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68.飛び起きたり、襲ってきたりしない?
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扉の外で金属が打ち合う音、争う物音、誰かの苦しそうな呻き声……やがて物音が途絶えた。どきどきしながら扉を見つめる。まさか、王宮騎士団の副団長が、負けてないわよね?
「開けてください」
少し硬い声だけれど、間違いなくエサイアス様の声だった。先にハンナが確認し、そっと抜け出る。続いて私も小部屋を出た。
小部屋に窓がなかったため、暗闇に慣れた目に月明かりが眩しい。目を細めて光を調整し、それでも足りずに手で目元を覆った。ゆっくり慣らして、ようやく周囲の状況を確認する。倒れている黒い服装の男が三人、駆けつけた騎士が二人……。
「……いろいろ言いたいことはありますが、呑み込みましょう」
エサイアス様の声が地を這っていた。もしかして、扉を閉めたから? でもあの場合、守られる立場の私達が人質にされるより、マシだったんじゃないかな。顔を引き攣らせて会釈した。すみませんでした。声に出さず、気持ちを込めておく。
「ハンナ……」
あなた、変態に捕まってるわよ? 指摘できなくて、曖昧に呼んだ。私の大切な侍女が、後ろからがっちりホールドされている。それも顔面の美しい騎士様に……。屈強と呼ぶより細身だけれど、副団長の肩書きは伊達じゃないはず。きっと強いはずだ。
ハンナは特に逃げる様子もなく、けれど受け入れた感じでもない。ただ無視していた。でも後ろのエサイアス様は嬉しそう。まあ今まで全力で逃げられていたんだから、留まってくれるだけで幸せなのだろう……たぶん。
「お嬢様、屋敷内は落ち着いたようです」
「え、ええ。それならよかったわ」
すぐに階下に降りて、エルヴィ様のご無事を確認しなくては。これは屋敷の主人であるルーカス様の代理で、私がするべきことよね。ヴェールを外して顔も知れ渡ったので、そろそろ未来の侯爵夫人の仕事をしよう。
目が慣れると、廊下に転がる暗殺者の死体に視線がいく。まさか横を通ったら飛び起きたり、襲ってきたりしないわよね? ちゃんと息の根止めたの? どう確認するべきか迷う私の様子に、ハンナが「エサイアス様、安全確認はしましたか」と尋ねた。
「安全? 私が隣にいる限り、あなたに危害を加えられる者はいません」
「私ではなく、お嬢様に対してです。同じように守ってください」
「……ハンナの命令なら」
仕方なさそうに、本当に嫌そうな口調で同意された。申し訳ないっすね。そんな言葉が口から出そうになったが、頑張って噛み締めた。奥歯でよく噛んで、外に出ないよう諭す。
ここで変な反論したら、私の命が危ない。「間に合わなかったんです」と悲しそうな顔をしながら、ルーカス様に報告するのだろう。嫌な未来が見えてしまった。占いカードがなくても、直感は大事にする。
「プルシアイネン侯爵家の騎士として、全力でお守りします」
駆けつけた二人の騎士に前後を挟まれ、私はおずおずと死体の間を進んだ。幸い、飛び起きる敵はいない。つまり全員が死体のようだ。ちらりと振り返れば、エサイアス様は最後尾でハンナにベタベタ触れていた。
時々、ハンナの容赦ない反撃で、腹部に肘打ちを喰らっている。幸せそうなので、何も見なかったことにした。うん、私は変態行為を見ていない。階段を降りた先で、まず執事に遭遇した。
「無事でよかったわ」
声をかけた彼の報告で、屋敷の人的被害はなかったと知り、私は胸を撫で下ろした。
「開けてください」
少し硬い声だけれど、間違いなくエサイアス様の声だった。先にハンナが確認し、そっと抜け出る。続いて私も小部屋を出た。
小部屋に窓がなかったため、暗闇に慣れた目に月明かりが眩しい。目を細めて光を調整し、それでも足りずに手で目元を覆った。ゆっくり慣らして、ようやく周囲の状況を確認する。倒れている黒い服装の男が三人、駆けつけた騎士が二人……。
「……いろいろ言いたいことはありますが、呑み込みましょう」
エサイアス様の声が地を這っていた。もしかして、扉を閉めたから? でもあの場合、守られる立場の私達が人質にされるより、マシだったんじゃないかな。顔を引き攣らせて会釈した。すみませんでした。声に出さず、気持ちを込めておく。
「ハンナ……」
あなた、変態に捕まってるわよ? 指摘できなくて、曖昧に呼んだ。私の大切な侍女が、後ろからがっちりホールドされている。それも顔面の美しい騎士様に……。屈強と呼ぶより細身だけれど、副団長の肩書きは伊達じゃないはず。きっと強いはずだ。
ハンナは特に逃げる様子もなく、けれど受け入れた感じでもない。ただ無視していた。でも後ろのエサイアス様は嬉しそう。まあ今まで全力で逃げられていたんだから、留まってくれるだけで幸せなのだろう……たぶん。
「お嬢様、屋敷内は落ち着いたようです」
「え、ええ。それならよかったわ」
すぐに階下に降りて、エルヴィ様のご無事を確認しなくては。これは屋敷の主人であるルーカス様の代理で、私がするべきことよね。ヴェールを外して顔も知れ渡ったので、そろそろ未来の侯爵夫人の仕事をしよう。
目が慣れると、廊下に転がる暗殺者の死体に視線がいく。まさか横を通ったら飛び起きたり、襲ってきたりしないわよね? ちゃんと息の根止めたの? どう確認するべきか迷う私の様子に、ハンナが「エサイアス様、安全確認はしましたか」と尋ねた。
「安全? 私が隣にいる限り、あなたに危害を加えられる者はいません」
「私ではなく、お嬢様に対してです。同じように守ってください」
「……ハンナの命令なら」
仕方なさそうに、本当に嫌そうな口調で同意された。申し訳ないっすね。そんな言葉が口から出そうになったが、頑張って噛み締めた。奥歯でよく噛んで、外に出ないよう諭す。
ここで変な反論したら、私の命が危ない。「間に合わなかったんです」と悲しそうな顔をしながら、ルーカス様に報告するのだろう。嫌な未来が見えてしまった。占いカードがなくても、直感は大事にする。
「プルシアイネン侯爵家の騎士として、全力でお守りします」
駆けつけた二人の騎士に前後を挟まれ、私はおずおずと死体の間を進んだ。幸い、飛び起きる敵はいない。つまり全員が死体のようだ。ちらりと振り返れば、エサイアス様は最後尾でハンナにベタベタ触れていた。
時々、ハンナの容赦ない反撃で、腹部に肘打ちを喰らっている。幸せそうなので、何も見なかったことにした。うん、私は変態行為を見ていない。階段を降りた先で、まず執事に遭遇した。
「無事でよかったわ」
声をかけた彼の報告で、屋敷の人的被害はなかったと知り、私は胸を撫で下ろした。
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