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41.好き、大好き、その先は分からない

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 あれから五年経った。僕は尻尾の半分くらい大きくなったと思う。ベル様達が人間をやっつけて、子どもが攫われることが減った。どうしても時々、卵や子どもを奪いにくる奴はいる。

 ベル様の命令で、見回りをする魔族が発見するんだよ。すぐに仲間を呼んで、わっと囲んで捨てちゃう。だから連れ去られる子は本当に減っている。たまに連れていかれちゃう子も出るけど、すぐにベル様が取り返した。

 子どもは魔族の宝なんだって。僕は早く大人になりたいけど、ベル様の宝物でいたいから子どもでもいいな。そんな話をしたら、大きく育っても僕は宝物で奥さんだと言われた。嬉しい。

「魔王城は作らないの?」

「お城が欲しいか」

 逆に問われて、僕はうーんと考え込んだ。お城に住みたいとは思わない。だって建物の中は窮屈だもん。でも、魔王様はお城に住むと聞いた。お母さんが話してくれた昔話でも、魔王様はお城に住んでいる。僕のせいで、魔王様のベル様がお城に住めないのは嫌だった。

 頑張って伝えると、頬に口付けされる。ベル様は嬉そうに笑っていた。

「ウェパルは俺が好きか」

「うん! 大好き。すごくすごく好き」

 大きさを示すために両手を目一杯広げて、腕の中で立ち上がる。最近翼が大きくなった気がする。広げて、こんなに大きく好きだよと示した。

 転がり落ちそうになったけど、ベル様の腕にしがみ付く。後ろに転んだら危ないから、しっかり両手でベル様を掴んだ。

「俺もウェパルが好きだ、愛している」

「愛してる、はよく分からない」

 僕も同じ気持ちを返したい。だけど嘘はつきたくなかった。お母さんによれば、好きがすごく成長すると愛しているになる。その境目は自分で気づかないこともあるみたい。僕は気づいてないだけなのかな。それともまだ好きの大きさが足りないのかも。

「僕、ベル様をすごく好きなの。でも愛してるは分からないよ」

「それでいい。大人になれば、自然に理解する」

 大好きが足りていないのに、ベル様は僕を叱らない。撫でて目を細め、嬉そうにする。金色の瞳は僕のお気に入りだった。キラキラと輝いて、魔力もいっぱい感じる。でもそれより、僕を映した時のベル様の瞳が好き。金色の中に、僕の鱗の銀色が光る。

 瞬きしてもまた僕が映って、それを見ると胸がじわじわして落ち着かなかった。もそもそと尻尾を動かし、ベル様の腕に巻き付ける。これなら落ちないよね。両手を伸ばして、ベル様の頬を包む。ドラゴンだから、僕の手はベル様より小さい。指だって短いけど、ぺたりと吸い付いた。

 ぐっと背伸びして、ベル様の唇に口を押し付ける。これは特別な好きの合図だった。ドキドキするし、ほわんと幸せな気分になれる。毎日、一回はするの。朝起きた時もしたけど、今もしたかった。

「ありがとう、ウェパル」

 口同士の口付けは、いつもお礼を言われる。僕がすると必ずだよ。ベル様がしてくれた時は、僕もありがとうを伝えるようにした。顔が赤くなるけれどね。

「うわぁあああ! 息子が……ウェパルがぁああ!」

 ちらっと縦穴の方を見て、泣いているお父さんに気づく。ベル様は平然としているから、とっくに知っていたみたい。へにょりと尻尾を垂らし、一緒に来たお母さんに背中を叩かれていた。

「ほら、いつまで泣いてるの」

 いつも思うけど、お父さんよりお母さんの方が強いよね。僕がベル様より強くなるのは無理そうだ。別に同じじゃなくてもいいかな。
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