64 / 82
64.卵が出てきちゃう!
しおりを挟む
お母さんの洞窟は、久しぶりだ。懐かしい感じがして、走り回った。以前より洞窟が狭くなった気がする。
「ウェパルが大きくなったのよ」
「っ! 僕、大きくなってる?」
頷くお母さんに大喜びして、また走り回った。そっか、僕はちゃんと大きくなっているんだ。きっとベル様よりずっと大きくなって、お父さんやお祖父ちゃんくらいになる。そうしたら、ベル様を背中に乗せて飛ぶんだ。
僕の夢を聞いて、お母さんはうんうんと何度も首を縦に振る。それが嬉しかった。お母さんが卵を産むのはもうすぐで、赤ちゃんが出てくるのは半年くらい先だ。予定を聞いて、今からわくわくした。
ベル様と一緒に用意した干し草を積んで、絨毯を上に敷く。少し足りないかな? 心配になったけれど、お母さんはくるんと丸くなって「十分な大きさよ」と笑った。干し草もあるから、大丈夫みたい。
「弟と妹、どっちがいい?」
お父さんは女の子が欲しいと言ってた。僕が男の子だからかな? でもその後に、やっぱり男の子……と呟く。女の子はお嫁に行っちゃうから、だって。変なの、僕は男の子だけど奥さんになるよ。どっちでも誰かと結婚しちゃうから、同じだよ。
それに、お父さんにはお母さんがいる。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんみたいに、一緒に歳を取るんでしょ? 僕もベル様と生きていくんだ。生まれる妹か弟も、好きな人ができて幸せになればいいな。
僕の言葉に、お母さんは声をあげて笑った。
「ずいぶん先の心配ね。でもきっと、この子も喜ぶわ」
良かった。僕はちゃんとお兄ちゃんの役割をするからね。お母さんのお腹を撫でた。ぽっこりしている部分が卵だ。何度も撫でていたら、変な感じがした。後ろにまだいる?
「お母さん、あのね……」
卵の後ろに何かいる。そう告げる前に、お母さんが顔を歪めた。痛い時の顔だ。どうしよう。
パニックになった僕をベル様が抱き上げた。お父さんも慌てて近づくが、お母さんは痛くて呻き声を上げる。手足をばたつかせて、お母さんは尻尾も振り回した。お父さんが近寄れなくて、オロオロしている。
「ベル様、どうしよう」
「ドラゴンの産卵に立ち会うのは初めてだ、俺もよく分からん」
え? そうなの? えっと、じゃあ……お祖母ちゃんだ。お父さんに、お祖母ちゃんを呼んできてと頼む。大慌てで駆け出すお父さんを見送り、ベル様は僕をしっかり腕に抱いた。落ちないよう、首に手を回す。
お母さんの尻尾や手足が当たらないよう、後ろへ下がった。苦しいのかな、それとも痛いの? どうしたら楽になるだろう。心配する僕達は何もできない。泣きそうになった頃、お祖母ちゃんが飛んできた。
「おや、少し早かったね」
お祖母ちゃんは慣れた様子で、ひょいっとお母さんの尻尾を避けて近づく。頭を少し下げて、ぐいとお腹を押した。
「うぅ……っ、出る!!」
お母さんが叫んだ声に、お祖母ちゃんから指示が出た。
「魔王様、受け止めとくれ」
「あ、ああ!」
僕を抱っこしたまま、ベル様はお母さんの尻尾の方へ向かう。直後、お母さんの尻尾の付け根が大きく開いて、ぽんと何かが飛んできた。
「ウェパルが大きくなったのよ」
「っ! 僕、大きくなってる?」
頷くお母さんに大喜びして、また走り回った。そっか、僕はちゃんと大きくなっているんだ。きっとベル様よりずっと大きくなって、お父さんやお祖父ちゃんくらいになる。そうしたら、ベル様を背中に乗せて飛ぶんだ。
僕の夢を聞いて、お母さんはうんうんと何度も首を縦に振る。それが嬉しかった。お母さんが卵を産むのはもうすぐで、赤ちゃんが出てくるのは半年くらい先だ。予定を聞いて、今からわくわくした。
ベル様と一緒に用意した干し草を積んで、絨毯を上に敷く。少し足りないかな? 心配になったけれど、お母さんはくるんと丸くなって「十分な大きさよ」と笑った。干し草もあるから、大丈夫みたい。
「弟と妹、どっちがいい?」
お父さんは女の子が欲しいと言ってた。僕が男の子だからかな? でもその後に、やっぱり男の子……と呟く。女の子はお嫁に行っちゃうから、だって。変なの、僕は男の子だけど奥さんになるよ。どっちでも誰かと結婚しちゃうから、同じだよ。
それに、お父さんにはお母さんがいる。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんみたいに、一緒に歳を取るんでしょ? 僕もベル様と生きていくんだ。生まれる妹か弟も、好きな人ができて幸せになればいいな。
僕の言葉に、お母さんは声をあげて笑った。
「ずいぶん先の心配ね。でもきっと、この子も喜ぶわ」
良かった。僕はちゃんとお兄ちゃんの役割をするからね。お母さんのお腹を撫でた。ぽっこりしている部分が卵だ。何度も撫でていたら、変な感じがした。後ろにまだいる?
「お母さん、あのね……」
卵の後ろに何かいる。そう告げる前に、お母さんが顔を歪めた。痛い時の顔だ。どうしよう。
パニックになった僕をベル様が抱き上げた。お父さんも慌てて近づくが、お母さんは痛くて呻き声を上げる。手足をばたつかせて、お母さんは尻尾も振り回した。お父さんが近寄れなくて、オロオロしている。
「ベル様、どうしよう」
「ドラゴンの産卵に立ち会うのは初めてだ、俺もよく分からん」
え? そうなの? えっと、じゃあ……お祖母ちゃんだ。お父さんに、お祖母ちゃんを呼んできてと頼む。大慌てで駆け出すお父さんを見送り、ベル様は僕をしっかり腕に抱いた。落ちないよう、首に手を回す。
お母さんの尻尾や手足が当たらないよう、後ろへ下がった。苦しいのかな、それとも痛いの? どうしたら楽になるだろう。心配する僕達は何もできない。泣きそうになった頃、お祖母ちゃんが飛んできた。
「おや、少し早かったね」
お祖母ちゃんは慣れた様子で、ひょいっとお母さんの尻尾を避けて近づく。頭を少し下げて、ぐいとお腹を押した。
「うぅ……っ、出る!!」
お母さんが叫んだ声に、お祖母ちゃんから指示が出た。
「魔王様、受け止めとくれ」
「あ、ああ!」
僕を抱っこしたまま、ベル様はお母さんの尻尾の方へ向かう。直後、お母さんの尻尾の付け根が大きく開いて、ぽんと何かが飛んできた。
57
お気に入りに追加
535
あなたにおすすめの小説
【完結】少年王が望むは…
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。
狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。
表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。
権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は?
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
【注意】※印は性的表現有ります

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる