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第32章 気づいてはいけない?

248.新しく作ればいいじゃん(1)

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「散歩がてら話すから、音を消せ」

「はいよ」

 遮音用の結界を作る。これは魔術師でも結構難しいらしく、やっぱり異世界チート知識がないとイメージしにくいみたいだ。普通は周囲から音が消える状況なんて想像しないからね。散歩するのはカモフラージュかな? あと、歩き続けてると盗聴されにくいし。

 ここまで用心するってことは、かなり危険な状況なのか。

「おまえ、本当にあの皇帝陛下と結婚するのか?」

「リアムが嫌だって言わなきゃ、結婚する」

 さすがのオレも嫌いだと言われたら諦める。……諦めると思うよ? ストーカーとかしない、たぶん。もし振られたら、一生独身で過ごすくらい好きだから自信ない。

「女帝は前例の、どうしてだかわかるか?」

「夫が皇帝になるから?」

「おれが心配してる意味、わかるか」

 ひょいっと煙草を咥え、レイルは火をつけた。独特の甘い香りがして、あまり煙臭くない。翻訳の関係上、煙草って呼ぶけど実際は薬に近いんだろう。薬草が燃えて甘い香りになるなんて、異世界だよな。衣服や髪が煙臭くないのは助かるけどね。

 レイルの心配はわかる。

 いわゆる皇帝陛下の配偶者で収まる男は少ない、という意味だった。妻が最高権力者では満足できず、言いくるめたり説得して自分が権力を握るんだろう。しかも学んだ歴史にほぼ記録がないってことは、早死にしてる。周囲の皇族や貴族に殺されたと考えるのが一般的だった。

 皇族ですら毒殺される世界で、皇族と結婚した夫が権力の頂点に座れば疎まれるだろう。レイルの心配はオレが暗殺される方か。

「記録は見つからないが、前例はあるんだろ。オレは異世界から来た。だから玉座に興味はない。オレが欲しいのは、リアムだけ」

 黒髪と青い瞳の美しい人。男装しながら必死で兄の跡を継いだ、身も心も素敵な女性だ。彼女が欲しいし、リアムも僕を好きになってくれた。前世界で彼女なし歴が人生とイコールだったオレは知ってるぜ。

 両思いになれる確率の低さを。その上で、異世界まで来てようやく両思いになったお姫様だ。絶対に失えない。命懸けで守るし、いざとなれば玉座も捨てちゃえばいい。リアムが欲しいと望むなら、別の国を作っちゃえば問題ないさ。

「忘れてるみたいだけどな、オレは聖獣コンプリートの英雄様だぞ? 中央の国を滅ぼしても、別の国を作って彼女を女帝陛下にしてみせるよ」
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