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第10章 西の国を攻め落とせ

44.主殿、これは処分しよう(2)

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「キヨ、あの木はまだ結界が張られている。なのに収納魔法で物や地図を取り出して平気なのか?」

 ライフルを担いだライアンの指摘に、オレは大きく首をかしげた。逆に何がダメなんだろう。ヒジリの頭を撫でながら隣に立つノアを振り返った。

「ねえ、ノア。平気の意味がわからない」

 苦笑いしたノアがオレの額に手を当てて、具合は大丈夫かと尋ねる。どうやら魔力酔いを心配されたらしい。何回か倒れたから、それで傭兵達が心配してると理解したら肩から力が抜けた。

「このくらいは問題ないけど……」

 魔力感知が得意なサシャが反応する。近づいてくる左上の気配は、もうかなり距離を詰めていた。そちらを指差したオレが「あっちから何か来るよ」と注意を促す。途端に武器を構えた彼らが身を伏せた。訓練された兵の動きってのは、傭兵だとしても素晴らしい。

 いや、自分で自分の命を売り買いする傭兵の方が、騎士より優秀かも知れないな。実力を見せて従わせる必要はあるが、率いるならお堅い騎士よりオレには向いてる気がした。勝手に動くのは騎士なら欠点だけど、傭兵なら優秀さの証だ。

「……ヒジリ、それであやつって誰」

 隣の黒豹に声をかけると、しぶしぶと言った顔で答えてくれた。

『聖獣だ』

「ヒジリの仲間?」

『仲間などではない!』

 むっとした口調で否定するヒジリの金の瞳が眇められ、苛立ちを示すように尻尾が地を叩く。ふてくされた様子で丸くなってしまった。どうやら助けてくれる気はないようだ。すっかり機嫌を損ねていた。

「はいはい。そんで聖獣がなぜ近づいて来るのか、わかる?」

 返事がなく、尻尾がただ大地を叩くだけ。諦めてオレはナイフを手にした。先頭付近にいるジャックの隣に滑り込み、茂みの陰に蹲る。

「聖獣らしいよ」

 小声で告げると、ジャックは「嘘だろ」と呟いた。その意味を聞く前に、目の前に大きな毛玉が飛び込んでくる。

『みつけたっ!』

「うぎゃああぁぁああ!! でっかい化け猫ぉ!」

 飛びついてきた猫を全力で放り投げる。後ろに転がりながら、巴投げのように猫を飛ばした。くるりと回って着地した猫は、そのまま飛びついてくる。悲鳴を上げながら走るが、猫科の動物はヒジリを含め足が速い。あっという間に後ろに飛びつかれた。

「誰かぁあああ!!」

 助けろと悲鳴を上げたオレの膝に、ヒジリがぶつかる。転がった先はヒジリの背中で、ほっとして抱きついた。何だかんだ、結局助けてくれるのはお前なんだな。そう思った矢先、ヒジリはオレを放り出して猫に噛み付いた。
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