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第32章 気づいてはいけない?

256.1人いればまだいる!(3)

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「他にも日本の物が欲しくなったら、譲ってもらったり教えてもらっていい?」

「構わんよ。同郷のよしみじゃ。可能な限りで力になりますぞ」

「ありがとう」

 素直に頭を下げた。畳に影響されたのもあるけど、両手をついての挨拶は日本式だ。懐かしいと喜んだ爺さんは、大量の生ワサビをプレゼントしてくれた。

 今度は和辛子や七味もくれるそうだ。香辛料が充実していく意味では、東や南への侵略も悪くなかったな。めでたく? 新しい食材もゲットした。この宿ではのんびり過ごせそう。日本式のおもてなしってことは、従業員の教育や客の情報管理はばっちり……ん?

「日本でどんな仕事してました?」

「実家が旅館でしてな。こちらでも同じことをしております」

「……執事、とか興味ないですか?」

 同業種ですよ。旅館の旦那さんに似た感じで、お客様が固定される形。出来たらスカウトして帰りたい。有能な人材を育てる基礎があって、女中さんはそのままメイドにジョブチェンジ可能じゃないか。期待の眼差しを向けるオレに、爺さんは少し考えた。

 ちらっと女中さん達に視線をやり、また考え込む。じっくり考えてくれたまえ、ワトスン君。手元の緑茶を啜ると、リアムが横から注意した。

「お茶を啜る音はよくない」

「緑茶は問題ないんだよ。あと、今日は出なかったけど蕎麦も啜る音がしても平気なんだ。日本食の特徴だから、他の時はしない」

「日本とは異世界のことか」

 クリスティーンが興味津々だ。後ろの侍女達も興味があるようなので、簡単にお寺や神社なんかの説明をした。オレが知る限りの知識なので、偏ってるけどね。前に巫女さんが戦うアニメで詳しくなった……とは言えない。巫女さんの赤い袴って、どことなくイケナイ雰囲気じゃん。

「聖獣様と契約なさったのは、日本から来られたあなた様で間違いありませんかな?」

「うん。オレだよ」

 今度は爺さんが両手をついて、頭を下げた。さっきお礼を言ったオレと同じ姿勢で、きっちり挨拶をしながら了承を口にする。

「旅館の子らをすべて引き取ってくれるなら、お仕えしましょう」

「「「よろしくお願いいたします。主様」」」

 女中さんもそれでいいみたいだ。侍女達が心得たように彼女達に近づき、隣室へと消えていく。女中と侍女の仕事範囲って似てるから、すぐ覚えそう。力強い味方が出来た。

「こっちこそ、よろしくお願いします。ところで、キヨって呼んでもらっていい? 主様と呼ばれる育ちじゃないんで」

「キヨ様ですな? 承知しました。タカミヤとお呼びください」

「高い宮でいいのかな。久しぶりに漢字を聞いた」

 何十年も経ったわけじゃないのに、懐かしい気がする。こっちに来てからの時間が濃かったからかな。頷くタカミヤ爺さんと握手を交わしていると、彼は予想外のことを教えてくれた。

「では、日本人会のメンバーにもキヨ様のことを知らせておきましょう」

「日本人会?!」

 何それ、オレだけ知らなかったの??
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