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57.海は痛くて辛くてベタベタする
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海は塩からい。ベル様の説明を聞きながら、ずっと腕にしがみ付いている。落ちて、また目が痛くなったら嫌だった。体がずっとベタベタする。これも気持ち悪い。海って嫌な場所なのかも。
「そんなに怖いか?」
「だって痛いもん」
口に入った海の水は痛くて苦いし、目に入ったら見えなくなった。もう同じ目に遭いたくない。そう伝えたら、ベル様は海の奥の方を指差した。
「あの辺りの海底に潜るつもりだったが」
「え? ベル様は行くの?」
頷くから悩む。痛いし怖いけど、ベル様を一人で行かせるのは奥さん失格だと思う。それに僕だけ置いていかれたら、寂しくなっちゃう。追いかけられないから、余計に嫌だった。
どうしようか迷って、全部素直に伝えた。すると僕の頬に口付けが触れる。嬉しくなって顔を近づけ、伸び上がって唇に口をくっ付けた。ぺろっと舐めたら、塩の味がする。僕が知っている塩は、山の洞窟の奥にあった。時々、小さなカケラを舐めるの。
海の水には、その塩がすごくたくさん溶けているらしい。ベル様は海に入っていないのに、口の周りが塩っぱい。続けて舐めていたら、止められた。
「ウェパル、口同士で舐めるのは……その」
「いけないの?」
「いけなくないが、二人きりの時だけだ」
「今は二人だよ」
なんで止めたんだろう。ぺろっともう一度舐める。嫌そうな顔じゃないから、平気だね。もう一回と思ったら、べろを吸われた。噛んで食べられたかと思ったよ。じゅるっと音がして、僕は動けなくなる。びっくりした。
「……っ、悪かった」
悪くない。首を横に振ったけど、どうしたらいいか分からない。ベル様の首に手を回して、ぺたりと抱き付いた。胸もお腹も頬も、ベル様の肌にくっつける。
「生殺しとはこのことか」
生転がし? 首を傾げたものの、何となく聞きづらい。ベル様は眉間に皺を寄せて、海を睨んでいた。僕も同じ方向を見つめる。お日様が落ちてきていた。後少しで海に飲み込まれそう。
「海に落ちたら、お日様消えちゃうかな」
「明日もちゃんと昇るから大丈夫だ」
ぽんぽんと背中を叩くベル様の提案で、今日は海のそばで眠ることにした。洞窟じゃなくて、森の中に屋根を作る。ベル様が魔法で木を倒して、それを組み立てたんだ。あっという間だったし、立派な屋根だよ。
僕は柔らかそうな草を集めて、細いブレスで乾かす。詰んだばかりの草は湿って、冷たいから。乾かした草がいいんだ。直接ブレスが触れると燃えちゃうから、少し離れた場所にふぅと吹いた。
「器用だな」
「ありがとう」
このくらいは僕も手伝える。さっきの魔法で屋根を作るのは無理だけど、ブレスは覚えたからね。ブレスで干し草を用意し、ふかふかに敷き詰めた。何度もくるくる回って、丸めていく。寝床を作る仕事は、僕の担当だ。快適な寝床を作るから待ってて!
「そんなに怖いか?」
「だって痛いもん」
口に入った海の水は痛くて苦いし、目に入ったら見えなくなった。もう同じ目に遭いたくない。そう伝えたら、ベル様は海の奥の方を指差した。
「あの辺りの海底に潜るつもりだったが」
「え? ベル様は行くの?」
頷くから悩む。痛いし怖いけど、ベル様を一人で行かせるのは奥さん失格だと思う。それに僕だけ置いていかれたら、寂しくなっちゃう。追いかけられないから、余計に嫌だった。
どうしようか迷って、全部素直に伝えた。すると僕の頬に口付けが触れる。嬉しくなって顔を近づけ、伸び上がって唇に口をくっ付けた。ぺろっと舐めたら、塩の味がする。僕が知っている塩は、山の洞窟の奥にあった。時々、小さなカケラを舐めるの。
海の水には、その塩がすごくたくさん溶けているらしい。ベル様は海に入っていないのに、口の周りが塩っぱい。続けて舐めていたら、止められた。
「ウェパル、口同士で舐めるのは……その」
「いけないの?」
「いけなくないが、二人きりの時だけだ」
「今は二人だよ」
なんで止めたんだろう。ぺろっともう一度舐める。嫌そうな顔じゃないから、平気だね。もう一回と思ったら、べろを吸われた。噛んで食べられたかと思ったよ。じゅるっと音がして、僕は動けなくなる。びっくりした。
「……っ、悪かった」
悪くない。首を横に振ったけど、どうしたらいいか分からない。ベル様の首に手を回して、ぺたりと抱き付いた。胸もお腹も頬も、ベル様の肌にくっつける。
「生殺しとはこのことか」
生転がし? 首を傾げたものの、何となく聞きづらい。ベル様は眉間に皺を寄せて、海を睨んでいた。僕も同じ方向を見つめる。お日様が落ちてきていた。後少しで海に飲み込まれそう。
「海に落ちたら、お日様消えちゃうかな」
「明日もちゃんと昇るから大丈夫だ」
ぽんぽんと背中を叩くベル様の提案で、今日は海のそばで眠ることにした。洞窟じゃなくて、森の中に屋根を作る。ベル様が魔法で木を倒して、それを組み立てたんだ。あっという間だったし、立派な屋根だよ。
僕は柔らかそうな草を集めて、細いブレスで乾かす。詰んだばかりの草は湿って、冷たいから。乾かした草がいいんだ。直接ブレスが触れると燃えちゃうから、少し離れた場所にふぅと吹いた。
「器用だな」
「ありがとう」
このくらいは僕も手伝える。さっきの魔法で屋根を作るのは無理だけど、ブレスは覚えたからね。ブレスで干し草を用意し、ふかふかに敷き詰めた。何度もくるくる回って、丸めていく。寝床を作る仕事は、僕の担当だ。快適な寝床を作るから待ってて!
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