72 / 100
72.王家がなければ王国ではない
しおりを挟む
私の反応で答えを探った未来の夫は、現在、とてもご機嫌だった。尋ねるのが怖い気もするけれど、知らないのも不安だ。数回のチャレンジを経て、気合いを入れ直した私は微笑んだ。隣に座るルーカス様の手が、私の手を握る。
「ルーカス様、お仕事は順調でしたか?」
「ああ、問題ない」
エルヴィ様が居られるからか、口が硬い。察したように、彼女はすっと立ち上がった。こういう気配りは、やっぱり王族教育の賜物かな。
「侯爵閣下、お借りしている客間に下がらせていただきます」
にっこりと笑顔で挨拶して、ヘンリの手を取って一礼する。子爵の格に合わない、見事すぎるカーテシーを披露して。練習しても、あのレベルに到達できる自信がないわ。
茶器の載ったワゴンを押し、ハンナが温室を出る。これで人払い状態になった。問いかける眼差しを受け止め、ルーカス様は当然のように距離を詰めた。
「あ、あの……近く、ないですか?」
「内緒の話だ。当然だろう?」
逆に問い返され、そうかと頷く。機密事項だもの、万が一があってはいけない。自分からもいそいそと距離を詰めたら、驚いた顔をされた。首を傾げると、なんでもないと笑って引き寄せられる。
耳元に唇を寄せて、美声が顛末を語り出した。これって拷問に近いわね。こんな声でご褒美をもらったら、機密でも何でも話しちゃいそう。顔もいいけれど、声もいいのは反則だ。
「結論から言うと、アベニウス王国は消滅した」
「しょ?!」
「しぃ。最後まで聞いて」
慌てて物理的に口を塞ぎ、彼に頷く。アベニウス王国消滅は、物理的ではない。正確には王家の終了だろうか。ただ「アベニウス王国」という国は、もう存在しなかった。王がいないからだ。
「革命により国民主導で国を興し、国名は変更するらしい」
王家の大半は処刑されたとか。物騒な話だけれど、他人事ではなかった。この国だって、国王様や宰相のルーカス様が舵取りを間違えれば、同じように革命が起きる可能性がある。
「以前から計画されていた叛逆は、大成功してね。もちろん我が国以外にも周辺国が、かなり支援をした」
自国に飛び火しないよう注意しながらも、アベニウス王国の振る舞いに眉を顰めていた国々は協力体制を敷いた。四面楚歌……ふと浮かんだ言葉は正しいかも。
詳細は私が知らなくてもいい。欲しいのは結果だった。王国が滅んだことで、王女だったエルヴィ様を狙う人は減る。もちろん私やルーカス様との政略結婚も、完全に消えた。第九王子とやらも、処刑対象なのだろうか。生死に関係なく、会う機会はないと思うけれど。
「これで邪魔者はすべて排除したな」
にやりと笑う、その黒い笑顔が好き。憧れていた頃は知らなかった一面も、優しく私を気遣う所作も、すべてが「ルーカス・J・プルシアイネン」を構成する要素なのだから。私は全部ひっくるめて彼を好きになった。ずっと好きでいるだろう。
「結婚式、楽しみですね」
満面の笑みで肩に寄りかかれば、ルーカス様は優しく引き寄せた。自然と顔が近づいて……あと少し。
「お嬢様!」
……ハンナ、わかってるわ。結婚式までお預けと言いたいんでしょう? あと数秒、間に合わなければよかったのに。
「ルーカス様、お仕事は順調でしたか?」
「ああ、問題ない」
エルヴィ様が居られるからか、口が硬い。察したように、彼女はすっと立ち上がった。こういう気配りは、やっぱり王族教育の賜物かな。
「侯爵閣下、お借りしている客間に下がらせていただきます」
にっこりと笑顔で挨拶して、ヘンリの手を取って一礼する。子爵の格に合わない、見事すぎるカーテシーを披露して。練習しても、あのレベルに到達できる自信がないわ。
茶器の載ったワゴンを押し、ハンナが温室を出る。これで人払い状態になった。問いかける眼差しを受け止め、ルーカス様は当然のように距離を詰めた。
「あ、あの……近く、ないですか?」
「内緒の話だ。当然だろう?」
