上 下
40 / 100

40.相思相愛でなんとも初々しい

しおりを挟む
 優雅さを装ってルーカス様と入場すれば、お客様である王女殿下がまだでほっとする。控え室で待ってもらっているらしい。お待たせしましたと頭を下げ、声がかりを待った。

「ご苦労、本日はアベニウスの王女と面会してもらう。占いはなしだ」

 付け加えられた情報に意味があるのかな? よくわからないが頷いて了承する。と同時に、王妃様から注意された。

「侍女達はきちんと仕事をしなかったのかしら? 胸元……」

 指差して示され、慌てて確認する。さっきルーカス様が手を突っ込んだから、詰め物がずれていた。ちょっとだけ顔を覗かせた布を、一瞬で押し込む。胸に詰め物はイーリスの日常なので、慣れていた。もふもふと両手で揺らして確認する。

「……っ、げほん……恥じらいを持ちなさい」

 父親のような目線で陛下に注意されてしまった。はっとした私はやらかしに気づく。ここには王妃様だけでなく、異性である陛下やルーカス様もいる。侍従や文官も控えており……かなり恥ずかしい仕草だった。

「申し訳、ございません」

 照れても見えないのがヴェールのいいところ。子爵令嬢の時にやらかさなくて良かった。少なくとも顔ごと覚えられる不幸は回避できている。いや、出来てないか。ヴェールを被って王宮内を歩くのは、占い師だけの特例だもの。

 くつくつと喉を震わせるルーカス様は、陛下の前なので爆笑を我慢した様子。腹を手で押さえているから、明日は筋肉痛だろう。

「もうよいか?」

 呆れ半分の陛下に二人で頷いた。合図で王女殿下が入場される。やや俯いてちらちらと視線を送った。ヴェールがあると、こういう場面では本当に便利だ。凝視してもバレにくい。

「アベニウス王国、第五王女エヴェリーナにございます」

 綺麗な声の女性だ。年齢は私より二、三歳は上かな? 落ち着いた雰囲気の彼女は、柔らかな笑みを浮かべて会釈した。陛下と王妃様へ優雅な跪礼を披露し、私達に向き直る。

「此度は我が父の我が侭で、ご迷惑をおかけしました。私の無礼な我が侭も聞いてくださるとか、心から感謝しております」

 文官や侍従がいるからか、曖昧にぼかした挨拶だ。私は無言で一礼し、ルーカス様も言葉は発しなかった。すぐに別室へ移動となる。謁見の間を使っておかないと、公式記録が残らないから仕方ないけれど面倒ね。

「私的な場だ、寛がれよ」

 陛下のお許しが出て、ようやく王女様は肩の力を抜いた。明らかに表情が柔らかい。赤毛の王女様は緑の瞳をしていた。鮮やかな印象の人だ。

「当事者全員で話した方がいいでしょう」

 ルーカス様の一言で、護衛騎士が一人呼ばれた。茶色い髪に緑の瞳、こちらは王女様と違い印象に残りづらい。人波に紛れそうなタイプだった。

「ヘンリと申します」

 貴族ではないので家名はない。名乗る騎士を見つめる王女様は、まさしく恋する乙女だった。目がうっとり細められ、自然と口元が緩んでいる。視界に入るだけで愛しいと語るように。

 これは周囲にもバレていると思う。だから政略結婚の駒にされちゃったのかも。国内に嫁がせるより、逃げづらいものね。でも「普通は」と注釈がつく。今回は我が国が味方なので、ルーカス様の所有する侯爵家の領地に、二人の新居を用意する手筈だった。

 作戦を披露するルーカス様の声を聞きながら、私は二人を観察していた。騎士ヘンリも、王女様にベタ惚れっぽい。うん、幸せになってほしいな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

処理中です...