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72.お兄ちゃんだけど譲れない

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 妹レラジェは生まれた時に小さかった。卵が小さいから仕方ないよね。でも両手と片手の指の分だけ早く生まれたから、成長した。キマリスは卵が大きかったけれど、生まれたら普通サイズだ。だから二人の大きさは同じくらいだった。

「僕とベル様のお家なら、一緒に会えるね」

「暑くも寒くもないからな」

 ベル様が許してくれたの。レラジェは暑いのが苦手、キマリスは寒いと震えちゃう。だからどちらでもない僕達のお家で顔を合わせた。ご機嫌で尻尾を振る僕に、最初に近づいたのはキマリスの方。一応、末っ子の弟になる。レラジェはキマリスのお姉ちゃんだ。

 ぺたぺたと四つ足で近づいて、僕に飛びつく。後ろに転がり掛けた僕を、ベル様が支えてくれた。僕は成長が遅いから、まだ体が小さいんだ。頭を打たないよう支えたベル様が、僕を優しく撫でた。キマリスが興味を示したみたいで、ベル様の方へ小さな手を伸ばす。

「ベル様?」

 でも、ベル様は手を取らなかった。きょとんとして首を傾げる僕に、秘密を打ち明けるみたいに小さな声で教えてくれる。奥さんじゃないから、手を取らないんだって。それは浮気に繋がるから? 浮気は悪いことだ。

 レラジェはぺたんとお尻をつけて座っていたが、よちよちと這ってきた。キマリスの短い尻尾を掴んで、いきなり噛み付く。

「うあっ、あああぁぁ!」

 痛いと泣くキマリスが尻尾を取り返そうとするも、届かない。レラジェはガジガジと強く歯を立てた。まだ赤ちゃんだから、鋭い牙はない。短い低い歯がいっぱい生えているだけ。キマリスが泣くほど痛くないと思う。

 びっくりしちゃったのかな。手を伸ばしてキマリスを撫で、レラジェにおいでと声を掛けた。目を輝かせたレラジェが駆け寄り、背中を支えられた僕の足によじ登る。それからぎゅっとしがみ付いた。手が短くて届かないんだけど、抱っこする姿に似てる。

「俺の伴侶だぞ」

 むっとした顔でベル様が呟いた。笑いながら、お母さんがレラジェを引き剥がす。

「ベル様、いま……僕が取られたと思った?」

 返事はないけど、それが答えだよね。僕もベル様が仕事のお話をしている時、吸血鬼のおじさんや耳長のおねえさんと仲良くしているのは嫌。同じ気持ちだったのかも。そう思ったら嬉しくなった。

 へらっと口を開けて笑った僕を膝に乗せ、ベル様は口付けをする。びっくりした。口と口が触れるのは、人がいない場所って言ってたのに。お母さんはレラジェを構っていて見てないし、お父さんもキマリスを撫でている。いいのかな、いいよね。

 僕からもちゅっと口を押し付けた。すごく幸せな気持ちになる。もう一度確認のために振り返ったら、レラジェと目が合っちゃった。急に恥ずかしくなる。でもベル様は僕のだから! お兄ちゃんでも譲れないものはある。まだ短い手を回して、ベル様に抱きついた。
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