43 / 82
43.特別な口付けがしたいの
しおりを挟む
いつも通り起きて顔を洗う。ご飯用の鳥は、ベル様が落としてくれた。羽ごと焼いて外の焦げた皮を剥いて、鍋に入れる。このお料理は、ベル様が昔食べていたんだって。
湖の近くに生えている匂いがする草をいくつか選んで入れて、後は煮えるのを待つだけ。気になって何度も蓋を開けていたら、ベル様に後ろから捕獲された。
「イタズラばかりだな」
顔は見えないけど声は笑ってて、じたばたと両手足を動かす。体がぴたりと触れ合ってないから、なんだか怖い。高いわけじゃないんだけど。
「イタズラじゃないもん」
「火傷はしないだろうが、危ないぞ」
熱いお湯が掛かったら、お鍋の具材になるぞ。そう言われてびっくりした。危ない、お料理終わるまで近づかないようにしよう。大事な尻尾がご飯になっちゃう。
ドラゴンにとって尻尾は大事な部分で、立派な尻尾があるとモテる。お父さんもお母さんの尻尾に惚れて求愛したし、お祖父ちゃんも同じ。僕はベル様がいるけど、求愛の時は尻尾を褒めてほしい。だから綺麗な尻尾を保ちたかった。
ベル様が抱き寄せてくれたので、変な不安は消えた。振り返ると、笑いながら額に唇が当たる。口付けは普段からしていて、僕は最近物足りない。口同士も好きだけど、もっと特別なのが欲しかった。
ベル様には言ってない。前に吸血鬼のおねえさんが、耳長のおにいさんと唇をくっつけてた。その時は、べろも出ていたんだ。絡めて吸って、じゅるっと音がした。特別な感じで、ドキドキしながら隠れてみていたの。
あれを僕もしてみたい。でも恥ずかしくて言えなかった。嫌われても嫌だし、僕の口は人型じゃないから、べろを舐めるのは難しいかもしれない。いろいろ考えていたら、お鍋の中の鳥が煮えた。
「あーん、だ。ウェパル」
ベル様は熱い鍋に手を入れて、お肉を摘む。湯気がいっぱい出てるそれを、僕はがぶりと齧った。中の骨もバリバリと噛み砕く。美味しい。ベル様は骨を食べないんだ。掴んだお肉をそっと差し出すと、ベル様は直接食べた。
僕の手から食べるの。ドラゴンが食べさせ合うのは、番の証拠だった。僕は伴侶で番で奥さんだから、ベル様に食べてもらうのも、食べさせてもらうのも嬉しい。
ちゅっと音をさせて、骨を持っている僕の手に口付けされた。どきっとする。首を傾げて顔を近づけた。口付けしたい。口と口を合わせて、べろを舐めたいな。
気づいたベル様は、嫌な顔をしなかった。口の先が触れた時、べろを出してみる。先が触れたら、ベル様は驚いた顔をして……。慌てて引っ込めようとしたのに、じゅるると吸われた。びっくりして引っ込めたら、牙で切っちゃった。
べろを追いかけてきた、ベル様の舌が絡まって……今度は僕が目を見開いた。僕、特別な口付けをしてる?
「大変です、人間どもが……っ! と、失礼しました」
飛び込んだのは翼の人だ。両腕が翼になっているので、今は見張りのお仕事をしていた。報告の途中で後ろを向いてしまう。きょとんとした僕の頭を撫でながら、ベル様はくすくすと笑った。
「構わん、報告しろ」
「は、はい。人間どもが攻めてきました。その数、およそ一万です」
「ご苦労」
ベル様はきりっとした顔で返す。翼の人は他の魔族に報告するために飛んでいった。
「戦うの?」
「そうだな、いや……蹴散らすの方が近い」
僕には違いが分からないけど、ベル様が勝つことは分かる。ところで、さっきの口付けは特別なので合ってる?
