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第12章 北の国から

54.オレのために争わないで(3)

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「これは地図だけで一財産だぞ」

「そう? 敵と味方をどうやって区別して表示するかで悩んでるけどね」

 改良の余地があると告げて、自分の位置を確認した。大量に光る地図の上では、いくつか消えたり霞んだりしていく点がある。けが人と死人、か? 地図のだいぶ手前に三角の現在地が点滅した。

「戦闘時間は?」

 言外に意識を失った時間を尋ねる。レイルは無駄口を叩かず、一言で返した。

「25分前後」

「こっちの損害は?」

「2人。離脱が5人」

 レイルが端的に数字を示す。その意味は死人が出たということ。悼んでいる時間が惜しいので、後でしっかり謝ろうと決めた。今はこのまま数字として受け取る。

「敵の数」

「おれがテントに入った時点で、37人」

 こちらの数が少し上回っている。情報を与えて興味深そうに待っているレイル、腕を組んで不満顔のジャック、サシャは眩暈が酷いらしく目元を押さえて横になった。

 考えろ、1人でも多く味方を連れ帰り、敵を皆殺しにするのが仕事だ。

 動ける傭兵が42人前後、サシャは除く。ヒジリとブラウ、オレも含めたら45人。レイルは数に入れない方がいい。正面からぶつかっている戦線は25分立っているなら、膠着こうちゃく状態という意味だった。敵の実力はこちらと拮抗している。

「ヒジリ、さっきの赤龍がまた乱入する確率は?」

『皆無だ』

「よし、きめた」

 地図の上に指を滑らせた。川が左上にあるから、水は地図の右下へ流れる。一番点が集中している地点より少し上に、深い塹壕があった。これは使えるだろう。

「水が来る左上の川へ敵全体を押し戻す。戦線を一気に押し上げるぞ。その上で溢れた水に溺れる連中を、遊撃隊が叩く。遊撃隊はオレが指揮を取る」

 左上の川と平行に指で線を引いた。そこは激戦になっている場所より少し上だ。ここまで戦線を押し上げないと、洪水を効果的に利用できなかった。しかも溢れた水を押し留める形で横に掘られた塹壕が、こちらの陣営を守ってくれる。

 水の勢いが深い塹壕で一度和らげば、こちらの傭兵は逃げる時間を稼げるはずだ。遊撃隊はオレ、ブラウ、ヒジリ、あと数人いればいい。転移魔法陣を使い捨てることになるが、命には代えられなかった。

「このあたりに……」

 手を突っ込んで魔法陣を引っ張り出す。薄い絨毯状の巻物は、大人が2人くらいしか使えない小さな物だった。1対になった絨毯を確認し、1枚をレイルに渡す。

「これ、沈まない場所に設置してくれ」

「おいおい、おれに預けていいのか? そこのジャックが食いつきそうな顔してるぞ」

 からかうレイルの人の悪さは、もう性格だ。嫌味を口にするのが普段から当たり前なのだろう。それを気にするような神経は持ち合わせないから、平然と切り替えした。

「問題ない、レイルは契約を裏切らないからな」

 目を見開いたレイルが大声で笑った。苦しそうに笑いを収めながら、オレの手から絨毯を受け取る。

「ここまで信じられたら、裏切れねえよ。ったく、面白い奴だ」
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