78 / 82
78.目が覚めたら抱っこじゃなかった
しおりを挟む
目が覚めた僕は、ベル様のお膝にいなかった。びっくりしすぎて、すごい勢いで起き上がる。きょろきょろと見回す僕の視線の先で、ベル様が何か飲んでいた。
皆がベル様を囲んで、コップに何かを入れる。僕は寝てたから邪魔だったのかな。しょんぼりしながら見上げると、お祖母ちゃんの上だった。丸まったお祖母ちゃんが、僕を乗せている。
「お祖母ちゃん、僕……ベル様の奥さんなのに寝ちゃったの」
小さな声で相談すると、伸ばしていた首を下ろしてお祖母ちゃんが聞いてくれる。これはお母さんに言ったら叱られそうだし、お父さんはベル様に怒りそう。お祖父ちゃんは、ベル様と一緒に飲んでいた。
相談できるのはお祖母ちゃんだけ。ぽつりぽつりと、目が覚めた時に一緒じゃなくて寂しかったと話す。僕が大人なら、起きていられて、まだお膝の上にいたのかも。
ずずっと鼻を啜りながら、僕はお祖母ちゃんの鼻先に抱きついた。もごもごと口を動かした後、お祖母ちゃんは僕に変なことを尋ねた。
「もう魔王陛下を嫌いかい?」
「ううん、好き」
「だったら、いなくて寂しかったと魔王陛下に直接言ったらいいさ。聞いてくださるよ」
そうかな、聞いて嫌な顔をされたら泣いちゃう。迷う僕の背中をお祖母ちゃんが押した。鼻先で優しく、僕を鱗で滑らせる。地面まで降りた僕は振り返り、頷くお祖母ちゃんの笑顔に頷いた。頑張ってくる。起きたら頑張るって決めたのは僕だ。
勢いよく歩き出したのに、近づくにつれて足が遅くなる。重い気がして引きずるように近づいた。足を絡ませる形で座るベル様の腿に手を触れ、じっと見上げる。
「ウェパル、起きたのか。ほらおいで」
お祖父ちゃんが声をかけるけど、今はベル様がいいの。首を横に振った僕に気付き、ベル様が目を見開いた。叱られちゃう? それとも叩かれたら嫌だな。悪い方へ向かう僕の考えは、一瞬で吹き飛んだ。
「よく眠れたか? ウェパル」
おいで、と言われない。叱る言葉もない。でも嬉しそうに笑って腕を伸ばされた。ふわっと浮いて、足が地面から離れる。そのままお膝の上に下ろされた。
「いいの?」
「何を心配している? ウェパルは俺の伴侶だ。ここが定位置だ」
定位置は聞いたことがある。決まっている場所だよね。ここが僕の居場所で、ベル様はそう決めたと言う。嬉しくなって笑ったら、いっぱい撫でられた。
「魔王陛下、少しばかり孫に甘すぎますぞ」
「人のことを言えるのか? ラウム」
お祖父ちゃんは、ベル様に反論できない。だってお祖父ちゃんも僕を「おいで」と呼んだから。ベル様のお腹にぺたりと張り付いて甘えると、背中の棘がゆっくり撫でられる。ベル様の手はいつもより温かかった。
ふと見ると、ベル様のコップがある。僕も届く場所なので覗いてみた。くんと匂いを嗅ぐと、変な感じ。初めての匂いに興味が湧いて、鼻先を突っ込んだ。
「うわっ!」
「ちょ!?」
気づいた皆が騒ぐ。ちょっと舐めるつもりが、鼻がコップに嵌ってしまった。ぴったりすぎて取れない。何とかしようと慌ててコップに足を掛け、ぐいと引っ張った。勢いで転がり、中身が鼻先から流れ込む。
うー! 抜けない!! 両手両足で突っ張ったら、ベル様が慌てて抜いてくれた。すぽんと音がして、僕とベル様のお膝に中身が溢れる。白っぽい液体はツンとする匂いがした。
「……いろいろヤバい」
よく分からない呟きの後、すぐに魔法で綺麗になった。あれ? この魔法、吸血鬼のおじさんのそばで使ってもいいの?