逆に問い返され、そうかと頷く。機密事項だもの、万が一があってはいけない。自分からもいそいそと距離を詰めたら、驚いた顔をされた。首を傾げると、なんでもないと笑って引き寄せられる。
耳元に唇を寄せて、美声が顛末を語り出した。これって拷問に近いわね。こんな声でご褒美をもらったら、機密でも何でも話しちゃいそう。顔もいいけれど、声もいいのは反則だ。
「結論から言うと、アベニウス王国は消滅した」
「しょ?!」
「しぃ。最後まで聞いて」
慌てて物理的に口を塞ぎ、彼に頷く。アベニウス王国消滅は、物理的ではない。正確には王家の終了だろうか。ただ「アベニウス王国」という国は、もう存在しなかった。王がいないからだ。
「革命により国民主導で国を興し、国名は変更するらしい」
王家の大半は処刑されたとか。物騒な話だけれど、他人事ではなかった。この国だって、国王様や宰相のルーカス様が舵取りを間違えれば、同じように革命が起きる可能性がある。
「以前から計画されていた叛逆は、大成功してね。もちろん我が国以外にも周辺国が、かなり支援をした」
自国に飛び火しないよう注意しながらも、アベニウス王国の振る舞いに眉を顰めていた国々は協力体制を敷いた。四面楚歌……ふと浮かんだ言葉は正しいかも。
詳細は私が知らなくてもいい。欲しいのは結果だった。王国が滅んだことで、王女だったエルヴィ様を狙う人は減る。もちろん私やルーカス様との政略結婚も、完全に消えた。第九王子とやらも、処刑対象なのだろうか。生死に関係なく、会う機会はないと思うけれど。
「これで邪魔者はすべて排除したな」
にやりと笑う、その黒い笑顔が好き。憧れていた頃は知らなかった一面も、優しく私を気遣う所作も、すべてが「ルーカス・J・プルシアイネン」を構成する要素なのだから。私は全部ひっくるめて彼を好きになった。ずっと好きでいるだろう。
「結婚式、楽しみですね」
満面の笑みで肩に寄りかかれば、ルーカス様は優しく引き寄せた。自然と顔が近づいて……あと少し。
「お嬢様!」
……ハンナ、わかってるわ。結婚式までお預けと言いたいんでしょう? あと数秒、間に合わなければよかったのに。
15
お気に入りに追加
241
あなたにおすすめの小説
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
愛を語れない関係【完結】
迷い人
恋愛
婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。
そして、時が戻った。
だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
〜花が良く育つので「緑の手」だと思っていたら「癒しの手」だったようです〜
王都の隅っこで両親から受け継いだ花屋「ブルーメ」を経営するアンネリーエ。
彼女のお店で売っている花は、色鮮やかで花持ちが良いと評判だ。
自分で花を育て、売っているアンネリーエの店に、ある日イケメンの騎士が現れる。
アンネリーエの作る花束を気に入ったイケメン騎士は、一週間に一度花束を買いに来るようになって──?
どうやらアンネリーエが育てている花は、普通の花と違うらしい。
イケメン騎士が買っていく花束を切っ掛けに、アンネリーエの隠されていた力が明かされる、異世界お仕事ファンタジーです。
*HOTランキング1位、エールに感想有難うございました!とても励みになっています!
※花の名前にルビで解説入れてみました。読みやすくなっていたら良いのですが。(;´Д`)
話の最後にも花の名前の解説を入れてますが、間違ってる可能性大です。
雰囲気を味わってもらえたら嬉しいです。
※完結しました。全41話。
お読みいただいた皆様に感謝です!(人´∀`).☆.。.:*・゚
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる