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45.今さら何を言っているのやら
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他の世界に散らばるドラゴンが魔王役や滅びのドラゴン役を放棄したことで、各世界のバランスが崩れ始めた。末期のため滅ぼすために、凶悪なドラゴンを演じていた火竜は、今回の騒動で神々への不信感を示した。
魔王役として若い世界に試練を与えていた土竜は、役目を放棄して寝転がっている。協力する意思は皆無で、拗ねたような状態だ。
困った神達は、元凶だった女神を捕まえて差し出すことを検討した。この時点で、すでに彼女は消滅している。知らずに探し回り、消滅を知って項垂れた。周辺の世界へ謝罪に赴いていた神は慌てる。大変なことになった。
ドラゴンを宥めるためのスケープゴートがいないのだ。いくら悔いても、時間は戻らない。一方通行で流れる時間を捻じ曲げれば、ドラゴンは本気で怒るだろう。二度と許されないに違いない。そこは理性が働き、誰も時間や空間を捻じ曲げようとしなかった。
「どうする?」
「どうしようもないだろ」
「謝りに行くか?」
「お前が行ってこいよ」
責任の擦りつけが始まり、やがて過去の話を持ち出しての大騒ぎに発展する。裏切ったの、裏切られたの。どちらも悪かった事例など、様々な因縁と怨念が吐き出された結果……。
全員で謝ることに決まった。この次元はドラゴンの所有だ。間借りしている立場で、王の首を落としてしまったのだから、素直に頭を下げるべきだ。そう結論が落ち着く。方向性は正しいが、正直遅すぎた。
「何を言ってるんでしょうね、今さら!」
並んだ神々を前に、ぱしんと尻尾で地面を叩くアザゼル。斜め後ろで、ナベルスは氷より冷たい視線を向ける。さらにベレトも不満顔だった。アザゼルの発言が全てを物語っていた。
今さら……そう、明らかに遅いのだ。まずは竜族にしっかりと詫び、その上で竜王復活に力を貸すべきだった。凶器となった女神の剣も、ドラゴンが回収した。加害者である勇者を焼き払ったが、彼らはまだ女神の祝福という呪いが生きている。
竜族から見て、神々は竜王殺しの主犯だった。共犯ではない。女神が作った剣で、竜王の首が落ちた。魔王退治を目指していたというが、それを証明する者もいない。最初から魔王ではなく竜王を狙ったのでは? そう勘繰ることもできた。
考えなしに動いた女神も悪いが、彼女をこの世界の管理者に任命した神々はもっと責任重大だ。アザゼルはそう突きつけて、鼻を鳴らした。なお、その足元で必死にチョコレートを頬張るのが、件の竜王本人である。
小さな頬にいっぱい詰め込み、甘くてほろ苦い味に目を細める。うっとりとした表情で、たっぷり時間をかけて味わった。その際に耳に飛び込むやりとりは、右から左へ流す。せっかくの美味しいチョコレートの余韻が、台無しになるからだ。
「竜王陛下もそれでよろしいですね?」
アザゼルが「アクラシエル様」と呼ばないときは、公式の場だ。それはわかるが、話を聞いていなかったので、アクラシエルは首を傾げた。何の話だろうか。
目の前に差し出された新しいチョコレートに目を輝かせる。これは細工が見事だ。まるで本物の花のようだった。感心しながら、食べるかと尋ねるアザゼルに大きく頷く。口を開けてぱくりと花型のチョコレートを堪能した。
ほんのり果物の香りがする。頬を押さえて幸せを堪能する竜王は気づいていなかった――神々への宣戦布告へ自分が頷いたことに。
魔王役として若い世界に試練を与えていた土竜は、役目を放棄して寝転がっている。協力する意思は皆無で、拗ねたような状態だ。
困った神達は、元凶だった女神を捕まえて差し出すことを検討した。この時点で、すでに彼女は消滅している。知らずに探し回り、消滅を知って項垂れた。周辺の世界へ謝罪に赴いていた神は慌てる。大変なことになった。
ドラゴンを宥めるためのスケープゴートがいないのだ。いくら悔いても、時間は戻らない。一方通行で流れる時間を捻じ曲げれば、ドラゴンは本気で怒るだろう。二度と許されないに違いない。そこは理性が働き、誰も時間や空間を捻じ曲げようとしなかった。
「どうする?」
「どうしようもないだろ」
「謝りに行くか?」
「お前が行ってこいよ」
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「何を言ってるんでしょうね、今さら!」
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今さら……そう、明らかに遅いのだ。まずは竜族にしっかりと詫び、その上で竜王復活に力を貸すべきだった。凶器となった女神の剣も、ドラゴンが回収した。加害者である勇者を焼き払ったが、彼らはまだ女神の祝福という呪いが生きている。
竜族から見て、神々は竜王殺しの主犯だった。共犯ではない。女神が作った剣で、竜王の首が落ちた。魔王退治を目指していたというが、それを証明する者もいない。最初から魔王ではなく竜王を狙ったのでは? そう勘繰ることもできた。
考えなしに動いた女神も悪いが、彼女をこの世界の管理者に任命した神々はもっと責任重大だ。アザゼルはそう突きつけて、鼻を鳴らした。なお、その足元で必死にチョコレートを頬張るのが、件の竜王本人である。
小さな頬にいっぱい詰め込み、甘くてほろ苦い味に目を細める。うっとりとした表情で、たっぷり時間をかけて味わった。その際に耳に飛び込むやりとりは、右から左へ流す。せっかくの美味しいチョコレートの余韻が、台無しになるからだ。
「竜王陛下もそれでよろしいですね?」
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目の前に差し出された新しいチョコレートに目を輝かせる。これは細工が見事だ。まるで本物の花のようだった。感心しながら、食べるかと尋ねるアザゼルに大きく頷く。口を開けてぱくりと花型のチョコレートを堪能した。
ほんのり果物の香りがする。頬を押さえて幸せを堪能する竜王は気づいていなかった――神々への宣戦布告へ自分が頷いたことに。
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