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11.お父さんでもお母さんでもない呼び方
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ベル様に「お母さんになるの?」と聞いたら、逆だと言われた。僕がお母さん?
「僕、男の子だよ」
「奇遇だな、俺も男だ」
「……じゃあ、お父さんとお父さん?」
少し考えて、ベル様が違う呼び方を教えてくれた。向こうの世界で使っていた言葉なんだよ。
「伴侶の場合、強い方が旦那さんだ。だからウェパルは奥さんになる」
旦那さんと奥さん……初めて聞いた言葉だ。大きく頷いた。別の世界は知らないけど、僕は奥さんになる!
「ベル様は僕の旦那さんで、僕はベル様の奥さんになるの」
「そうだ、ウェパルは賢い」
褒めてもらって大きく尻尾が揺れた。新しい呼び方が気に入って、旦那さんと呼んでみる。なんか変な感じ、尻尾の付け根がむずむずする。
「やっぱりベル様がいい」
「俺もウェパルと呼ぼう」
呼び方はいつも通りにした。ただ他の人に説明するときは、旦那さんと奥さんにする。ちゃんと覚えた。
「ところで、魔王の居城は残っているか?」
「いいえ。人間に襲われた時に壊れて、今は廃墟ですよ」
一度見にいくことになった。他の種族と顔合わせもあると聞いて、分かったフリで頷く。あ、ベル様笑った? 僕が理解してないと思ってるでしょ! 半分は分かってるんだからね。
ドラゴン以外の、吸血鬼の人や狼男の人に会う話だよね。首を傾げて尋ねたら、驚いた顔をされた。僕は大人のお話もちょっと分かるんだから。
「もうすぐ大人なんだよ」
「いや……ああ、そうだな。早く大人になってくれ」
背筋を丁寧に撫でてもらい、腕の中でへにゃりと崩れた。そこ、気持ちいい。お母さんが舐めた時みたい。ふにゃふにゃしていたら、ベル様が腰をぽんぽんと叩いた。もう終わりの合図かな。
「ウェパルや、そろそろお腹が空いたんじゃないかい? 魔王様もお食事をされてから、移動してはいかがでしょう」
お祖母ちゃんの提案で、ご飯が準備される。僕は生のお肉を食べられるようになったばかり。小さく千切ったお肉をもらった。骨があると口に刺さるから危ないんだ。
「ウェパルは来ていますか」
お父さんが飛び込んできた。一緒にお母さんも。僕がここだよと手を振った。遅かったのは、途中でご飯を捕まえてきたからだ。手土産っていうの。大きな鼻の長い動物と、凶暴な縞々の動物。どちらもお肉が硬いけど、美味しいんだ。
じゅるりと口の周りを舐めた僕に、お母さんが肉を分けてくれた。本当はお祖母ちゃん達の分だけど、足の肉を少しだけ。硬い肉をもぐもぐ噛んでいたら、ベル様はすっと指先で肉を切った。
お父さんの炎みたいなので、すぐに焼いてしまう。薄く切ったお肉を、僕の口の前に差し出した。焼いたお肉は熱いと思う。
「ほら、口を開けろ。ウェパル」
「あーん」
お父さん達がしてくれる時は、あーんする。声を出して口を開けた僕は、柔らかくて温かい肉に驚いた。同じお肉だよね?
「美味しい! すごい」
「半生がいいのか。ならば、こちらも食べてみろ」
貰ったお肉を薄く切って焼くベル様は、僕がお腹いっぱいになるまで食べさせてくれた。それから残ったお肉を口にする。その姿に、ふと思いついた。
ベル様が焼いたお肉を、腕を叩いて「ちょうだい」した。受け取ったお肉をベル様の口へ運ぶ。
「ベル様、あーん」
周りが驚いた顔をしたけど、ベル様は笑ってお肉を食べてくれた。嬉しいな。次のお肉も待っているので、焼いたお肉を手で持って立ち上がる。
ベル様が楽しそうなのは嬉しいけど、早く食べてね。僕、背伸びしてるから転んじゃいそう。
「僕、男の子だよ」
「奇遇だな、俺も男だ」
「……じゃあ、お父さんとお父さん?」
少し考えて、ベル様が違う呼び方を教えてくれた。向こうの世界で使っていた言葉なんだよ。
「伴侶の場合、強い方が旦那さんだ。だからウェパルは奥さんになる」
旦那さんと奥さん……初めて聞いた言葉だ。大きく頷いた。別の世界は知らないけど、僕は奥さんになる!
「ベル様は僕の旦那さんで、僕はベル様の奥さんになるの」
「そうだ、ウェパルは賢い」
褒めてもらって大きく尻尾が揺れた。新しい呼び方が気に入って、旦那さんと呼んでみる。なんか変な感じ、尻尾の付け根がむずむずする。
「やっぱりベル様がいい」
「俺もウェパルと呼ぼう」
呼び方はいつも通りにした。ただ他の人に説明するときは、旦那さんと奥さんにする。ちゃんと覚えた。
「ところで、魔王の居城は残っているか?」
「いいえ。人間に襲われた時に壊れて、今は廃墟ですよ」
一度見にいくことになった。他の種族と顔合わせもあると聞いて、分かったフリで頷く。あ、ベル様笑った? 僕が理解してないと思ってるでしょ! 半分は分かってるんだからね。
ドラゴン以外の、吸血鬼の人や狼男の人に会う話だよね。首を傾げて尋ねたら、驚いた顔をされた。僕は大人のお話もちょっと分かるんだから。
「もうすぐ大人なんだよ」
「いや……ああ、そうだな。早く大人になってくれ」
背筋を丁寧に撫でてもらい、腕の中でへにゃりと崩れた。そこ、気持ちいい。お母さんが舐めた時みたい。ふにゃふにゃしていたら、ベル様が腰をぽんぽんと叩いた。もう終わりの合図かな。
「ウェパルや、そろそろお腹が空いたんじゃないかい? 魔王様もお食事をされてから、移動してはいかがでしょう」
お祖母ちゃんの提案で、ご飯が準備される。僕は生のお肉を食べられるようになったばかり。小さく千切ったお肉をもらった。骨があると口に刺さるから危ないんだ。
「ウェパルは来ていますか」
お父さんが飛び込んできた。一緒にお母さんも。僕がここだよと手を振った。遅かったのは、途中でご飯を捕まえてきたからだ。手土産っていうの。大きな鼻の長い動物と、凶暴な縞々の動物。どちらもお肉が硬いけど、美味しいんだ。
じゅるりと口の周りを舐めた僕に、お母さんが肉を分けてくれた。本当はお祖母ちゃん達の分だけど、足の肉を少しだけ。硬い肉をもぐもぐ噛んでいたら、ベル様はすっと指先で肉を切った。
お父さんの炎みたいなので、すぐに焼いてしまう。薄く切ったお肉を、僕の口の前に差し出した。焼いたお肉は熱いと思う。
「ほら、口を開けろ。ウェパル」
「あーん」
お父さん達がしてくれる時は、あーんする。声を出して口を開けた僕は、柔らかくて温かい肉に驚いた。同じお肉だよね?
「美味しい! すごい」
「半生がいいのか。ならば、こちらも食べてみろ」
貰ったお肉を薄く切って焼くベル様は、僕がお腹いっぱいになるまで食べさせてくれた。それから残ったお肉を口にする。その姿に、ふと思いついた。
ベル様が焼いたお肉を、腕を叩いて「ちょうだい」した。受け取ったお肉をベル様の口へ運ぶ。
「ベル様、あーん」
周りが驚いた顔をしたけど、ベル様は笑ってお肉を食べてくれた。嬉しいな。次のお肉も待っているので、焼いたお肉を手で持って立ち上がる。
ベル様が楽しそうなのは嬉しいけど、早く食べてね。僕、背伸びしてるから転んじゃいそう。
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