上 下
68 / 82

68.水色の卵が割れた!

しおりを挟む
 お母さんのところへお肉を分けに行く。今は卵を温めているから、皆でご飯を分けるんだ。お父さんのところは昨日行ったから、今日は行かない。

 卵はどちらも順調みたい。お母さんが抱っこする卵は水色、お空の色を薄くした感じだ。小さめで、今日も変化はなかった。

「僕がお兄ちゃんだよ、早く出てきてね」

 いつも通り声をかける。これはお父さんが抱っこするピンクの卵も同じ。声を掛けると、僕のことを覚えてくれると思う。外へ出てからお兄ちゃんを知るより、先に覚えてた方がいいよね。僕もその方が嬉しい。

「あと一ヶ月」

 お月様が消えて戻れば、生まれるはず。両手を卵に当てて、早くなくてもいいけど元気に生まれてねとお願いした。これはベル様に教えてもらったんだ。無理して早く出てくると、よくない場合もある。だから元気に出ておいでとお願いするんだよ。

 お兄ちゃんになるから、上手にお願いしてあげたい。会うたびに、卵に両手を当てて話しかけた。お母さんはにこにこしながら見ている。

「どうしたの?」

「ふふっ、ウェパルが生まれた時のことを思い出したの」

 なかなか卵が割れなくて、すごく心配して。お父さんが揺らして耳を押し当てた。でも出てこない。お祖父ちゃんがうろうろと歩き回り、お祖母ちゃんも心配して毎日一緒だった。

 お母さんも半年を過ぎたのに、と首を傾げた時……転がって卵が落ちた。慌てて拾ったら、そのヒビから僕が顔を出したんだって。前に聞いたお話をまた聞いている。少し離れた場所でお肉を焼くベル様に聞こえちゃうかな。

 なんだか恥ずかしいような、擽ったい感じだった。僕は覚えていないけれど、その時から僕も家族になった。大切な家族が増えるんだから、僕は少し長くても待てるよ。卵を撫でた時、ぴしっと音がした。

「お母さん!」

「早いわね」

 お肉を焼いているベル様も慌てた。お母さんのために、ご飯を作ってくれていたんだけど。僕の隣で一緒に卵を覗き込む。ヒビはどんどん広がって、小さな手が突き出た。

「っ、出た!」

 僕は自分の大きな声に驚いて、慌てて口を手で覆う。弟か妹かまだわからないけど、驚かせたらダメだよね。反対の手も出た。指の間に膜がある。水竜の仲間かも! お母さんもお祖父ちゃんも持ってる。僕も小さいけど、指に膜があった。同じ部分を見つけると嬉しい。

 続いてぱかっと卵が二つに割れて、両側に落ちた。片方の手が殻に刺さった状態で、青い鱗の子竜が転がる。じたばた暴れて、残りの殻を割った。突き刺した手も取れたので、安心したよ。

「水竜だな」

 ベル様が頷く。お母さんは感動して涙を滲ませる。でも泣かなかった。まだ小さい赤ちゃんの鱗をペロペロと舐める。

「可愛い、妹よ」

 女の子だった! 妹ができて喜ぶ僕は、甲高い声を上げる。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに知らせる合図だ。すぐに来てくれるはず! お父さんは卵があるから無理だね。

「あとで温め役を交代しに行くのはどうだ?」

「いいの? ありがとう!」

 ベル様の提案に僕は笑顔で声を上げた。温めるのは僕もできる。ベル様も手伝ってくれるなら安心だった。お父さんも早く会いたいよね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】うたかたの夢

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
 ホストとして生計を立てるサリエルは、女を手玉に取る高嶺の花。どれだけ金を積まれても、美女として名高い女性相手であろうと落ちないことで有名だった。冷たく残酷な男は、ある夜1人の青年と再会を果たす。運命の歯車が軋んだ音で回り始めた。  ホスト×拾われた青年、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血あり  ※印は性的表現あり 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 全33話、2019/11/27完

人生に脇役はいないと言うけれど。

月芝
BL
剣? そんなのただの街娘に必要なし。 魔法? 天性の才能に恵まれたごく一部の人だけしか使えないよ、こんちくしょー。 モンスター? 王都生まれの王都育ちの塀の中だから見たことない。 冒険者? あんなの気力体力精神力がズバ抜けた奇人変人マゾ超人のやる職業だ! 女神さま? 愛さえあれば同性異性なんでもござれ。おかげで世界に愛はいっぱいさ。 なのにこれっぽっちも回ってこないとは、これいかに? 剣と魔法のファンタジーなのに、それらに縁遠い宿屋の小娘が、姉が結婚したので 実家を半ば強制的に放出され、住み込みにて王城勤めになっちゃった。 でも煌びやかなイメージとは裏腹に色々あるある城の中。 わりとブラックな職場、わりと過激な上司、わりとしたたかな同僚らに囲まれて、 モミモミ揉まれまくって、さあ、たいへん! やたらとイケメン揃いの騎士たち相手の食堂でお仕事に精を出していると、聞えてくるのは あんなことやこんなこと……、おかげで微妙に仕事に集中できやしねえ。 ここにはヒロインもヒーローもいやしない。 それでもどっこい生きている。 噂話にまみれつつ毎日をエンジョイする女の子の伝聞恋愛ファンタジー。    

