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第5章 失敗は死を招く

18.裏切りか、策略か(6)

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 現在地がようやく判明したところで、今度こそ地図を畳む。あたふたと収納して傘の代わりになるものを探すが、野宿セットの中に見当たらなかった。実はこの野宿セットはノアに用意してもらったのだが、干し肉や乾パンも入った優れものだ。

「なぜ傘がない」

 そこでふと気付いた。慌てて左手を頭の上に翳して、魔力を込めていく。水を弾く風の薄い膜が出来上がり、雨は頭の15cmほど上で止まった。半円形の膜は、ビニール傘に似た形をしている。想像力が物を言う魔法は、オレがよく知る傘の形状で展開した。

 丸くなって座り、温風で服や髪を乾かす。後ろで結んだ髪は、最近肩甲骨のあたりまで伸びていた。乾かすために結んだ紐を解き、風で水分を散らしていく。

 なぜもっと早く気付かなかった、オレ。ここまで濡れる前に魔法を使えばいいのに……つうか、今度は傘も装備しておこう。絶対、突然の雨で次も傘を探す自信があった。

 魔法が使えるようになってからの時間より、かつてのぐうたらニート時代の方が長い。かつての意識に釣られるのは仕方ないんだから。対策は必要だった。幸いにして収納能力は魔力と比例するので、魔力量が多いオレの収納力は高い。

「傘、GPSの地図……と」

 取り出した手帳に日本語でメモする。一通り文字の書き方は習ったが、やはり慣れた日本語が一番使いやすかったのだ。しかもこの世界の人間には読み解けないと来た。どんな黒歴史や日記も読めないとなれば、安心して記しておける。

「タオルもほしいな」

 魔法で乾かせるが、タオルも入れておこうと決めた。乾いた髪を紐で括りながら、ぎこちなく蝶結びをする。靴紐や服のリボンは問題ないのに、後ろ手に結ぶと蝶結びが縦になるのは何故だ。オレが不器用だって話だよな。

 遠い目になってしまう。

 目の前で雨を弾く薄い膜は半透明で、本当にビニール傘そのものだ。そう、本当に……音までそっくり。魔法で作った膜なのに、素材にビニール傘を思い浮かべた所為で、ぱたぱたと雨が叩く音がした。

 音はまずい。追われている身で、森の中にないこの音は敵を呼び寄せ……。

「こっちだ! 変な音がする」

 ですよね? そうだよ、敵を呼び寄せるんだから音は消しておかないと。折角息をひそめて茂みに隠れてたのに、雨傘の音でバレるってバカにも程がある。

 今更音を消しても後の祭りですよ…。傘の音を消して立ち上がり、そっと茂みの陰を使って移動を始めた。抜き足差し足で進むが、どうしても足音がする。

 足音を消す歩き方を習っておけばよかった。ついでに雨傘はメモから削除しようと決めた。
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