【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
6 / 82

06.口がくっついたら口付け

しおりを挟む
 僕がいきなり消えたから、お母さんはすぐにお父さんを呼んだ。いっぱい探してくれたの。隣の山にあるお祖父ちゃんの洞窟にも行ったんだって。

「僕は人間に呼ばれちゃったの」

「応えたの?」

「ううん。無理やり」

 事情をお母さんに説明する。お父さんはベル様とお話があるんだ。僕はいい子だからちゃんと待っていられるよ。お母さんが僕を抱っこして、頬を擦り寄せた。人の姿をしていると、細かい作業が出来るんだよ。僕も早く覚えたい。

 ベル様も人の形をしている。背が高くてがっちりした筋肉があって、長い黒い髪なの。人間の腕が太いゴツい奴と違って、細っそりしてるかも。硬い筋肉はあるけど、動物と同じで無駄じゃなかった。人間は変なところに、使わない筋肉つけてる人がいるんだよね。

「どうやって出会ったの?」

「ベル様? えっとね、僕は人間に捕まったの。殺すぞって言われて、切られちゃったんだ」

 指の先……説明する前に、お母さんが悲鳴をあげた。体中を撫でてくる。擽ったくて笑ったら、どこをケガしたのかと怖い顔をする。

「この指だよ。でもベル様が治してくれた」

 もう傷はない。痛いのも消えた。ベル様はすごい人なんだよ。お肌も黒くて艶があって、魔王様と同じ金色の目をしている。お顔も綺麗だし、僕に優しいから大好きだった。

 身振り手振りで説明を終えると、お母さんは頬を擦り寄せて強く抱っこした。苦しいくらいだけど、嬉しくて僕も手を伸ばす。ドラゴンの手は短くて、お母さんの背中まで届かなかった。

「良かったわ。人間は危険な生き物よ。大きくなるまで……いえ、大きくなっても近づいたらダメよ」

「うん。ベル様と一緒にいる」

「……あのお方が大好きなのね」

「大好き!」

 腕の力を緩めて頭を撫でるお母さんは、変な顔をした。残念そう……でも怒ってない。悲しいのともちょっと違うみたいだ。

「これから義父殿のところへ向かうが……危険だから一緒に行こう」

 ベル様とお父さんのお話が終わって、手招きされた。お父さんはお祖父ちゃんの家に行く。僕とお母さんも一緒、ベル様は? 首を傾げて見つめたら、笑って手を出してくれた。くっと掴んだ僕を、軽々と抱き上げる。

「安心しろ、一緒だ」

「やった! お祖父ちゃんは黒いんだよ。お父さんより大きくて、こんななの」

 両手を広げて説明した。本当はベル様の髪と違って、真っ黒じゃない。濃い灰色なんだけど、黒く見える。お話しする僕を嬉しそうに見るベル様は、ちゅっと音をさせて額に唇を当てた。

「うわっ、今のなぁに?」

「口付けだ」

「口付け……口をくっつけるから?」

「賢いな、ウェパル」

 やっぱり、背中がぞわっとする。でも嫌な感じじゃなくて、気持ちいいの延長だった。ぶるっと身を震わせ、僕は背伸びをする。口をくっつけたら、口付け……あとちょっと。

「何を……っ?!」

 ぐらぐらする僕を抱き直そうとしたベル様の顔が近づいて、口同士がくっついた。ベル様も僕も驚いたけど、お母さんの大声が一番びっくりした。

「きゃぁぁあ! 嘘っ、もう嫁も同然よ」

「いや、まだだ。あの子は幼いんだ」

 ぶつぶつ文句を言うお父さんが、お母さんの尻尾にビシバシ背中を叩かれていた。楽しそうだな。僕の尻尾を揺らしたけど、ベル様の腕にぴちっと小さな音をさせただけ。

 ぎちぎちと変な動きで僕に目を合わせたベル様は「さすが我が伴侶だ。俺の隙をつくとは」と褒めてくれた。好きってつつくの?
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

【完結】少年王が望むは…

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

処理中です...