上 下
1,026 / 1,100
第35章 ざまぁは熱いうちに打て

311.傭兵の王様誕生だ!(2)

しおりを挟む
 片手で足りる理由だ。ジークムンドは理解できないだろうが、マロンの過去を聞いた身としては納得できる。マロンは裏切られる痛みを知っていて、切り捨てられた過去を持つ。自分は出来損ないだと思い込み、誰かを選んだり選ばれる立場にいないと言った。

 なのに、ようやく契約してもいい人を見つけたのだ。それがオレの知り合いで、面倒見のいいジークムンドなんだから、反対する理由はないよな。ちょっと寂しいが、どうせ契約してもオレの隣にいるんだろ?

「ジーク、マロンは寂しがりやだから大事にしてやってくれ。弟みたいな感じで」

「あ、ああ。でも俺でいいのか?」

「うーん、違うな。ジークじゃないと嫌なんだとさ」

「国王なんて柄じゃない」

「周囲に賢い人を配置してやるから、偉そうにしてろよ」

 ふふっと笑う。向いていないと自覚してれば、努力家のジークムンドは頑張るさ。その立場に相応しい振る舞いを身につけるのも、すぐだろうな。それに周囲も助けてくれる。ジークムンド班の半数以上は彼についていくから、近衛騎士くらいは結成できるじゃないか?

「あのさ、国王っていってもジークの好きにやればいいよ。口調だってこのままでいいし、オレも変える気はないし」

 にやりと笑う。

「傭兵の国が、行儀良くマナー正しい国だなんて、誰も思わないさ。それでいいじゃん」

 驚いた顔をした後、ジークムンドの表情が柔らかくなった。そうそう、そんな顔で賢い部下を数人顎で使ってやれよ。国は回るさ。それに傭兵ばかりの国なら、傭兵のやり方で殴り合って解決するのもありだろ。

「我が国は格式張っているが、他国に同様の振る舞いを求めたりはしないぞ。安心してくれ」

「リア、口調が皇帝陛下になってる」

 くすくす笑って指摘し、慌てて口を押さえる愛らしい仕草に惚れ直す。正式な婚約者になったばかりの美少女の黒髪にキスをして、真っ赤になった彼女を抱き寄せた。

「ずいぶん見せつけるじゃねえか、ボス」

 むすっとした口調のジークムンドに、実はお土産がある。というか、嫁候補だ。

「あのさ、自称才色兼備の伯爵令嬢が婚約の申し出をしてるんだけど……会ってみる?」

 思い出した。筋肉フェチのパウラこと愛梨に頼まれてたんだっけ。ジークムンドかジャックを紹介してくれと言われ、ジークムンドを勧めたのは、思い出した時に目の前にいたからじゃないぞ? 忘れたわけじゃない。

「誰だ? 中央の国の貴族令嬢か?」

 北の国の王族でもあったオレに尋ねるリアは、未婚の貴族令嬢リストを頭に浮かべたらしい。その中にいるよ。

「クロヴァーラ伯爵令嬢だよ」

 親しくても貴族令嬢を下の名前で呼び捨てるわけにいかない。愛梨と呼ぶのも問題ありなので、家名で話を進めた。

「ああ、パウラ嬢か。彼女なら伯爵令嬢だから、ジークムンド殿の治世の手伝いも出来る」

 リアの言葉に都合のいい部分があったので乗っかる。

「そうそう。パウラ嬢には兄が3人もいるし。2人は南の国の統治を手伝ってもらうのもいいと思うぞ」

「南の国が乗っ取られる心配はしないのか?」

 皇帝陛下らしいリアの指摘に、オレは肩をすくめた。

「傭兵の国だぞ? 乗っ取られたと感じたら、実力で排除されるさ」

 金や他の貴族家を抑えて乗っ取ったとして、この傭兵軍団が大人しく頭を下げると思うか? 答えはノーだ。乗っ取った貴族の首をへし折って取り返す。そのくらいじゃなけりゃ、傭兵団のボスなんて務まらない。

「俺らはそこまで野蛮じゃねえぞ」

「ん? でも取られたら取り返すんだろ」

「確かに」

 後ろの補佐に頷かれてしまい、ジークムンド達はぽりぽりと頭を掻いて笑い出した。これで一安心だ。オレの思惑通り、各国はそれぞれ独立を保つ。現在属国になっている西の国も、王女殿下が結婚して女王に即位した時に独立する予定だった。

 完璧だ! オレが望む独立した5つの国――各地の農産物や特産物は維持できる。笑顔のオレを尊敬の眼差しで見つめるリアの視線が、痛いぞ。絶対勘違いされてる……たぶん、きっと。
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako
ファンタジー
異世界の田舎の孤児院でごく普通の平民の孤児の女の子として生きていたルリエラは、5歳のときに木から落ちて頭を打ち前世の記憶を見てしまった。 ルリエラの前世の彼女は日本人で、病弱でベッドから降りて自由に動き回る事すら出来ず、ただ窓の向こうの空ばかりの見ていた。そんな彼女の願いは「自由に空を飛びたい」だった。でも、魔法も超能力も無い世界ではそんな願いは叶わず、彼女は事故で転落死した。 魔法も超能力も無い世界だけど、それに似た「理術」という不思議な能力が存在する世界。専門知識が必要だけど、前世の彼女の記憶を使って、独学で「理術」を使い、空を自由に飛ぶ夢を叶えようと人知れず努力することにしたルリエラ。 ただの個人的な趣味として空を自由に飛びたいだけなのに、なぜかいろいろと問題が発生して、なかなか自由に空を飛べない主人公が空を自由に飛ぶためにいろいろがんばるお話です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

処理中です...