上 下
912 / 1,100
第33章 断罪劇、いっちゃう?

268.皇帝陛下暗殺未遂?!(1)

しおりを挟む
 後ろ髪を引かれる思いって、こういうのを言うのかな。リアムの部屋から退出しなくてはいけない時間だが、すごく心配で出たくない。コウコが守ってくれてるし、大丈夫のはずだけど。騎士も山盛りに詰めかけてるけど……心配なのだ。

「何かいい通信方法なかったかな」

 願うだけで繋がる、便利なワイヤレスイヤホンみたいなの。今度、魔道具の作り方を教わって極めるか。たぶん、チートで何とかなると思う。

 じいやに押し出される形で、リアムと別れた。おやすみと挨拶を交わし、今はじいやに抱っこされての帰還途中だ。というのも、オレがリアムの手を離そうとしないため、侍女とじいやに引き剥がされた。そのまま捕まえて移動となったんだが、拗ねたオレはリアムの部屋の扉を見ながら唇を尖らせる。

「キヨヒト様は、よい相手を見つけられましたな」

 ほっほっほ……好々爺の笑い方で、じいやは階段を降り始めた。年齢の割に足腰がしっかりしてるよね。さすがに降りる気になって、階段下で背中を叩いてみた。以心伝心、すぐに降ろされる。

 見上げたじいやは少し皺のある顔で笑う。

「じいやは誰かいたの?」

「好いた女性はおりましたよ。結ばれませんでした」

 深く聞いていいのか、迷う案件だ。レイルの時は好奇心で暴き、ジャックは必要があって聞き出した。マロンなんて無理矢理に近い。日本人は空気読めるなんて気取ってても、こういう距離感がよく分からなかった。

「聞いてほしい?」

 直球で尋ねる。首を横に振るじいやを見て「わかった」と返した。歩くオレの斜め後ろに従うじいやは、この世界に来て長い。恋もしたし、惚れた人もいただろう。でも今は独身で、女中さんを鍛えながら田舎に閉じこもってた。それが全ての答えのような気がする。

 じいやは異世界で失恋した。心細かったと思う。自分が異世界から来たことで、疎外された気分も味わっただろう。その点でオレは本当に運が良かったな。常識が違うせいで騒動も起こしたけど、誰もオレを見捨てずに側に居てくれたから。

 改めて運の良さに感謝しながら、廊下を抜ける途中で足を止める。官舎に向かうオレのいる場所は、宮殿の西側だった。この時間に武官と思われる、ごつい男が数人入っていく姿に違和感を覚える。

 見張りの交代なら、彼らは近衛の制服を着ているはずだ。それに、夜の交代はすでに行われた。足を止めかけたオレを、じいやはさり気なく近くの客間へ誘導する。廊下に立っていたらいい目印だ。扉を開けて中に入り、隙間を開けて様子を窺った。

 リアムの部屋へ続く階段には、数人の騎士がいる。彼らの対応を見れば、ある程度は状況が掴めるだろう。歩きながら騎士に手を振る男の袖が、きらりと光った。
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

金眼のサクセサー[完結]

秋雨薫
ファンタジー
魔物の森に住む不死の青年とお城脱走が趣味のお転婆王女さまの出会いから始まる物語。 遥か昔、マカニシア大陸を混沌に陥れた魔獣リィスクレウムはとある英雄によって討伐された。 ――しかし、五百年後。 魔物の森で発見された人間の赤ん坊の右目は魔獣と同じ色だった―― 最悪の魔獣リィスクレウムの右目を持ち、不死の力を持ってしまい、村人から忌み子と呼ばれながら生きる青年リィと、好奇心旺盛のお転婆王女アメルシアことアメリーの出会いから、マカニシア大陸を大きく揺るがす事態が起きるーー!! リィは何故500年前に討伐されたはずのリィスクレウムの瞳を持っているのか。 マカニシア大陸に潜む500年前の秘密が明らかにーー ※流血や残酷なシーンがあります※

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

処理中です...