上 下
73 / 82

73.お兄ちゃんだから妹と弟を預かるの

しおりを挟む
「あ、レラジェ! ダメだよ」

 悪戯好きなレラジェが、青い鱗をきらきらさせて水に飛び込む。ばしゃっと水を周囲に撒き散らし、僕達のお家の湖を泳ぎ始めた。お母さんは特に教えていないけれど、ドラゴンの子は泳げる。僕もそうだったし、キマリスもマグマを泳ぐよ。一緒に遊ぼうと呼ぶレラジェの鳴き声に、弟キマリスはおろおろした。

 泳ぐのは問題ないけれど、湖は湧き水だから冷たい。寒くなると動きが鈍くなる火竜のキマリスは、困惑した顔で僕を振り返った。この子達はまだ言葉を話せない。でも何を考えてるかは分かる。僕がお兄ちゃんだからね!

「キマリスは行きたい?」

 迷いながら小さく頷く。だったら泳いでいいよと許可を出した。代わりに冷える前に僕が助けに行く。そう約束する。安心したキマリスは「キュー」と鳴いてゆっくり水に入っていった。

 熱いのに弱いレラジェも、先日お父さんの洞窟へ遊びに来た。ぐったりしてたけど、楽しそうだったんだ。一緒に遊びたい二人は、普段から僕達のお家に預けられる。ベル様も許可をくれたし、吸血鬼のおじさんを始めとして魔族が集まるから、人数が増えても同じだって。

 いろんな魔族がいつもいるから、お父さんやお母さんも安心して預けていた。僕はお兄ちゃんだから、ベル様のお仕事がない時は妹と弟の面倒を見るんだ。

「キマリス、まだ平気?」

 泳ぐ姿は平気そう。じっと目で追いかけた。お水、今日はあまり冷たくないのかな? 手を浸してみるけれど、僕は冷たいのも熱いのも平気だから分からない。顔を上げた視線の先で、キマリスがこっちを振り向いた。

「あ! 今行く」

 僕はキマリスに声をかけ、冷たい湖に入った。レラジェより速く泳げる僕は、すぐにキマリスにたどり着く。寒そうに震える弟を背中に乗せて、揺らさないよう泳いだ。落としちゃうと可哀想だから。レラジェも気づいて寄ってきたけれど、キマリスの尻尾を引っ張ったりする。

「こら、レラジェ」

 尻尾を振って、レラジェを追い払った。波を起こせば、すぐに距離が離れる。僕の泳ぐ速さについてこられないの。一度沈んでから浮いて、慌てて追いかけてきた。

 キマリスを草の上に下ろし、僕は寝転がる。今日は空が晴れていて、お日様が気持ちよかった。ぽかぽかするけれど、外は風が強くて寒いらしい。さっき耳長のおねえさんが教えてくれた。ここは縦穴の底だから、光は届くけれど風は来ない。

「キマリス、おいで」

 僕は震える弟を抱き締めた。こうすると温かいんだ。僕はベル様に教えてもらったよ。やっと追いついたレラジェが、ふんふんと鼻を鳴らして怒る。可愛い妹も引き寄せて、一緒に転がった。しばらく暴れていたレラジェも大人しくなる頃、キマリスは寝息を立てる。

 僕も眠くなってきちゃった。大きな欠伸をして、明日からのお祭りを想像する。よその魔族のお祭りは行ったことあるけれど、ドラゴンのお祭りは初めてだった。準備に忙しいお父さん達は、今頃飛び回っているのかな。

「ウェパル、眠ったのか?」

 目を閉じてしばらくして、ベル様の声が聞こえた。起きてるよと答えたいのに、目蓋が開かない。それに手足が動かなかった。泥に沈んだみたいに重い。

「すっかり取られてしまったな」

 呟きと一緒に頬に触れる。口付けだ! いつもと同じ触れ方に頬が緩んだ。起きたら、お返しするね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】うたかたの夢

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
 ホストとして生計を立てるサリエルは、女を手玉に取る高嶺の花。どれだけ金を積まれても、美女として名高い女性相手であろうと落ちないことで有名だった。冷たく残酷な男は、ある夜1人の青年と再会を果たす。運命の歯車が軋んだ音で回り始めた。  ホスト×拾われた青年、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血あり  ※印は性的表現あり 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 全33話、2019/11/27完