皆がベル様を囲んで、コップに何かを入れる。僕は寝てたから邪魔だったのかな。しょんぼりしながら見上げると、お祖母ちゃんの上だった。丸まったお祖母ちゃんが、僕を乗せている。
「お祖母ちゃん、僕……ベル様の奥さんなのに寝ちゃったの」
小さな声で相談すると、伸ばしていた首を下ろしてお祖母ちゃんが聞いてくれる。これはお母さんに言ったら叱られそうだし、お父さんはベル様に怒りそう。お祖父ちゃんは、ベル様と一緒に飲んでいた。
相談できるのはお祖母ちゃんだけ。ぽつりぽつりと、目が覚めた時に一緒じゃなくて寂しかったと話す。僕が大人なら、起きていられて、まだお膝の上にいたのかも。
ずずっと鼻を啜りながら、僕はお祖母ちゃんの鼻先に抱きついた。もごもごと口を動かした後、お祖母ちゃんは僕に変なことを尋ねた。
「もう魔王陛下を嫌いかい?」
「ううん、好き」
「だったら、いなくて寂しかったと魔王陛下に直接言ったらいいさ。聞いてくださるよ」
そうかな、聞いて嫌な顔をされたら泣いちゃう。迷う僕の背中をお祖母ちゃんが押した。鼻先で優しく、僕を鱗で滑らせる。地面まで降りた僕は振り返り、頷くお祖母ちゃんの笑顔に頷いた。頑張ってくる。起きたら頑張るって決めたのは僕だ。
勢いよく歩き出したのに、近づくにつれて足が遅くなる。重い気がして引きずるように近づいた。足を絡ませる形で座るベル様の腿に手を触れ、じっと見上げる。
「ウェパル、起きたのか。ほらおいで」
お祖父ちゃんが声をかけるけど、今はベル様がいいの。首を横に振った僕に気付き、ベル様が目を見開いた。叱られちゃう? それとも叩かれたら嫌だな。悪い方へ向かう僕の考えは、一瞬で吹き飛んだ。
「よく眠れたか? ウェパル」
おいで、と言われない。叱る言葉もない。でも嬉しそうに笑って腕を伸ばされた。ふわっと浮いて、足が地面から離れる。そのままお膝の上に下ろされた。
「いいの?」
「何を心配している? ウェパルは俺の伴侶だ。ここが定位置だ」
定位置は聞いたことがある。決まっている場所だよね。ここが僕の居場所で、ベル様はそう決めたと言う。嬉しくなって笑ったら、いっぱい撫でられた。
「魔王陛下、少しばかり孫に甘すぎますぞ」
「人のことを言えるのか? ラウム」
お祖父ちゃんは、ベル様に反論できない。だってお祖父ちゃんも僕を「おいで」と呼んだから。ベル様のお腹にぺたりと張り付いて甘えると、背中の棘がゆっくり撫でられる。ベル様の手はいつもより温かかった。
ふと見ると、ベル様のコップがある。僕も届く場所なので覗いてみた。くんと匂いを嗅ぐと、変な感じ。初めての匂いに興味が湧いて、鼻先を突っ込んだ。
「うわっ!」
「ちょ!?」
気づいた皆が騒ぐ。ちょっと舐めるつもりが、鼻がコップに嵌ってしまった。ぴったりすぎて取れない。何とかしようと慌ててコップに足を掛け、ぐいと引っ張った。勢いで転がり、中身が鼻先から流れ込む。
うー! 抜けない!! 両手両足で突っ張ったら、ベル様が慌てて抜いてくれた。すぽんと音がして、僕とベル様のお膝に中身が溢れる。白っぽい液体はツンとする匂いがした。
「……いろいろヤバい」
よく分からない呟きの後、すぐに魔法で綺麗になった。あれ? この魔法、吸血鬼のおじさんのそばで使ってもいいの?
21
お気に入りに追加
475
あなたにおすすめの小説
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
【完結】浮薄な文官は嘘をつく
七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。
イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。
父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。
イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。
カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。
そう、これは───
浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。
□『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。
□全17話
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
第十王子は天然侍従には敵わない。
きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」
学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。
どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。
BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる