【完結】魔王と間違われて首を落とされた。側近が激おこだけど、どうしたらいい?

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

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48.竜の望んだ美しい世界で(最終話)

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 王城がある都の上を旋回し、アザゼルは丘に降り立つ。巨木が立つ丘は、今日も綺麗な花が咲いていた。

「人族……このくらいでしたかね」

 適当にそれっぽい姿を作ったアザゼルは、まだ変身できないアクラシエルを抱っこする。成長はまだ長い時間がかかる幼体なので、中型犬サイズだ。自分の大きさと比較し、アクラシエルはアザゼルの腕をポンポンと叩いた。

「大き過ぎる。半分くらいだ」

「そんなに小さかったですか?」

 首を傾げながらも、素直に縮んだ。流れる金髪をかき上げ、アザゼルは歩き出す。竜が街を訪れることが増え、人々は慣らされていった。注目したりせず、会釈程度の挨拶ですり抜けるのだ。黙認状態というやつだ。

「お久しぶりです、竜王様」

 いつも訪れる店頭で、青年が頭を下げる。お得意様であるアクラシエルに微笑みかける彼は、かつて器を提供したシエルだった。貴族家の跡取りである彼は、家業としてチョコレート産業を庇護した。シエル自身も職人として腕を振るっている。

「新作はあるか?」

「こちらは召し上がりましたか。お茶の香りがしますよ」

 見た目はシンプルな半円形のチョコレートを渡され、ぱくりと口に入れる。しっかり味見をして、購入を決めた。他には口の中でほろりと崩れるチョコレート味の焼き菓子、お酒をゼリーにして閉じ込めたチョコレートも選ぶ。

「先日の緑のチョコレートは、ベレトが気に入っていましたね」

「土産に買っていこうか」

 相談しながら、山ほど買い込んだ。支払いを行い、いつも通り丘へ運ぶよう手配した。魔王ゲーデを始めとする魔族に依頼すると、収納して運んでくれる。ナベルスの巣へ持ち込まれたチョコレートは、冷えたまま保管されるのだ。

 温度管理も含め、完璧なルートだった。これを提案したのは、魔王の側近バアルである。分業することで、互いの種族に接点を設けた。お陰で、魔族と人族の混血は驚くほどスムーズに進んでいる。

「アクラシエル様、僕も結婚が決まりました。素敵な子です」

「そうか、祝いに何か贈ろう……どんな子だ?」

 嫁にちなんだ品を贈ろうと考えたアクラシエルは、説明に驚いた。ウサギ獣人の子で、長い耳があると。その愛らしさにメロメロだという。貴族は血筋を重んじる者が多く、まだ混血に抵抗があった。そんな中、いち早く「好き」だけを武器に口説き落としたらしい。

「幸せになれ。ウサギ獣人は寂しがりやが多いと聞く。泣かせるなよ」

 アクラシエルの言葉に、シエルは頭を下げた。竜王に助けられなければ、シエルも母レイラの命もなかった。チョコレート職人になったのも、竜王アクラシエルの影響だった。すべてが彼のお陰、感謝するシエルに向けるアザゼルの視線も柔らかい。

 シエルを引き裂いて魂を回収しようと考えたアザゼルも、今になればこれで良かったと考えている。アクラシエルに憎まれる未来を選ばずに済んだ。不思議な魅力のあるシエルは、ドラゴン達に好かれる性質があるようだ。ベレトやナベルスも同じような発言をしていた。

 きっと婚礼の祝いが大量に届くだろう。ドラゴン達の宝物を少しずつ集めて。

 店を出ると街を散策した。ドラゴンの目には、こういった雑踏は珍しい。遠くから見たことはあっても、体験することはなかった。人混みの中、不思議な気配を感じる。

「ああ、ここにいたのか」

「随分と人らしくなりましたね」

 二人の声に、無表情な男は笑みを浮かべた。まだ若い。体の芯がしっかりした、姿勢のいい青年だ。筋肉ががっちりついた彼は、駆け寄ると嬉そうに頬を緩めた。右の頬と額に大きな傷がある。

