなぜかピリピリして、釣られたのか屋敷内も緊張感が漂っています。

「お父様、伯父様はどうなさったのでしょうか」

「心配なのだろう。ようやく本家の大切な娘が戻ったのだから、安全に過ごして欲しいのではないか?」

 お父様、何か隠しておられますね。厳しかった王子妃教育で身に着けた教養以外に、こういった交渉面での経験や勘は自信がありました。じっと見つめますが、お父様は笑顔で私の目を見つめ返します。そこまでして隠したいのなら、尋ねることはございません。お任せします。

 目を逸らした私は、運ばれたドレスの中から紫の濃淡が美しいものを選びました。体に当てて、裾を翻してくるりと回ります。

「今夜はこれを着ようと思いますの」

「瞳の色に合わせたドレスだね、よく似合っている。誰がプレゼントしたのかな?」

 元婚約者は私にドレスを贈りませんでした。ですから私が持っているドレスは、お父様が贈ってくださったものばかりです。直接顔を合わせず仕立てた服であっても、お父様は色や形を把握しているようでした。執事のランベルトが知らせたのでしょう。

 着用した私の肖像画を贈り返したこともありました。そのお父様の記憶にないドレスですもの。気になるでしょう? うふふ……笑みが零れます。

「素敵な騎士様からいただきましたの」

「騎士!? どこの誰だ? いや、家柄など関係ない。すぐに連れてきなさい!」

 お父様が慌てた様子で立ち上がったところに、侍女が茶菓子をテーブルに置きました。左側の扉が開き、紫のドレスを贈った素敵な騎士様が登場です。まるでタイミングを合わせたみたいで、くすくすと笑ってしまいました。

「こちらの騎士様ですわ」

「……あ、兄上!?」

「なんだ。どうした……ああ、そのドレスを着てくれるのか。嬉しいことだ、レディ。ぜひエスコートの栄誉もいただきたいな」

「お父様がお許しくだされば、ぜひ」

 後ろで合図を貰った侍女が足早に出ていく。きっと厨房に夕食の食材変更ね。だって伯父様は上機嫌な日は鴨肉を好むから、今夜は鴨肉のローストだわ。

 着替えて降りたテーブルで、軽くワインに口を付けてオードブルを終える。スープやサラダを挟んで、メインはやっぱり鴨のロースト。それも立派な丸ごとだった。切り分ける伯父様の手際の良さに微笑む私の横で、お父様が少し笑顔を引きつらせる。

 大丈夫よ、伯父様の腕は折り紙付きですもの。誰より上手に捌いてくださるわ。
しおりを挟む
感想 264

あなたにおすすめの小説

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

奪われたものは、もう返さなくていいです

gacchi
恋愛
幼い頃、母親が公爵の後妻となったことで公爵令嬢となったクラリス。正式な養女とはいえ、先妻の娘である義姉のジュディットとは立場が違うことは理解していた。そのため、言われるがままにジュディットのわがままを叶えていたが、学園に入学するようになって本当にこれが正しいのか悩み始めていた。そして、その頃、双子である第一王子アレクシスと第二王子ラファエルの妃選びが始まる。どちらが王太子になるかは、その妃次第と言われていたが……

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

処理中です...