46 / 48
46.使える神と使えない屑の選別
しおりを挟む
宣戦布告された時点で、ほとんどの神が逃げ出した。元から別次元の住人だ。さっさと神が強い次元へ飛び込む。さすがに無責任だと感じた数人の神が残った。
「私達はドラゴンと戦う気はありません。詫びよと仰るなら、どのようにでも従います」
責任感が強い三人は、女神二人と男神一人だった。彼女らは逃げた仲間の態度に呆れながらも、己の信念を通そうと頭を下げる。一から作り上げた世界を壊されたくない。そこに住まう命を絶滅させたくない。その気持ちが強かった。
「どういたしましょうか、アクラシエル様」
「ちょうど良い篩になったではないか」
残った三人の潔い謝りっぷりに、アザゼルも何となく攻撃しづらい。困って、養い親にお伺いを立てた。そのため私的な呼び方になっている。その辺は声から察したアクラシエルが、許しを与えた。
当事者であり被害者である自分が許せば、周囲は文句が言えなくなる。無駄に騒ぎを大きくする必要はなかった。元からこの次元に神の数が多すぎたのだ。そう結論づけて、アクラシエルは小さなチョコ菓子を口に入れた。
さくっとした焼き菓子にチョコレートが掛かっている。これは二種類の菓子が同時に楽しめ、さらに果物の薄切りが重なっていることで、味に深みがあった。じっくり楽しむ。頬が落ちそうだった。
「今回逃げた神々は、二度と戻れないよう入り口を封じておこう」
「それなら次元を閉じては?」
「後で何かあったら繋げばいいんだし」
この次元は竜族のものだ。閉ざすも開くも彼ら次第、あっさりと結論は出た。三人は許され、今後も世界の管理に携わる許可も与える。面倒くさがって、管理者に名乗りを上げる竜がいなかったのだ。一度に複数の世界を預かることになったが、三人ともそれなりに熟練の管理者なので問題なさそうだった。
「今回の騒動はこれで終わり……」
「いいえ、我が君。勇者の問題があります」
すっかり忘れていた。そう素直に口にしたら、アザゼルが本気で怒るだろう。察したアクラシエルは、へらりと笑った。
「あれも犠牲者だ。許してやればよかろうよ」
「そうはいきません」
「数回殺せば気が済むかも」
おおらかに許せと口にしたら、納得できない竜族から声が上がった。そこで、女神の一人が口を開く。
「あの……ご提案なのですが」
一斉にドラゴンの視線を集めてしまい、びくりと肩を揺らす。そんな臆病な女神が出した案は、意外にも反対意見が出ない素晴らしいものだった。
「ではそれで決まりです。それぞれの世界に戻ってください」
アザゼルの号令で、ドラゴン達は解散する。アクラシエルが入っていた卵の殻は、小さく割って配られた。皆、大切そうに宝石や金貨と共に仕舞い込むだろう。
ほとんどの竜はこの世界に残る。今後のことを含め、提案した女神がこの世界を管理することに決まった。しばらくは穏やかな時間が流れるはずだ。
駆けつけたドラゴンも、それぞれに戻っていく。世界の終末を引き起こす役の火竜は、滅ぼす世界へ飛ぶ。魔王役を任された土竜も、土産のチョコレートを咥えて帰っていった。
「アクラシエル様、あーんです」
アザゼルは、チョコレートが掛かった焼き菓子で主君を招き寄せ、大切そうに包んで丸まった。
「私達はドラゴンと戦う気はありません。詫びよと仰るなら、どのようにでも従います」
責任感が強い三人は、女神二人と男神一人だった。彼女らは逃げた仲間の態度に呆れながらも、己の信念を通そうと頭を下げる。一から作り上げた世界を壊されたくない。そこに住まう命を絶滅させたくない。その気持ちが強かった。
「どういたしましょうか、アクラシエル様」
「ちょうど良い篩になったではないか」
残った三人の潔い謝りっぷりに、アザゼルも何となく攻撃しづらい。困って、養い親にお伺いを立てた。そのため私的な呼び方になっている。その辺は声から察したアクラシエルが、許しを与えた。
当事者であり被害者である自分が許せば、周囲は文句が言えなくなる。無駄に騒ぎを大きくする必要はなかった。元からこの次元に神の数が多すぎたのだ。そう結論づけて、アクラシエルは小さなチョコ菓子を口に入れた。
さくっとした焼き菓子にチョコレートが掛かっている。これは二種類の菓子が同時に楽しめ、さらに果物の薄切りが重なっていることで、味に深みがあった。じっくり楽しむ。頬が落ちそうだった。
「今回逃げた神々は、二度と戻れないよう入り口を封じておこう」
「それなら次元を閉じては?」
「後で何かあったら繋げばいいんだし」
この次元は竜族のものだ。閉ざすも開くも彼ら次第、あっさりと結論は出た。三人は許され、今後も世界の管理に携わる許可も与える。面倒くさがって、管理者に名乗りを上げる竜がいなかったのだ。一度に複数の世界を預かることになったが、三人ともそれなりに熟練の管理者なので問題なさそうだった。
