上 下
82 / 82

82.永遠に魂を縛る(ベルSIDE)最終話

しおりを挟む
 早く大きくなって、大人扱いされたい。幼い伴侶はそう願うが、実際に大きくなって困惑しているのが分かった。成長速度の遅いウェパルは、一千年近くかけて大人になった。この調子なら、俺の魔力量を考えても同時期に寿命が尽きそうだ。

 寂しがり屋のウェパルを置いていく気はないので、寿命を分かち合う魔術を使おうと考えていた。ミスが起きないよう魔法陣を調べていると、ぺたりと背中に鼻先を押し付けてくる。巣の上で振り返った俺にすり寄り、もじもじと体を揺らす。大きな体になっても、仕草や言動は幼いままだった。

 何とも愛らしい。このまま伴侶として彼を独占できる幸運のため、俺は前の世界で苦労したのだ。そう信じてしまうほど、今が幸せだった。

「あのね、ベル様」

「どうした?」

 確認途中の魔法陣を片付けた。今のウェパルは立派な成竜だ。うっかり触って発動させても困る。俺との間で共鳴する分にはいいが、近くの昆虫や動物と分かち合われたら目も当てられない。いつも小さなドジを繰り返すウェパルのため、俺の危険を回避する能力は上がっていた。

「僕、えっちしたい」

「は?」

 時が止まるとはこのことか。何を言われたのか理解できず……いや、理解したが故に固まってしまった。えっち……何とも可愛い表現だが、内容は大人だ。もじもじする仕草や頬を染めた感じから、知らずに口にした可能性はなさそうだが?

「突然どうした」

「僕はベル様のお嫁さんで、奥さんでしょ?」

「ああ」

「だったら、えっちしたい」

 思考が子どものままなのか、大人とイコールになった結論が極端すぎる。だが「まだ早い」と遠ざける時期が過ぎたのも事実だった。大切にこのまま守りたい気持ちと、奪い尽くしたい本音がせめぎ合う。俺を見下ろす大きさに成長したのに、必ず目線を合わせようと屈むウェパル。

 今もぺたりと伏せて腹を床に付けていた。巨大な体は竜の長であった祖父ラウムを越え、竜族最大だ。耳をぺたりと倒し、お伺いを立てる姿は小さい頃と変わらなかった。その耳の脇を掻いてやり、頭を撫でる。簡単に背中の棘を撫でてやれた時期は過ぎたが……。

「大きさが違うのはわかるか?」

「うん」

「人化はまだ出来ないのだろう?」

「う、ん」

 歯切れが悪くなる返事に、断られると思った様子が窺える。ゆらゆらと高い位置で揺れていた尻尾が、地上すれすれを撫でていた。意地悪が過ぎたか。反省しながら、ウェパルの眉間へ魔法陣をひとつ貼り付けた。魔力を流す。

「これで俺と同じ大きさになれる。本当にいいんだな?」

「うん!」

 嬉しそうな大声と逆に、体はするすると小さくなった。干し草を敷いた巣の外、地面にぺたんと座ったウェパルは大きな目を瞬く。銀の鱗が透ける皮膚を不思議そうに撫で、二本足で立とうとして転びかけた。支えるより前に、尻尾がウェパルの転倒を防ぐ。驚異のバランス感覚だった。

「どこか痛くないか」

「平気、ベル様……人間みたい、くなった?」

 人間みたいと言いかけて、途中で人間っぽくなった? と問い直したのか。混じって奇妙な言葉を作り出す。それもまた可愛いと手を伸ばし、巣の上に引き上げた。今まではウェパルにぴったりだった巨大な巣が、広いベッドに変わる。

「足、ふしぎ」

 歩けないと困惑した顔ながら、手のひらで体の形を確かめている。好きにさせていると、少しして今度は俺を触り始めた。それから目を輝かせ「同じ形だ!」と笑う。ぎざぎざの鋭い牙を覗かせ、無邪気に無防備に抱き着いた。咄嗟に抱き締め返す。すっぽりと腕に収まるウェパルが愛おしかった。

