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38.まずは城を落とす(ベルSIDE)
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魔王がいなければ、魔族の力は半減する。なぜかこの法則は共通らしい。以前の世界でも、この世界でも、魔王が在位することで魔族は活性化する。法則の理由なんてどうでもよかった。
人族を叩くのに、足手纏いは不要だ。その意味で、彼らの能力が増強されるのは歓迎すべき状況だった。率いた魔族は、各種族の重鎮ばかり。長寿で経験豊かな彼らなら、人間相手に遅れを取る心配はなかった。
「俺は城を落とす」
だから、お前達は好きにしろ。そう告げたつもりだった。しかし魔族は違う意味に捉えたらしい。半数近くが俺の援護に入り、残る半数は都に散らばった。混乱を引き起こし、人間に報復を知らせる。
都の襲撃に回る者を、ドラゴンの長であるラウムが纏めた。魔王不在の時期、竜が代理を勤める。ウェパルの祖父ラウムは、大きく咆哮を上げて飛び立った。慌てふためく人々が逃げ回る姿を上空から眺め、中央付近に建つ大きな建物を見下ろす。
権力者は大きな塔を建て、立派な屋敷に住みたがるものだ。無駄に大きな敷地は、ぐるりと塀に囲まれていた。なぜか権力を持つと、他者からの襲撃を恐れる。そのくらいならば、城など築かねばよいものを。
城の中庭に降り立つ。長い黒髪がさらりと風に揺れた。背後に火竜オリアスが控える。周囲にヴラドを始めとする魔族が並んだ。外見に人外の特徴を備えながら、統一性はない。
駆けつけた兵士は遠巻きに槍を構えるだけで、近づこうとしなかった。人間にしては賢い選択だ。その臆病さは命を僅かに伸ばしてくれる。
「王はどこだ?」
「貴様っ! 何者だ!!」
静かに問うたというのに、大声で怒鳴る。しかも返答になっていなかった。周囲の兵士と違いマントを靡かせたこの男なら、よい見せしめになる。何もない空中、視線の先で右手をゆっくり握り込んだ。
ぐっ……喉の詰まる音がして、隊長らしき男の首が絞まる。苦しそうに踠く足元は、少し浮いていた。その不自然さに人間は混乱し、大騒ぎを始めた。
「もう一度だけ問う。王はどこだ」
数人の兵士が、視線を建物へ向けた。左側、奥の方角だ。どうやら、その辺りにいるらしい。玉座の間か、はたまた居住区か。どちらでも同じことだ。足を踏み出し、思い出したように右手を払いのけた。首の絞まった男が叩きつけられる。石床に赤い色が広がった。
「ウェパルを置いてきたのは、このためですか」
「進んで見せたい光景ではない」
オリアスの疑問に、同意した。あの子はドラゴンらしい性格をしている。だからさほど気にしないだろう。しかし未来の妻であり、愛する存在に自らの残虐な姿を見せつけ……万が一にも恐れられたら。
そう考えると怖かった。あの子に嫌われることもそうだが、嫌だと泣き叫んでも閉じ込めてしまうこと。俺以外が接触できないよう隔離し、懇願されても逃さない。そんな絶望的な未来を、無邪気なあの子に押し付けたくなかった。
「面倒だ、焼き払え」
俺の命令にぱちくりと目を瞬いたが、オリアスは素直に従った。人間共がこそこそ隠れる建物を、歩き回る気はない。襲撃にケガを負う心配はしないが、手間がかかる。早くウェパルの元へ戻りたかった。
大きく息を吸い込んだオリアスが、魔力を喉に集約させる。一気に吐き出したブレスは、城の中央を吹き飛ばした。三本ある塔の二本が崩れ、残る一本も傾いている。
スタスタと炎が残る瓦礫の上を歩き出した俺に、肩を竦めた魔族の長達が付き従った。
人族を叩くのに、足手纏いは不要だ。その意味で、彼らの能力が増強されるのは歓迎すべき状況だった。率いた魔族は、各種族の重鎮ばかり。長寿で経験豊かな彼らなら、人間相手に遅れを取る心配はなかった。
「俺は城を落とす」
だから、お前達は好きにしろ。そう告げたつもりだった。しかし魔族は違う意味に捉えたらしい。半数近くが俺の援護に入り、残る半数は都に散らばった。混乱を引き起こし、人間に報復を知らせる。
都の襲撃に回る者を、ドラゴンの長であるラウムが纏めた。魔王不在の時期、竜が代理を勤める。ウェパルの祖父ラウムは、大きく咆哮を上げて飛び立った。慌てふためく人々が逃げ回る姿を上空から眺め、中央付近に建つ大きな建物を見下ろす。
権力者は大きな塔を建て、立派な屋敷に住みたがるものだ。無駄に大きな敷地は、ぐるりと塀に囲まれていた。なぜか権力を持つと、他者からの襲撃を恐れる。そのくらいならば、城など築かねばよいものを。
城の中庭に降り立つ。長い黒髪がさらりと風に揺れた。背後に火竜オリアスが控える。周囲にヴラドを始めとする魔族が並んだ。外見に人外の特徴を備えながら、統一性はない。
駆けつけた兵士は遠巻きに槍を構えるだけで、近づこうとしなかった。人間にしては賢い選択だ。その臆病さは命を僅かに伸ばしてくれる。
「王はどこだ?」
「貴様っ! 何者だ!!」
静かに問うたというのに、大声で怒鳴る。しかも返答になっていなかった。周囲の兵士と違いマントを靡かせたこの男なら、よい見せしめになる。何もない空中、視線の先で右手をゆっくり握り込んだ。
ぐっ……喉の詰まる音がして、隊長らしき男の首が絞まる。苦しそうに踠く足元は、少し浮いていた。その不自然さに人間は混乱し、大騒ぎを始めた。
「もう一度だけ問う。王はどこだ」
数人の兵士が、視線を建物へ向けた。左側、奥の方角だ。どうやら、その辺りにいるらしい。玉座の間か、はたまた居住区か。どちらでも同じことだ。足を踏み出し、思い出したように右手を払いのけた。首の絞まった男が叩きつけられる。石床に赤い色が広がった。
「ウェパルを置いてきたのは、このためですか」
「進んで見せたい光景ではない」
オリアスの疑問に、同意した。あの子はドラゴンらしい性格をしている。だからさほど気にしないだろう。しかし未来の妻であり、愛する存在に自らの残虐な姿を見せつけ……万が一にも恐れられたら。
そう考えると怖かった。あの子に嫌われることもそうだが、嫌だと泣き叫んでも閉じ込めてしまうこと。俺以外が接触できないよう隔離し、懇願されても逃さない。そんな絶望的な未来を、無邪気なあの子に押し付けたくなかった。
「面倒だ、焼き払え」
俺の命令にぱちくりと目を瞬いたが、オリアスは素直に従った。人間共がこそこそ隠れる建物を、歩き回る気はない。襲撃にケガを負う心配はしないが、手間がかかる。早くウェパルの元へ戻りたかった。
大きく息を吸い込んだオリアスが、魔力を喉に集約させる。一気に吐き出したブレスは、城の中央を吹き飛ばした。三本ある塔の二本が崩れ、残る一本も傾いている。
スタスタと炎が残る瓦礫の上を歩き出した俺に、肩を竦めた魔族の長達が付き従った。
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