52 / 100
52.あれよあれよと決まる重要事項
しおりを挟む
王女様が引っ越した数日後、私はようやく散歩の許可を取り付けた。安静にと何度も言われ、我慢していたが限界がある。強く押さなければ痛くないし、もう血が出たりもしないんだから。そう説得したのだ。
許可する代わりに、ルーカス様が同行することになった。まだ照れてしまうが、考えてみたら元々ルーカス様のお姿は好きだ。手の届かない人という意味で憧れていたし、ドキドキするのはそのせいだろう。自分を誤魔化している自覚はあるけど、そうしないと顔が見られない。
「さあ、行こうか」
お昼前の暖かい日差しが降り注ぐ庭を歩いた。噴水がある庭って素敵だ。見ていても動きがあるから楽しめる。ただ、子爵家には無理かなと思った。庭の葉が落ちて汚れるだろうし、掃除の手間を想像してしまう。
プルシアイネン侯爵家はお金があるから、気にしたことないよね。今はそこそこ稼いでいるが、子どもの頃は貧乏な方だった。平民の商家の方が豊かな生活していたかも。食事は足りたけれど、甘いお菓子や豪華な食材はなかった。
貧乏根性が染み付いた私は、どうしても贅沢に抵抗がある。そんなお金があるなら、後のために残したほうが……と考えてしまうのだ。さりげなく手を繋ぐルーカス様を見上げ、頬を染める。
「手が赤い」
「日に当たったせいじゃないかと」
ぎこちなく誤魔化した。顔は相変わらずのヴェールで隠している。そういえば、国王陛下の許可でイーリスとリンネアが嫁ぐ形になると聞いたけれど、どうなったんだろう。両方の名前で署名したのが、ちょっと恥ずかしい。
「結婚式だが、二ヶ月後にしようと思う」
二ヶ月はかなり早い。ドレスとか間に合う?
「ドレスも衣装も発注済みだ。間に合わせる」
宰相家の威光とお金が唸るようだ。王女様の結婚はまず籍を入れてしまい、私達のすぐ後でお披露目の式をするらしい。この辺は政のあれこれが絡んで、難しい話のようだった。
「リンネアの結婚披露は、来年くらいですか?」
宮廷占い師を娶って新婚になるのだし、さすがに二人目は一年くらい後よね。そんな確認に、ルーカス様は首を横に振った。
「いや、ついでにリンネアとイーリスが同一人物だと明かすことにした」
「はい?」
「陛下の許可も出ている」
「はぁ……」
間抜けな声が漏れる。私が宮廷占い師だとバレたら、大変なことにならないかな? ただでさえよく狙われるし、子爵とバレたら高位貴族が黙っていない。横から嘴を突っ込む連中が湧いて出そう。
「安心してくれ。君を守り抜くくらいの権力と地位はある。それに、王妃殿下がリンネアの後見を申し出られた」
「……王妃様が」
繰り返しながら、これは私の手に負えない状況だと悟る。国王陛下の許可があって、王妃様が後見に入る。つまり宮廷占い師の顔を表に出す必要があるんだよね。代替わりまで三年近くあるから、その間は狙われる回数が増えそう。
まあ、なるようになるでしょ。ルーカス様と結婚できるんだもん。そのプラス分だけ、マイナスを引き寄せるのは仕方ない。カードの正位置と逆位置みたいなもんよ。
許可する代わりに、ルーカス様が同行することになった。まだ照れてしまうが、考えてみたら元々ルーカス様のお姿は好きだ。手の届かない人という意味で憧れていたし、ドキドキするのはそのせいだろう。自分を誤魔化している自覚はあるけど、そうしないと顔が見られない。
「さあ、行こうか」
お昼前の暖かい日差しが降り注ぐ庭を歩いた。噴水がある庭って素敵だ。見ていても動きがあるから楽しめる。ただ、子爵家には無理かなと思った。庭の葉が落ちて汚れるだろうし、掃除の手間を想像してしまう。
プルシアイネン侯爵家はお金があるから、気にしたことないよね。今はそこそこ稼いでいるが、子どもの頃は貧乏な方だった。平民の商家の方が豊かな生活していたかも。食事は足りたけれど、甘いお菓子や豪華な食材はなかった。
貧乏根性が染み付いた私は、どうしても贅沢に抵抗がある。そんなお金があるなら、後のために残したほうが……と考えてしまうのだ。さりげなく手を繋ぐルーカス様を見上げ、頬を染める。
「手が赤い」
「日に当たったせいじゃないかと」
ぎこちなく誤魔化した。顔は相変わらずのヴェールで隠している。そういえば、国王陛下の許可でイーリスとリンネアが嫁ぐ形になると聞いたけれど、どうなったんだろう。両方の名前で署名したのが、ちょっと恥ずかしい。
「結婚式だが、二ヶ月後にしようと思う」
二ヶ月はかなり早い。ドレスとか間に合う?
「ドレスも衣装も発注済みだ。間に合わせる」
宰相家の威光とお金が唸るようだ。王女様の結婚はまず籍を入れてしまい、私達のすぐ後でお披露目の式をするらしい。この辺は政のあれこれが絡んで、難しい話のようだった。
「リンネアの結婚披露は、来年くらいですか?」
宮廷占い師を娶って新婚になるのだし、さすがに二人目は一年くらい後よね。そんな確認に、ルーカス様は首を横に振った。
「いや、ついでにリンネアとイーリスが同一人物だと明かすことにした」
「はい?」
「陛下の許可も出ている」
「はぁ……」
間抜けな声が漏れる。私が宮廷占い師だとバレたら、大変なことにならないかな? ただでさえよく狙われるし、子爵とバレたら高位貴族が黙っていない。横から嘴を突っ込む連中が湧いて出そう。
「安心してくれ。君を守り抜くくらいの権力と地位はある。それに、王妃殿下がリンネアの後見を申し出られた」
「……王妃様が」
繰り返しながら、これは私の手に負えない状況だと悟る。国王陛下の許可があって、王妃様が後見に入る。つまり宮廷占い師の顔を表に出す必要があるんだよね。代替わりまで三年近くあるから、その間は狙われる回数が増えそう。
まあ、なるようになるでしょ。ルーカス様と結婚できるんだもん。そのプラス分だけ、マイナスを引き寄せるのは仕方ない。カードの正位置と逆位置みたいなもんよ。
13
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました
下菊みこと
恋愛
突然通り魔に殺されたと思ったら望んでもないのに記憶を持ったまま転生してしまう主人公。転生したは良いが見目が怪しいと実親に捨てられて、代わりにその怪しい見た目から宗教の教徒を名乗る人たちに拾ってもらう。
そこには自分と同い年で、神の子と崇められる兄がいた。
自分ははっきりと神の子なんかじゃないと拒否したので助かったが、兄は大人たちの期待に応えようと頑張っている。
そんな兄に気を遣っていたら、いつのまにやらかなり溺愛、執着されていたお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
勝手ながら、タイトルとあらすじなんか違うなと思ってちょっと変えました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる