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40.世界の滅亡よりチョコレート

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 美化された物語では、幼なくとも威厳と実力に裏打ちされた……云々と表現される場面だ。しかし、生まれたばかりで、片足に卵の殻を付けた赤子同然の姿に、威厳など感じるわけがない。

 残念ながら、過去の栄光は竜王を助けてくれそうになかった。尊敬はされているが、それとこれは別の話だ。今回の騒動で胸を痛めたドラゴンにしたら、一族の長を問答無用で殺されたのだ。怒り心頭に発っして、世界を滅ぼしたくなるのも当然だった。

 それは分かるが、滅ぼされたくない理由がある。アクラシエルは彼なりに粘った。最後は泣き落としすれば、全員落とせる。その自信があるが、情けないので多用したくない。

「先日助けた幼子シエル、アザゼルに憧れを抱いているぞ。人族だっていい奴はいる」

「ではあの子だけ回収し、滅ぼせばいいでしょう」

「い、いや……人族は仲間がいなくては寂しくて死んでしまうらしいぞ」

「そんな面倒臭い子ども、要りません」

 アザゼルは一刀両断、とりつく島がない。とにかく世界の崩壊を止めたいアクラシエルは、知恵を絞った。

「あの子はこの竜王アクラシエルの器だった。緊急時に保護した恩を仇で返すなど、竜族の恥ではないか!」

「……結局、どうしたいのですか」

 聞き分けのない子どもの我が侭に、付き合う母親のような……なんとも言えない間が落ちる。黙り込んだアクラシエルは、いろいろ考えた末に決めた。結局、真実に勝るものはない。誤魔化すのはやめよう。

 本音で話したら、きっと彼は俺の気持ちを汲んでくれるはず。竜王は側近の聡さに賭けた。

「この世界が滅びたら、チョコレートが手に入らないではないか」

 ハッとした様子で、ベレトとナベルスが顔を見合わせる。アザゼルは目を丸くして、動かなくなった。周囲のドラゴンはざわざわと雑談を始める。その内容は「チョコレートとは何か」だったり「俺は聞いたことあるぜ」だったり。チョコレートに関する話題だった。

「他の世界で作らせればいいでしょう」

「技術者をどう選別するのだ? この世界じゃないと材料が育たなければどうする!」

 偉そうに説教しているが、問題点があり過ぎた。真剣な話の中心が「世界の滅亡」ではなく「チョコレートの確保」にすり替わっている。だが、主君ベタ惚れのアザゼルは気づかなかった。

 チョコレートの確保、それがなければこの世界を壊せない。諦めるか? 否、それも納得できない。ぐるぐると考えが回り、一時的にショートした。

「まず、お前は約束を守るべきだ。新しい器に入ったらチョコレートをくれると言ったじゃないか!」

 新しい器である幼体に釣られたのか、アクラシエルは幼子らしい我が侭を口にした。ナベルスが大急ぎで取りに向かう。彼の洞窟で冷やされ、しっかり確保された大量のチョコレート。この暖かな洞窟へ運ばれればどうなるか……誰も想像すらしなかった。
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