「竜王様、アザゼル様! お会いできて嬉しいです」

 礼儀正しい彼は頭を下げた。国でも有名な剣士クレイグの行動に、周囲が驚く。普段は無愛想で無口なイメージだった。その彼が無邪気な幼子のように懐く存在……銀の鱗を持つ幼竜。街の人はなるほどと納得した。

「馴染んだようですが、具合が悪くなればすぐ相談しなさい」

「はい、ありがとうございます」

 近状を話すクレイグだが、仲間らしき数人に呼ばれて走っていった。彼の中には、ナベルスが保管していた剣が入っている。剣士というより、剣の鞘だった。勇者一行の一人であった剣士クレイグは、竜王の洞窟に辿り着く前に死亡している。

 彼の魂は仲間に寄り添い、アクラシエルの首を刎ねた後の転移でも、一緒について行った。心配すぎて離れることが出来ない彼の魂を拾い上げ、新たな銀髪女神に器を作らせた。その魂の依代として、勇者の剣を使う。これにより、人族の中に混じった力は薄まっていくはずだ。

「あんな解決方法があるとは」

 思いもよりませんでした。呟くアザゼルに、アクラシエルははふっと欠伸をした。

「そのまま壊すのも惜しいし、クレイグの魂は綺麗だったからな」

 もったいない。そう告げるアクラシエルの二つ目の欠伸に、アザゼルは肩をすくめた。巣へ戻って休ませた方がいいだろう。丘へ向かう一人と一匹の姿に、街に住まう人々は頭を下げた。魔族も人族も、憎しみを捨てて共存する世界……。

 神々も想像し得なかった、創造出来なかった穏やかな日々が、この世界の価値を知らしめる。竜王を乗せた黒竜が舞う空は、どこよりも青かった。



 終わり









*******************
これで完結になります(o´-ω-)o)ペコッ お付き合いありがとうございました。突然思いついた優しい世界、いかがでしたか?

 最初に竜王の首が落ちた場面で、四人が転送される。その理由が、死んでいるクレイグの魂でした。ドラゴンには見えるけれど、人には見えない。だから勇者達が転送された先では、三人になります( ̄ー ̄)ニヤ... この仕掛けは気づいた人いたかな?


※追伸 ご指摘があったので一応付け加えておきます。ドラゴンは魂を見られる、その記述は何回か出てきています。なので、竜族は剣士の魂が見えていました。そのため竜側の視点で四人、人側の視点で三人になります(´▽`*)ゞヶィレィッッ!!
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みんなの感想(85件)

ぱら
2023.11.03 ぱら

完結おめでとう㊗御座います!!

チョコレートの種類も増えたし、悪者も居ないし平和って最高だね!ദ്ദി ᷇ᵕ ᷆ )

仕掛けわからなかった〜(´>∀<`)ゝ

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
2023.11.03 綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

ありがとうございます(´▽`*)ゞヶィレィッッ!! きっとチョコレート文明が発達して、他の世界にも甘い香りを漂わせていると思います。仕掛けは自分が(* ̄ー ̄*)ニヤリッとするために置いてきましたw

解除
荒谷創
2023.10.31 荒谷創

うむうむ。
万事落ち着きましたね(^ω^)

寿命があり、輪廻転生を繰り返す人の魂と一体化する事で、過ぎたる力を削っていくのは合理的ですね。
銀髪女神、グッジョブです。




ウサギ
寂しがりやと言われますが、実際には全くそんな事はありません。
アナウサギは巣穴で群れを作って生活しますが、ノウサギなどはほぼ単独生活ですし、縄張り意識は非常に高い生き物です(^ω^)
ウサギが寂しいと死んでしまうというのは、昭和の歌謡曲にそんな歌詞があったせいですね。

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
2023.11.01 綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

世界を壊さず、チョコレートを確保し、各種族が生き残る_( _*´ ꒳ `*)_平和な世界ですw 最初から女神じゃなくて、竜族が管理していたらよかったのにw
銀髪女神は、出過ぎないタイプなので穏やかに過ごせそうですね。
兎、実際は噛んだり攻撃してきたり……猫より狂暴です((((;´・ω・`)))ガクガクブルブル

解除
ぽん桔
2023.10.29 ぽん桔

竜王様……チョコレートの為なら、あざとくなる?🤔

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
2023.10.30 綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

チョコレート至上主義 (`・ω・´)キリッ

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