「さあ、抱くぞ」

「うん、えっちは?」

 ……そこからか。いや、ここは実践あるのみ! 一千年も我慢したのだ、これ以上は暴発しかねない。切実な本音を込めて、深く口付けた。必死で呼吸するその僅かな隙間さえ塞ぎたくなる。何も洩らさず、すべて俺に差し出せ。傲慢にそう思いながらも、手は優しくウェパルを撫でた。

 甲高い鳴き声も、愛らしい喘ぎも、ほんのり色づいた銀鱗の肌や汗の匂いまで。すべて奪って与えてひとつになり、最後に寿命を分かち合った。

 死ぬまでではなく、死んでからも魂を縛る――俺は強欲な魔王だからな。解放する選択肢は最初からない。覚悟しろよ、ウェパル。





 終わり




*********************
 完結です_( _*´ ꒳ `*)_お読みいただきありがとうございました。
 幼い竜、世界をまたいで召喚された魔王。こういうカップルが好きです(*ノωノ)圧倒的強者と保護される立場……溺愛。おいしい。ヤンデレはもっと好物です←

 もう一作「私だけが知らない」も本日、本編完結します。番外編を挟み、新作を準備しております。今後ともお付き合頂ければ幸いです。


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(56件)

SD
2024.09.14 SD

いやー、いい作品で何度も繰り返し読んでます
しかも、有名なゴエティアに出てくる72柱の悪魔の名前を登場人物に付けてるとわかった時はめちゃめちゃテンション上がりました

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
2024.09.15 綾雅(りょうが)祝!コミカライズ

ありがとうございます(´▽`*)ゞヶィレィッッ!! 悪魔のお名前を借りました! 特性とかあまり関係なく、響きで選んでいます。気づいてもらえて嬉しいです(*ノωノ)

解除
めろりん
2023.12.13 めろりん

神小説に出会ってしまった、、😇✨💕

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
2023.12.13 綾雅(りょうが)祝!コミカライズ

ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ 最高のお褒めです! あ、幼子出てくるお話はまだいくつかありますので、探してみてくださいませ (*ノωノ) イヤン

解除
ぱら
2023.12.11 ぱら

完結おめでとう㊗️御座います!!

魔王様よく今迄我慢できたね〜。
⸜(*´꒳`*)⸝センネン!スゴイ!!

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
2023.12.12 綾雅(りょうが)祝!コミカライズ

ありがとうございます(´▽`*)ゞヶィレィッッ!! 魔王様、かなり頑張りましたね!

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】うたかたの夢

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
 ホストとして生計を立てるサリエルは、女を手玉に取る高嶺の花。どれだけ金を積まれても、美女として名高い女性相手であろうと落ちないことで有名だった。冷たく残酷な男は、ある夜1人の青年と再会を果たす。運命の歯車が軋んだ音で回り始めた。  ホスト×拾われた青年、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血あり  ※印は性的表現あり 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 全33話、2019/11/27完

【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います

ほしふり
BL
ーーーーー魔王の妻、常闇の魔女リアーネは死んだ。 それから五百年の時を経てリアーネの魂は転生したものの、生まれた場所は人間の王国であり、第三王子リグレットは忌み子として恐れられていた。 王族とは思えない隠遁生活を送る中、前世の夫である魔王ベルグラに関して不穏な噂を耳にする。 いったいこの五百年の間、元夫に何があったのだろうか…?

人生に脇役はいないと言うけれど。

月芝
BL
剣? そんなのただの街娘に必要なし。 魔法? 天性の才能に恵まれたごく一部の人だけしか使えないよ、こんちくしょー。 モンスター? 王都生まれの王都育ちの塀の中だから見たことない。 冒険者? あんなの気力体力精神力がズバ抜けた奇人変人マゾ超人のやる職業だ! 女神さま? 愛さえあれば同性異性なんでもござれ。おかげで世界に愛はいっぱいさ。 なのにこれっぽっちも回ってこないとは、これいかに? 剣と魔法のファンタジーなのに、それらに縁遠い宿屋の小娘が、姉が結婚したので 実家を半ば強制的に放出され、住み込みにて王城勤めになっちゃった。 でも煌びやかなイメージとは裏腹に色々あるある城の中。 わりとブラックな職場、わりと過激な上司、わりとしたたかな同僚らに囲まれて、 モミモミ揉まれまくって、さあ、たいへん! やたらとイケメン揃いの騎士たち相手の食堂でお仕事に精を出していると、聞えてくるのは あんなことやこんなこと……、おかげで微妙に仕事に集中できやしねえ。 ここにはヒロインもヒーローもいやしない。 それでもどっこい生きている。 噂話にまみれつつ毎日をエンジョイする女の子の伝聞恋愛ファンタジー。    

