【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
37 / 82

37.巣のそばでブレスはダメ

しおりを挟む
 お家はいっぱいの魔族が集まっている。僕は巣の上に下ろされ、そこにベル様は魔法を用意した。魔法陣という丸と模様が組み合わさった絵を描く。空中なのに、ぴたっと固定された。

「治癒の魔法陣だ。可能な限り出ないでくれ」

「うん」

 頷いたけど、準備をしている人を見ると羨ましい。僕も行きたかったな。ケガしたから置いていかれる。今度は人間に出会ってもケガしないよう、強くなろう。お母さんに新しいブレスを教えてもらわないと。ぐっと拳を握って気合いを入れる。

 右手はまだ曲がってるから、左手でやった。困ったように眉尻を下げて、ベル様が僕の頬と額に口付けをくれた。顔を近づけたまま、ベル様は自分の頬を指で突く。はっとして、僕の口を触れさせた。

「行ってくる、ウェパル」

「頑張ってね、ベル様」

 笑顔で左手を振った。こっちの手は無事だから動かしても平気。ベル様は頷いて、魔族をまとめて魔法で移動させた。

「オリアスが嫉妬して大変……ふふっ」

 お母さんが変なことを言う。お父さんが嫉妬してるの? お母さんのことが好きなのに、もしかして!

「お父さんはベル様が好きなの?」

 ぶほっ、近くにいた数人が飲み物を吹き出した。僕は驚いて目を見開く。変な虫でも入ってたのかな?

「オリアスは、ウェパルが大好きなのよ。魔王様に取られたと思ったんでしょうね」

「僕、取られてないよ。自分で行ったんだもん」

 好きだから一緒にいるのは、伴侶だって聞いた。夫婦なんだよ。お父さんも好きだけど、ベル様はもっと特別に好きだ。そう説明したら、近くにいた耳長のおねえさんが笑って頭を撫でた。

「特別な好きは大事にしなさい。きっと幸せになれるわ」

「分かった」

 僕は魔法陣の下にいた。ここなら治癒の魔法があるから、ゆっくりだけど傷が治る。それに痛くないんだ。離れていても魔法が消えないなんて、ベル様はすごく強いんだと思う。お母さんは巣をぐるりと点検して、上手に出来たと褒めた。

「立派なお嫁さんね」

「うん……」

 本当は奥さんなんだけど。お嫁さんも綺麗な響きだからいいかな。お祖母ちゃんが、縦穴から飛び立った。ご飯を探しに行ったみたい。種族がいっぱいいるから、ここに残った人が手分けして狩りに出かけた。

「みな、どうやって連れていかれたの?」

「私はお散歩していたら捕まったの」

「俺も、網を投げられた」

 耳長の子と魔狼の子は、それぞれお母さんに抱っこされて話す。安心できるよね。僕も巣ごとお母さんに包まれて安心だもん。

 他の子もほとんどは一人でいたところを攫われ、変な首輪や足輪で力が使えなかったんだって。僕に投げた鎖の先にも小さな輪がついていた。もしあれを足にはめられたら、動けなかったのかも? 嫌だな、全部壊れちゃえばいいのに。

 卵は、巣から盗まれたみたい。翼の人が教えてくれた。群れを襲う人間がいて、倒しに皆で向かった。追い払って戻ったら、卵が盗まれていたんだ。酷いことをするよね。卵はお母さん達が温めないと孵らないんだよ。

 無事で良かったと猫耳のおにいさんが笑った。ここで話が変わる。

「ところで、もうブレスを使ったんだって? すごいな」

 褒められて、嬉しくなった僕は小さなブレスを噴く。お母さんは大喜びだけど、巣の端がちょっと焦げちゃった。巣の近くではブレスはやめよう。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

処理中です...