人生に脇役はいないと言うけれど。

月芝
BL
剣? そんなのただの街娘に必要なし。 魔法? 天性の才能に恵まれたごく一部の人だけしか使えないよ、こんちくしょー。 モンスター? 王都生まれの王都育ちの塀の中だから見たことない。 冒険者? あんなの気力体力精神力がズバ抜けた奇人変人マゾ超人のやる職業だ! 女神さま? 愛さえあれば同性異性なんでもござれ。おかげで世界に愛はいっぱいさ。 なのにこれっぽっちも回ってこないとは、これいかに? 剣と魔法のファンタジーなのに、それらに縁遠い宿屋の小娘が、姉が結婚したので 実家を半ば強制的に放出され、住み込みにて王城勤めになっちゃった。 でも煌びやかなイメージとは裏腹に色々あるある城の中。 わりとブラックな職場、わりと過激な上司、わりとしたたかな同僚らに囲まれて、 モミモミ揉まれまくって、さあ、たいへん! やたらとイケメン揃いの騎士たち相手の食堂でお仕事に精を出していると、聞えてくるのは あんなことやこんなこと……、おかげで微妙に仕事に集中できやしねえ。 ここにはヒロインもヒーローもいやしない。 それでもどっこい生きている。 噂話にまみれつつ毎日をエンジョイする女の子の伝聞恋愛ファンタジー。    

【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います

ほしふり
BL
ーーーーー魔王の妻、常闇の魔女リアーネは死んだ。 それから五百年の時を経てリアーネの魂は転生したものの、生まれた場所は人間の王国であり、第三王子リグレットは忌み子として恐れられていた。 王族とは思えない隠遁生活を送る中、前世の夫である魔王ベルグラに関して不穏な噂を耳にする。 いったいこの五百年の間、元夫に何があったのだろうか…?

【魔導具師マリオンの誤解】 ~陰謀で幼馴染みの王子に追放されたけど美味しいごはんともふもふに夢中なので必死で探されても知らんぷりします

真義あさひ
BL
だいたいタイトル通りの前世からの因縁カプもの、剣聖王子×可憐な錬金魔導具師の幼馴染みライトBL。 攻の王子はとりあえず頑張れと応援してやってください……w ◇◇◇ 「マリオン・ブルー。貴様のような能無しはこの誉れある研究学園には必要ない! 本日をもって退学処分を言い渡す!」 マリオンはいくつもコンクールで受賞している優秀な魔導具師だ。業績を見込まれて幼馴染みの他国の王子に研究学園の講師として招かれたのだが……なぜか生徒に間違われ、自分を呼び寄せたはずの王子からは嫌がらせのオンパレード。 ついに退学の追放処分まで言い渡されて意味がわからない。 (だから僕は学生じゃないよ、講師! 追放するなら退学じゃなくて解雇でしょ!?) マリオンにとって王子は初恋の人だ。幼い頃みたく仲良くしたいのに王子はマリオンの話を聞いてくれない。 王子から大切なものを踏みつけられ、傷つけられて折れた心を抱え泣きながら逃げ出すことになる。 だがそれはすべて誤解だった。王子は偽物で、本物は事情があって学園には通っていなかったのだ。 事態を知った王子は必死でマリオンを探し始めたが、マリオンは戻るつもりはなかった。 もふもふドラゴンの友達と一緒だし、潜伏先では綺麗なお姉さんたちに匿われて毎日ごはんもおいしい。 だがマリオンは知らない。 「これぐらいで諦められるなら、俺は転生してまで追いかけてないんだよ!」 王子と自分は前世からずーっと同じような追いかけっこを繰り返していたのだ。

婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》

クリム
BL
「婚約を破棄します」相手から望まれたから『婚約破棄』をし続けた王息のサリオンはわずか十歳で『婚約破棄王子』と呼ばれていた。サリオンは落実(らくじつ)故に王族の容姿をしていない。ガルド神に呪われていたからだ。 そんな中、大公の孫のアーロンと婚約をする。アーロンの明るさと自信に満ち溢れた姿に、サリオンは戸惑いつつ婚約をする。しかし、サリオンの呪いは容姿だけではなかった。離宮で晒す姿は夜になると魔獣に変幻するのである。 アーロンにはそれを告げられず、サリオンは兄に連れられ王領地の魔の森の入り口で金の獅子型の魔獣に出会う。変幻していたサリオンは魔獣に懐かれるが、二日の滞在で別れも告げられず離宮に戻る。 その後魔力の強いサリオンは兄の勧めで貴族学舎に行く前に、王領魔法学舎に行くように勧められて魔の森の中へ。そこには小さな先生を取り囲む平民の子どもたちがいた。 サリオンの魔法学舎から貴族学舎、兄セシルの王位継承問題へと向かい、サリオンの呪いと金の魔獣。そしてアーロンとの関係。そんなファンタジーな物語です。 一人称視点ですが、途中三人称視点に変化します。 R18は多分なるからつけました。 2020年10月18日、題名を変更しました。 『婚約破棄王子は魔獣に愛される』→『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』です。 前作『花嫁』とリンクしますが、前作を読まなくても大丈夫です。(前作から二十年ほど経過しています)

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

帝国皇子のお婿さんになりました

クリム
BL
 帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。  そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。 「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」 「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」 「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」 「うん、クーちゃん」 「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」  これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。

処理中です...