【魔導具師マリオンの誤解】 ~陰謀で幼馴染みの王子に追放されたけど美味しいごはんともふもふに夢中なので必死で探されても知らんぷりします

真義あさひ
BL
だいたいタイトル通りの前世からの因縁カプもの、剣聖王子×可憐な錬金魔導具師の幼馴染みライトBL。 攻の王子はとりあえず頑張れと応援してやってください……w ◇◇◇ 「マリオン・ブルー。貴様のような能無しはこの誉れある研究学園には必要ない! 本日をもって退学処分を言い渡す!」 マリオンはいくつもコンクールで受賞している優秀な魔導具師だ。業績を見込まれて幼馴染みの他国の王子に研究学園の講師として招かれたのだが……なぜか生徒に間違われ、自分を呼び寄せたはずの王子からは嫌がらせのオンパレード。 ついに退学の追放処分まで言い渡されて意味がわからない。 (だから僕は学生じゃないよ、講師! 追放するなら退学じゃなくて解雇でしょ!?) マリオンにとって王子は初恋の人だ。幼い頃みたく仲良くしたいのに王子はマリオンの話を聞いてくれない。 王子から大切なものを踏みつけられ、傷つけられて折れた心を抱え泣きながら逃げ出すことになる。 だがそれはすべて誤解だった。王子は偽物で、本物は事情があって学園には通っていなかったのだ。 事態を知った王子は必死でマリオンを探し始めたが、マリオンは戻るつもりはなかった。 もふもふドラゴンの友達と一緒だし、潜伏先では綺麗なお姉さんたちに匿われて毎日ごはんもおいしい。 だがマリオンは知らない。 「これぐらいで諦められるなら、俺は転生してまで追いかけてないんだよ!」 王子と自分は前世からずーっと同じような追いかけっこを繰り返していたのだ。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》

クリム
BL
「婚約を破棄します」相手から望まれたから『婚約破棄』をし続けた王息のサリオンはわずか十歳で『婚約破棄王子』と呼ばれていた。サリオンは落実(らくじつ)故に王族の容姿をしていない。ガルド神に呪われていたからだ。 そんな中、大公の孫のアーロンと婚約をする。アーロンの明るさと自信に満ち溢れた姿に、サリオンは戸惑いつつ婚約をする。しかし、サリオンの呪いは容姿だけではなかった。離宮で晒す姿は夜になると魔獣に変幻するのである。 アーロンにはそれを告げられず、サリオンは兄に連れられ王領地の魔の森の入り口で金の獅子型の魔獣に出会う。変幻していたサリオンは魔獣に懐かれるが、二日の滞在で別れも告げられず離宮に戻る。 その後魔力の強いサリオンは兄の勧めで貴族学舎に行く前に、王領魔法学舎に行くように勧められて魔の森の中へ。そこには小さな先生を取り囲む平民の子どもたちがいた。 サリオンの魔法学舎から貴族学舎、兄セシルの王位継承問題へと向かい、サリオンの呪いと金の魔獣。そしてアーロンとの関係。そんなファンタジーな物語です。 一人称視点ですが、途中三人称視点に変化します。 R18は多分なるからつけました。 2020年10月18日、題名を変更しました。 『婚約破棄王子は魔獣に愛される』→『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』です。 前作『花嫁』とリンクしますが、前作を読まなくても大丈夫です。(前作から二十年ほど経過しています)

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない

迷路を跳ぶ狐
BL
 自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。  恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。  しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

好きな人の婚約者を探しています

迷路を跳ぶ狐
BL
一族から捨てられた、常にネガティブな俺は、狼の王子に拾われた時から、王子に恋をしていた。絶対に叶うはずないし、手を出すつもりもない。完全に諦めていたのに……。口下手乱暴王子×超マイナス思考吸血鬼 *全12話+後日談1話

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。