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第12章 北の国から

55.決着はあっけなく(1)

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 レイルが魔法陣を手に姿を消すと、ジャックが噛み付いてきた。

「本当にあいつに任せる気か?」

「うん」

 手招きして、屈んだジャックの頬傷に手を這わせる。眉をひそめてじっとしているジャックへ、真剣な目で言い切った。

「オレを信じるなら、任せてくれ」

 心の中で、やだ男前のセリフじゃん…とか思ったのは内緒だ。じと目のブラウもさすがに場を読んだのか、余計な発言をしなかった。諦めたらしいジャックが身を起こす。彼の頬に当てた手がするりと離れた。

 ぽんと頭の上に手を置かれて、少し乱暴に撫でられる。

「わかった。だがお前、熱があるぞ」

「熱?」

 心配そうなノアが近づいて、額に手を当てた。ひんやり冷たく感じるってことは、多少発熱してるかも知れない。

「戦争中に発熱ぐらいで指揮官が寝てるわけにいかないっての」

 気持ちは有り難いが、撥ね退けるしかない。この作戦の肝は、現場に立つオレの状況判断と采配なのだ。足元がフラつくことはないので、そのままテントの外に出た。遮音機能が高いのか、外は叫び声や怒号がすごい。

「よし、出るぞ」

 言い置いて走り出す。後ろをヒジリが走りながら、ひょいっとオレの服を摘んで背中に放り投げた。乗れと態度で示され、素直にヒジリの背に跨った。走り抜けるヒジリの爪が、敵の中に道を切り開く。隣で併走するブラウが、味方を襲う北の国の兵に飛び掛った。

 敵味方が入り混じった戦場では、銃がほとんど役に立たない。撃てば敵に当たるかも知れないが、逆に味方を攻撃する可能性も高いのだ。自動的に武器は原始的な物に限られた。ナイフや剣だ。鎧はないが、中世の戦場みたいだった。

 取り出したナイフを右手に握るが、まだ少し痺れている。指先が自由にならない状況に舌打ちし、左手に持ち替えた。間違って落とさぬよう、取り出した包帯で腕にナイフを縛りつける。

「あの子供を狙え!」

 向こうの指揮官らしき男がオレを指差した。どうやら赤龍と戦った際に「ボス」と呼ばれたため、オレが頭だとバレたらしい。にやりと笑って、ナイフを引き寄せた。

 あの男が叫んだお陰で、オレの標的が判明した。他の雑魚はジークムンドやジャックに任せ、オレは真っ直ぐに敵の指揮官である黒髪の男を目指せばいい。

「ヒジリ、あいつだ」

『承知した、主殿』

『僕が切り開く』

 標的がはっきりしたことで、ブラウが隣から先へ位置を変更する。鋭い爪と牙が北兵を排除していく後ろから、オレもナイフを揮った。ヒジリは敵を倒すことよりオレを送り届ける足になると決めたようだ。最低限邪魔になる奴以外は無視して通り過ぎる。

「あと、すこし!」
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