湖の近くに生えている匂いがする草をいくつか選んで入れて、後は煮えるのを待つだけ。気になって何度も蓋を開けていたら、ベル様に後ろから捕獲された。
「イタズラばかりだな」
顔は見えないけど声は笑ってて、じたばたと両手足を動かす。体がぴたりと触れ合ってないから、なんだか怖い。高いわけじゃないんだけど。
「イタズラじゃないもん」
「火傷はしないだろうが、危ないぞ」
熱いお湯が掛かったら、お鍋の具材になるぞ。そう言われてびっくりした。危ない、お料理終わるまで近づかないようにしよう。大事な尻尾がご飯になっちゃう。
ドラゴンにとって尻尾は大事な部分で、立派な尻尾があるとモテる。お父さんもお母さんの尻尾に惚れて求愛したし、お祖父ちゃんも同じ。僕はベル様がいるけど、求愛の時は尻尾を褒めてほしい。だから綺麗な尻尾を保ちたかった。
ベル様が抱き寄せてくれたので、変な不安は消えた。振り返ると、笑いながら額に唇が当たる。口付けは普段からしていて、僕は最近物足りない。口同士も好きだけど、もっと特別なのが欲しかった。
ベル様には言ってない。前に吸血鬼のおねえさんが、耳長のおにいさんと唇をくっつけてた。その時は、べろも出ていたんだ。絡めて吸って、じゅるっと音がした。特別な感じで、ドキドキしながら隠れてみていたの。
あれを僕もしてみたい。でも恥ずかしくて言えなかった。嫌われても嫌だし、僕の口は人型じゃないから、べろを舐めるのは難しいかもしれない。いろいろ考えていたら、お鍋の中の鳥が煮えた。
「あーん、だ。ウェパル」
ベル様は熱い鍋に手を入れて、お肉を摘む。湯気がいっぱい出てるそれを、僕はがぶりと齧った。中の骨もバリバリと噛み砕く。美味しい。ベル様は骨を食べないんだ。掴んだお肉をそっと差し出すと、ベル様は直接食べた。
僕の手から食べるの。ドラゴンが食べさせ合うのは、番の証拠だった。僕は伴侶で番で奥さんだから、ベル様に食べてもらうのも、食べさせてもらうのも嬉しい。
ちゅっと音をさせて、骨を持っている僕の手に口付けされた。どきっとする。首を傾げて顔を近づけた。口付けしたい。口と口を合わせて、べろを舐めたいな。
気づいたベル様は、嫌な顔をしなかった。口の先が触れた時、べろを出してみる。先が触れたら、ベル様は驚いた顔をして……。慌てて引っ込めようとしたのに、じゅるると吸われた。びっくりして引っ込めたら、牙で切っちゃった。
べろを追いかけてきた、ベル様の舌が絡まって……今度は僕が目を見開いた。僕、特別な口付けをしてる?
「大変です、人間どもが……っ! と、失礼しました」
飛び込んだのは翼の人だ。両腕が翼になっているので、今は見張りのお仕事をしていた。報告の途中で後ろを向いてしまう。きょとんとした僕の頭を撫でながら、ベル様はくすくすと笑った。
「構わん、報告しろ」
「は、はい。人間どもが攻めてきました。その数、およそ一万です」
「ご苦労」
ベル様はきりっとした顔で返す。翼の人は他の魔族に報告するために飛んでいった。
「戦うの?」
「そうだな、いや……蹴散らすの方が近い」
僕には違いが分からないけど、ベル様が勝つことは分かる。ところで、さっきの口付けは特別なので合ってる?
31
お気に入りに追加
474
あなたにおすすめの小説
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
君と秘密の部屋
325号室の住人
BL
☆全3話 完結致しました。
「いつから知っていたの?」
今、廊下の突き当りにある第3書庫準備室で僕を壁ドンしてる1歳年上の先輩は、乙女ゲームの攻略対象者の1人だ。
対して僕はただのモブ。
この世界があのゲームの舞台であると知ってしまった僕は、この第3書庫準備室の片隅でこっそりと2次創作のBLを書いていた。
それが、この目の前の人に、主人公のモデルが彼であるとバレてしまったのだ。
筆頭攻略対象者第2王子✕モブヲタ腐男子
【完結】うたかたの夢
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
ホストとして生計を立てるサリエルは、女を手玉に取る高嶺の花。どれだけ金を積まれても、美女として名高い女性相手であろうと落ちないことで有名だった。冷たく残酷な男は、ある夜1人の青年と再会を果たす。運命の歯車が軋んだ音で回り始めた。
ホスト×拾われた青年、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血あり
※印は性的表現あり
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
全33話、2019/11/27完
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?
第十王子は天然侍従には敵わない。
きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」
学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。
今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる