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32.お魚は骨からもダシが取れる

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 焼いたら全然違う味になった。とろっとした感じかな。温かくてふわっと匂いがして溶けちゃう。頬を両手で押さえて食べていたら、ベル様に笑われちゃった。だって、ほっぺが落ちちゃうと思ったんだもん。

「ほら、口をあけろ」

「あーんって言って」

「あーん」

 ぱくりと食べる。僕の牙はまだ短くて、ベル様の指を傷つけない。でも大人になると鋭い牙が生えてきて、危ないから。今はたくさん食べさせてもらうんだ。ぺろりとベル様の指を舐める。びっくりしたのか、さっと指を引っ込められた。

「ダメ?」

「ダメじゃないが……驚いた」

 そっか、噛まないのにな。首を傾げた僕の前にまたお魚が来る。生だと真っ赤なのに、焼くと薄いピンク色になる。表面だけ焼くのが美味しい秘訣だと教えてもらった。中まで焼くと硬くなるし、表が焦げちゃうんだって。お肉とは違うんだね。

 二人で交互に食べさせ合う。僕もベル様も炎で火傷しないから、手で持って直接焼いた。こうすると、火で焼けていくお魚の状態が直接分かるの。焦がさないように手で覆ったりすると、もっと上手に出来る。

 残りが減ってきたところで、ベル様は生のお魚を小さく切った。僕の牙と同じくらいまで細かくして、茹でた野菜の汁に入れる。すぐに鍋を火から下ろして、地面に置かれた。じゅっと草が焦げる音がする。覗いたお鍋は、湯気で真っ白だった。

「見えないね」

「冷める頃には火が通る」

 冷めなくても食べられるけど、ベル様が待つなら僕も。並んで空の星を見ながらお話をする。一番大きい星がベル様で、隣の小さいのは僕、それであれがお祖父ちゃんとお祖母ちゃん。僕の上にあるのがお父さんで、その隣がお母さん。それから知っている魔族を片っ端から星に当てはめていく。

「ウェパルはよく覚えて賢い」

 脇に手を入れて抱き上げられた。ベル様の匂いが好き、ぎゅっと抱き着いて匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。僕からもベル様の匂いがすればいいのに。

「ウェパルは甘い匂いがする」

「僕も匂う?」

「……俺は臭うのか」

 なぜかがっかりした顔をするベル様に、慌てて説明した。両手をばたばたさせて、一生懸命話す。

「すっきりした匂いだよ、えっと、すっとする葉っぱみたいで……僕は好き」

 最後に付け加えた「好き」でベル様の表情が明るくなった。ほっとした僕はもう一度胸に顔を埋めて吸い込む。すごくいい匂いだ。お父さんやお母さんの匂いは安心するけど、ベル様はドキドキする。そう伝えたら、喜んでくれた。

「そろそろ食べるか」

 ベル様はそう言って、僕から目を逸らす。耳と首がいつもより赤いかな? 黒い艶のある肌に、ちゅっと音を立てて口を押し当てた。吸うみたいにすると、ちゅっと音がするんだよ。すぐに器に入った汁が渡された。また顔が赤い気がする。もしかして……

「ベル様、暑い?」

「そうだな、少し」

 やっぱり。僕も暑いときに顔が赤いって言われたことある。溶岩の間のどろどろにたくさん浸かるとなるんだよ。原因が分かったので安心して、野菜が入った汁を啜った。すごい、いろんな味がする。よく見たら、鍋に魚の骨も入っていた。

「あの骨も食べるの?」

「いや、出汁が取れるんだ」

 骨からダシが取れる……ダシってどんな形なんだろう?
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