「今回の騒動はこれで終わり……」
「いいえ、我が君。勇者の問題があります」
すっかり忘れていた。そう素直に口にしたら、アザゼルが本気で怒るだろう。察したアクラシエルは、へらりと笑った。
「あれも犠牲者だ。許してやればよかろうよ」
「そうはいきません」
「数回殺せば気が済むかも」
おおらかに許せと口にしたら、納得できない竜族から声が上がった。そこで、女神の一人が口を開く。
「あの……ご提案なのですが」
一斉にドラゴンの視線を集めてしまい、びくりと肩を揺らす。そんな臆病な女神が出した案は、意外にも反対意見が出ない素晴らしいものだった。
「ではそれで決まりです。それぞれの世界に戻ってください」
アザゼルの号令で、ドラゴン達は解散する。アクラシエルが入っていた卵の殻は、小さく割って配られた。皆、大切そうに宝石や金貨と共に仕舞い込むだろう。
ほとんどの竜はこの世界に残る。今後のことを含め、提案した女神がこの世界を管理することに決まった。しばらくは穏やかな時間が流れるはずだ。
駆けつけたドラゴンも、それぞれに戻っていく。世界の終末を引き起こす役の火竜は、滅ぼす世界へ飛ぶ。魔王役を任された土竜も、土産のチョコレートを咥えて帰っていった。
「アクラシエル様、あーんです」
アザゼルは、チョコレートが掛かった焼き菓子で主君を招き寄せ、大切そうに包んで丸まった。
18
お気に入りに追加
451
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?!
異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。
#日常系、ほのぼの、ハッピーエンド
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/08/13……完結
2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位
2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位
2024/07/01……連載開始
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
ファンタジー
「お生まれになりました! お嬢様です!!」
長い紆余曲折を経て結ばれた魔王ルシファーは、魔王妃リリスが産んだ愛娘に夢中になっていく。子育ては二度目、余裕だと思ったのに予想外の事件ばかり起きて!?
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
魔王夫妻のなれそめは【魔王様、溺愛しすぎです!】を頑張って読破してください(o´-ω-)o)ペコッ
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※2023/06/04 完結
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2021/12/25 小説家になろう ハイファンタジー日間 56位
※2021/12/24 エブリスタ トレンド1位
※2021/12/24 アルファポリス HOT 71位
※2021/12/24 連載開始
【完結】魔王を殺された黒竜は勇者を許さない
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
ファンタジー
幼い竜は何もかも奪われた。勇者を名乗る人族に、ただ一人の肉親である父を殺される。慈しみ大切にしてくれた魔王も……すべてを奪われた黒竜は次の魔王となった。神の名づけにより力を得た彼は、魔族を従えて人間への復讐を始める。奪われた痛みを乗り越えるために。
だが、人族にも魔族を攻撃した理由があった。滅ぼされた村や町、殺された家族、奪われる数多の命。復讐は連鎖する。
互いの譲れない正義と復讐がぶつかり合う世界で、神は何を望み、幼竜に力と名を与えたのか。復讐を終えるとき、ガブリエルは何を思うだろうか。
ハッピーエンド
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/03/02……完結
2023/12/21……エブリスタ、トレンド#ファンタジー 1位
2023/12/20……アルファポリス、男性向けHOT 20位
2023/12/19……連載開始
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる