上 下
571 / 1,100
第25章 子供は強欲なんだぜ?

156.すみません。出来心でした(2)

しおりを挟む
「血が繋がってるんだろ? オレは片付けを命じたが、殺せと言った覚えはない」

 声を出したことで、ようやく顔の強張りが楽になった。笑顔を消したので、きりっと凛々しい美少年の出来上がりだ。自分しか言ってくれないのが哀れだが。

 屁理屈を捏ねた子供を、周囲は盛大に勘違いした。同じ血が流れる弟を使って忠義を試した、ラスカートン前侯爵ベルナルドに対する通過儀礼だ。殺さずにもっとひどい片付け方をするんじゃないか? など。

 オレが極悪非道の人でなしみたいな言い方するなっての。人聞きが悪いだろうが。引き立った顔が笑顔だったのは、誤解の種でしかない。

「余裕がおありのようですな、英雄殿。……っ、死ね!」

 震える声で嫌味を言った男は遠慮なくトリガーを引いた。銃声が響いて……大きな音に耳を押さえる。万能結界と名付けたくせに、防音つけ忘れた。 

 馬鹿な! そう叫んだ……かも知れないが、後ろの声は聞こえない。

 耳がキーンとして、他の音が少し遠くなった。片手落ちだが、結界は結界。しかもオレの結界は『戦場で実績を示した防弾』機能付きだ。こないだの夜会でも大いに役立ってくれた。そして今回も、銃弾は弾かれて足元に転がっている。この世界でお役立ちの魔法ベスト3に入る優秀さだった。

 シフェルは予想していたらしく、呆れ顔で動かない。傭兵達もオレの結界の威力は知ってるから肩を竦めた奴らと、攻撃に転じるため銃やナイフを構えた連中に分かれた。

 後ろの弟を含めた貴族達を叩きのめしたベルナルドは「ご無事でしたか」と安堵の息をつく。オレの手足を触って確認し、耳を押さえる手を撫でた。

「……で、ぞ」

「ん? 聞こえない」

 正確には「よく聞こえないから、もう少し大きな声で」だが、言葉を省略しすぎたため、鼓膜を傷つけたかと焦るベルナルドにお姫様抱っこされた。ふわっと浮いた身体に驚いてしがみ付いてしまう。腕の筋肉がご高齢の方とは思えないくらい、硬くてゴツい。

「え?」

 言葉が聞き取れないのに、一方的に話しかけて抱っこで移動とか……恐怖しかない。あたふたする間に、どこか建物へ運び込まれた。ジャックとノアが付いてきて、何か説明を始める。すぐにサシャが追いついた。ソファに下ろそうとして、ベルナルドが止まる。

「……だから、……できる」

「本当……、……か?」

 少しずつ耳も回復してきた。耳元で大きな音がしたから一時的に麻痺した機能が、徐々に戻ってくる。その上、サシャが治癒魔法を施してくれたため、音が戻る。
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako
ファンタジー
異世界の田舎の孤児院でごく普通の平民の孤児の女の子として生きていたルリエラは、5歳のときに木から落ちて頭を打ち前世の記憶を見てしまった。 ルリエラの前世の彼女は日本人で、病弱でベッドから降りて自由に動き回る事すら出来ず、ただ窓の向こうの空ばかりの見ていた。そんな彼女の願いは「自由に空を飛びたい」だった。でも、魔法も超能力も無い世界ではそんな願いは叶わず、彼女は事故で転落死した。 魔法も超能力も無い世界だけど、それに似た「理術」という不思議な能力が存在する世界。専門知識が必要だけど、前世の彼女の記憶を使って、独学で「理術」を使い、空を自由に飛ぶ夢を叶えようと人知れず努力することにしたルリエラ。 ただの個人的な趣味として空を自由に飛びたいだけなのに、なぜかいろいろと問題が発生して、なかなか自由に空を飛べない主人公が空を自由に飛ぶためにいろいろがんばるお話です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...