【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
38 / 82

38.まずは城を落とす(ベルSIDE)

しおりを挟む
 魔王がいなければ、魔族の力は半減する。なぜかこの法則は共通らしい。以前の世界でも、この世界でも、魔王が在位することで魔族は活性化する。法則の理由なんてどうでもよかった。

 人族を叩くのに、足手纏いは不要だ。その意味で、彼らの能力が増強されるのは歓迎すべき状況だった。率いた魔族は、各種族の重鎮ばかり。長寿で経験豊かな彼らなら、人間相手に遅れを取る心配はなかった。

「俺は城を落とす」

 だから、お前達は好きにしろ。そう告げたつもりだった。しかし魔族は違う意味に捉えたらしい。半数近くが俺の援護に入り、残る半数は都に散らばった。混乱を引き起こし、人間に報復を知らせる。

 都の襲撃に回る者を、ドラゴンの長であるラウムが纏めた。魔王不在の時期、竜が代理を勤める。ウェパルの祖父ラウムは、大きく咆哮を上げて飛び立った。慌てふためく人々が逃げ回る姿を上空から眺め、中央付近に建つ大きな建物を見下ろす。

 権力者は大きな塔を建て、立派な屋敷に住みたがるものだ。無駄に大きな敷地は、ぐるりと塀に囲まれていた。なぜか権力を持つと、他者からの襲撃を恐れる。そのくらいならば、城など築かねばよいものを。

 城の中庭に降り立つ。長い黒髪がさらりと風に揺れた。背後に火竜オリアスが控える。周囲にヴラドを始めとする魔族が並んだ。外見に人外の特徴を備えながら、統一性はない。

 駆けつけた兵士は遠巻きに槍を構えるだけで、近づこうとしなかった。人間にしては賢い選択だ。その臆病さは命を僅かに伸ばしてくれる。

「王はどこだ?」

「貴様っ! 何者だ!!」

 静かに問うたというのに、大声で怒鳴る。しかも返答になっていなかった。周囲の兵士と違いマントを靡かせたこの男なら、よい見せしめになる。何もない空中、視線の先で右手をゆっくり握り込んだ。

 ぐっ……喉の詰まる音がして、隊長らしき男の首が絞まる。苦しそうに踠く足元は、少し浮いていた。その不自然さに人間は混乱し、大騒ぎを始めた。

「もう一度だけ問う。王はどこだ」

 数人の兵士が、視線を建物へ向けた。左側、奥の方角だ。どうやら、その辺りにいるらしい。玉座の間か、はたまた居住区か。どちらでも同じことだ。足を踏み出し、思い出したように右手を払いのけた。首の絞まった男が叩きつけられる。石床に赤い色が広がった。

「ウェパルを置いてきたのは、このためですか」

「進んで見せたい光景ではない」

 オリアスの疑問に、同意した。あの子はドラゴンらしい性格をしている。だからさほど気にしないだろう。しかし未来の妻であり、愛する存在に自らの残虐な姿を見せつけ……万が一にも恐れられたら。

 そう考えると怖かった。あの子に嫌われることもそうだが、嫌だと泣き叫んでも閉じ込めてしまうこと。俺以外が接触できないよう隔離し、懇願されても逃さない。そんな絶望的な未来を、無邪気なあの子に押し付けたくなかった。

「面倒だ、焼き払え」

 俺の命令にぱちくりと目を瞬いたが、オリアスは素直に従った。人間共がこそこそ隠れる建物を、歩き回る気はない。襲撃にケガを負う心配はしないが、手間がかかる。早くウェパルの元へ戻りたかった。

 大きく息を吸い込んだオリアスが、魔力を喉に集約させる。一気に吐き出したブレスは、城の中央を吹き飛ばした。三本ある塔の二本が崩れ、残る一本も傾いている。

 スタスタと炎が残る瓦礫の上を歩き出した俺に、肩を竦めた魔族の長達が付き従った。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

【完結】少年王が望むは…

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...