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

【魔導具師マリオンの誤解】 ~陰謀で幼馴染みの王子に追放されたけど美味しいごはんともふもふに夢中なので必死で探されても知らんぷりします

真義あさひ
BL
だいたいタイトル通りの前世からの因縁カプもの、剣聖王子×可憐な錬金魔導具師の幼馴染みライトBL。 攻の王子はとりあえず頑張れと応援してやってください……w ◇◇◇ 「マリオン・ブルー。貴様のような能無しはこの誉れある研究学園には必要ない! 本日をもって退学処分を言い渡す!」 マリオンはいくつもコンクールで受賞している優秀な魔導具師だ。業績を見込まれて幼馴染みの他国の王子に研究学園の講師として招かれたのだが……なぜか生徒に間違われ、自分を呼び寄せたはずの王子からは嫌がらせのオンパレード。 ついに退学の追放処分まで言い渡されて意味がわからない。 (だから僕は学生じゃないよ、講師! 追放するなら退学じゃなくて解雇でしょ!?) マリオンにとって王子は初恋の人だ。幼い頃みたく仲良くしたいのに王子はマリオンの話を聞いてくれない。 王子から大切なものを踏みつけられ、傷つけられて折れた心を抱え泣きながら逃げ出すことになる。 だがそれはすべて誤解だった。王子は偽物で、本物は事情があって学園には通っていなかったのだ。 事態を知った王子は必死でマリオンを探し始めたが、マリオンは戻るつもりはなかった。 もふもふドラゴンの友達と一緒だし、潜伏先では綺麗なお姉さんたちに匿われて毎日ごはんもおいしい。 だがマリオンは知らない。 「これぐらいで諦められるなら、俺は転生してまで追いかけてないんだよ!」 王子と自分は前世からずーっと同じような追いかけっこを繰り返していたのだ。

【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います

ほしふり
BL
ーーーーー魔王の妻、常闇の魔女リアーネは死んだ。 それから五百年の時を経てリアーネの魂は転生したものの、生まれた場所は人間の王国であり、第三王子リグレットは忌み子として恐れられていた。 王族とは思えない隠遁生活を送る中、前世の夫である魔王ベルグラに関して不穏な噂を耳にする。 いったいこの五百年の間、元夫に何があったのだろうか…?

帝国皇子のお婿さんになりました

クリム
BL
 帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。  そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。 「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」 「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」 「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」 「うん、クーちゃん」 「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」  これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》

クリム
BL
「婚約を破棄します」相手から望まれたから『婚約破棄』をし続けた王息のサリオンはわずか十歳で『婚約破棄王子』と呼ばれていた。サリオンは落実(らくじつ)故に王族の容姿をしていない。ガルド神に呪われていたからだ。 そんな中、大公の孫のアーロンと婚約をする。アーロンの明るさと自信に満ち溢れた姿に、サリオンは戸惑いつつ婚約をする。しかし、サリオンの呪いは容姿だけではなかった。離宮で晒す姿は夜になると魔獣に変幻するのである。 アーロンにはそれを告げられず、サリオンは兄に連れられ王領地の魔の森の入り口で金の獅子型の魔獣に出会う。変幻していたサリオンは魔獣に懐かれるが、二日の滞在で別れも告げられず離宮に戻る。 その後魔力の強いサリオンは兄の勧めで貴族学舎に行く前に、王領魔法学舎に行くように勧められて魔の森の中へ。そこには小さな先生を取り囲む平民の子どもたちがいた。 サリオンの魔法学舎から貴族学舎、兄セシルの王位継承問題へと向かい、サリオンの呪いと金の魔獣。そしてアーロンとの関係。そんなファンタジーな物語です。 一人称視点ですが、途中三人称視点に変化します。 R18は多分なるからつけました。 2020年10月18日、題名を変更しました。 『婚約破棄王子は魔獣に愛される』→『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』です。 前作『花嫁』とリンクしますが、前作を読まなくても大丈夫です。(前作から二十年ほど経過しています)

処理中です...