上 下
17 / 82

17.魔王城はすぐ作らないの

しおりを挟む
 魔族は新しい魔王様を選んだ。僕のベル様は、魔王陛下として認められたの。でも、認めない魔族も少しいるんだって。

「仕方ない。いきなり現れて、まだ実力も示していないからな」

「そうなの? ベル様は強いのにね」

 お祖父ちゃんが認めたんだから、すごく強いと思う。そんなお話をしていたら、お祖母ちゃんが近づいてきた。本当は強さが分かるから認めてるんだけど、勿体ぶってる人もいるみたい。大人は複雑なのかな。

 僕はベル様ならすぐ「いいよ」って言っちゃうけど。そう言ったら、お父さんとお母さんが慌てた。

「簡単に許可したらダメだ」

「そうよ、焦らして焦らして、価値を高めてからあげるの。お母さんはそうしたわ」

「……なるほど。そうだったのか」

 なぜかお父さんが項垂れた。ぼそぼそと話すのは、お母さんに求愛して断られ続けた時のこと。お母さんはにこにこしているし、吸血鬼のおじさんは呼吸できなくなるほど笑い転げている。お祖父ちゃんもお祖母ちゃんにやられたとか。

 伝統なら僕もやるの? そう聞いたら、お父さんとお母さんは頷いて、ベル様は嫌そうな顔をした。

「焦らされると、襲うかもしれん」

「じゃあしない」

 ベル様が嫌ならしないよ。でも何を焦らすのか、後でお母さんに聞いておこう。大人になったら分かるかもしれない。

「ところで魔王陛下、居城はここに構えますか?」

「直すようなら、ドワーフや巨人が力を貸しますぞ」

 寄ってきた魔族の人は、口々に「魔王城は権威の象徴」と言う。権威は甘いのかな? 象徴は聞いたことある。分かったフリで、両方に頷きながら僕はベル様の腕にしがみついた。

「権威など、後からついてくる。俺のいる場所が魔王城だ」

 維持するのも大変だし、すぐは必要ない。頭の上で難しい話が行ったり来たりする。僕はきょろきょろしていたら、疲れちゃった。ぐったりとベル様に寄りかかる。ぽんぽんと背中を叩く手が気持ちよくて、目を閉じた。



 寝ちゃった? 起きたら、もう話し合いは終わっていた。集まった魔族の人は、運んできたご飯を食べている。

「ベル様も食べた?」

 ベル様は食べてない。僕が起きるのを待っていてくれたの。お母さん達も皆、待っていた。ごめんね、次は起こしてね。

「野蛮な人間が襲って来るかもしれませんのでな、城は頑丈に作る方が良いですぞ」

 ドワーフのおじさんが、真っ赤な顔で力説する。壊されたこの魔王城も、ドワーフが作ったんだけど。それより頑丈に作ると拳を振るって大声で話す。それを耳の長いお兄さんが止めた。

「うるさい」

「なんだと?!」

 ベル様の前で、二人が睨み合う。次の瞬間、ぺしゃっと潰れた。ベル様は指先をちょっと動かしただけ。何があったんだろう。

「魔族同士で争うことは許さん。何かあれば俺が仲裁に入るゆえ、勝手に騒動を起こすな」

 ただでさえ、人間という敵がいるのだ。仲間で争ってどうする! ベル様が低い声で叱ると、二人は素直に謝った。すぐに押し付ける力が消える。

 やっぱりベル様が一番強い。その人の奥さんになるんだから、僕も立派な竜にならなくちゃ!!
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】少年王が望むは…

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

処理中です...