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40.相思相愛でなんとも初々しい
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優雅さを装ってルーカス様と入場すれば、お客様である王女殿下がまだでほっとする。控え室で待ってもらっているらしい。お待たせしましたと頭を下げ、声がかりを待った。
「ご苦労、本日はアベニウスの王女と面会してもらう。占いはなしだ」
付け加えられた情報に意味があるのかな? よくわからないが頷いて了承する。と同時に、王妃様から注意された。
「侍女達はきちんと仕事をしなかったのかしら? 胸元……」
指差して示され、慌てて確認する。さっきルーカス様が手を突っ込んだから、詰め物がずれていた。ちょっとだけ顔を覗かせた布を、一瞬で押し込む。胸に詰め物はイーリスの日常なので、慣れていた。もふもふと両手で揺らして確認する。
「……っ、げほん……恥じらいを持ちなさい」
父親のような目線で陛下に注意されてしまった。はっとした私はやらかしに気づく。ここには王妃様だけでなく、異性である陛下やルーカス様もいる。侍従や文官も控えており……かなり恥ずかしい仕草だった。
「申し訳、ございません」
照れても見えないのがヴェールのいいところ。子爵令嬢の時にやらかさなくて良かった。少なくとも顔ごと覚えられる不幸は回避できている。いや、出来てないか。ヴェールを被って王宮内を歩くのは、占い師だけの特例だもの。
くつくつと喉を震わせるルーカス様は、陛下の前なので爆笑を我慢した様子。腹を手で押さえているから、明日は筋肉痛だろう。
「もうよいか?」
呆れ半分の陛下に二人で頷いた。合図で王女殿下が入場される。やや俯いてちらちらと視線を送った。ヴェールがあると、こういう場面では本当に便利だ。凝視してもバレにくい。
「アベニウス王国、第五王女エヴェリーナにございます」
綺麗な声の女性だ。年齢は私より二、三歳は上かな? 落ち着いた雰囲気の彼女は、柔らかな笑みを浮かべて会釈した。陛下と王妃様へ優雅な跪礼を披露し、私達に向き直る。
「此度は我が父の我が侭で、ご迷惑をおかけしました。私の無礼な我が侭も聞いてくださるとか、心から感謝しております」
文官や侍従がいるからか、曖昧にぼかした挨拶だ。私は無言で一礼し、ルーカス様も言葉は発しなかった。すぐに別室へ移動となる。謁見の間を使っておかないと、公式記録が残らないから仕方ないけれど面倒ね。
「私的な場だ、寛がれよ」
陛下のお許しが出て、ようやく王女様は肩の力を抜いた。明らかに表情が柔らかい。赤毛の王女様は緑の瞳をしていた。鮮やかな印象の人だ。
「当事者全員で話した方がいいでしょう」
ルーカス様の一言で、護衛騎士が一人呼ばれた。茶色い髪に緑の瞳、こちらは王女様と違い印象に残りづらい。人波に紛れそうなタイプだった。
「ヘンリと申します」
貴族ではないので家名はない。名乗る騎士を見つめる王女様は、まさしく恋する乙女だった。目がうっとり細められ、自然と口元が緩んでいる。視界に入るだけで愛しいと語るように。
これは周囲にもバレていると思う。だから政略結婚の駒にされちゃったのかも。国内に嫁がせるより、逃げづらいものね。でも「普通は」と注釈がつく。今回は我が国が味方なので、ルーカス様の所有する侯爵家の領地に、二人の新居を用意する手筈だった。
作戦を披露するルーカス様の声を聞きながら、私は二人を観察していた。騎士ヘンリも、王女様にベタ惚れっぽい。うん、幸せになってほしいな。
「ご苦労、本日はアベニウスの王女と面会してもらう。占いはなしだ」
付け加えられた情報に意味があるのかな? よくわからないが頷いて了承する。と同時に、王妃様から注意された。
「侍女達はきちんと仕事をしなかったのかしら? 胸元……」
指差して示され、慌てて確認する。さっきルーカス様が手を突っ込んだから、詰め物がずれていた。ちょっとだけ顔を覗かせた布を、一瞬で押し込む。胸に詰め物はイーリスの日常なので、慣れていた。もふもふと両手で揺らして確認する。
「……っ、げほん……恥じらいを持ちなさい」
父親のような目線で陛下に注意されてしまった。はっとした私はやらかしに気づく。ここには王妃様だけでなく、異性である陛下やルーカス様もいる。侍従や文官も控えており……かなり恥ずかしい仕草だった。
「申し訳、ございません」
照れても見えないのがヴェールのいいところ。子爵令嬢の時にやらかさなくて良かった。少なくとも顔ごと覚えられる不幸は回避できている。いや、出来てないか。ヴェールを被って王宮内を歩くのは、占い師だけの特例だもの。
くつくつと喉を震わせるルーカス様は、陛下の前なので爆笑を我慢した様子。腹を手で押さえているから、明日は筋肉痛だろう。
「もうよいか?」
呆れ半分の陛下に二人で頷いた。合図で王女殿下が入場される。やや俯いてちらちらと視線を送った。ヴェールがあると、こういう場面では本当に便利だ。凝視してもバレにくい。
「アベニウス王国、第五王女エヴェリーナにございます」
綺麗な声の女性だ。年齢は私より二、三歳は上かな? 落ち着いた雰囲気の彼女は、柔らかな笑みを浮かべて会釈した。陛下と王妃様へ優雅な跪礼を披露し、私達に向き直る。
「此度は我が父の我が侭で、ご迷惑をおかけしました。私の無礼な我が侭も聞いてくださるとか、心から感謝しております」
文官や侍従がいるからか、曖昧にぼかした挨拶だ。私は無言で一礼し、ルーカス様も言葉は発しなかった。すぐに別室へ移動となる。謁見の間を使っておかないと、公式記録が残らないから仕方ないけれど面倒ね。
「私的な場だ、寛がれよ」
陛下のお許しが出て、ようやく王女様は肩の力を抜いた。明らかに表情が柔らかい。赤毛の王女様は緑の瞳をしていた。鮮やかな印象の人だ。
「当事者全員で話した方がいいでしょう」
ルーカス様の一言で、護衛騎士が一人呼ばれた。茶色い髪に緑の瞳、こちらは王女様と違い印象に残りづらい。人波に紛れそうなタイプだった。
「ヘンリと申します」
貴族ではないので家名はない。名乗る騎士を見つめる王女様は、まさしく恋する乙女だった。目がうっとり細められ、自然と口元が緩んでいる。視界に入るだけで愛しいと語るように。
これは周囲にもバレていると思う。だから政略結婚の駒にされちゃったのかも。国内に嫁がせるより、逃げづらいものね。でも「普通は」と注釈がつく。今回は我が国が味方なので、ルーカス様の所有する侯爵家の領地に、二人の新居を用意する手筈だった。
作戦を披露するルーカス様の声を聞きながら、私は二人を観察していた。騎士ヘンリも、王女様にベタ惚れっぽい。うん、幸せになってほしいな。
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