上 下
28 / 48

28.復活した勇者一行は焼き払われた

しおりを挟む
 魔王を倒して来いと言われ、素直に魔王城目指して駆け抜けた。剣士を決戦前に失いながら、それでも……洞窟の奥で目を輝かせる銀竜の首を落とす。駆けつけた黒竜から命からがら逃げ延び、安堵に胸を撫で下ろしたのも束の間。

 褒美を与え褒め称えた国王が、手のひらを返した。ほぼ毎日起きる災害は、魔王の配下のせいだ。首を回収してこなかったが、傷つけただけで本当は魔王退治に失敗したのではないか? そう疑う声が高まる。

「正直、天災とか俺らのせいじゃないだろ」

 ぼやく勇者ブライアンに、神官エイブリルと魔法使いハロルドも同意した。しかし悲しいかな。人族である以上、権力者に逆らえば生きていけない。魔王の首を回収するため、再び魔王城を目指すことになった。

 遠い上、今回は剣士も欠けている。前衛戦力が不足したことで、遅々として進まなかった。そんな中、突然現れた悪魔に攻撃される。幼女を人質にとる卑怯者に、手も足も出なかった。

「復活したってことは、頑張れって意味か?」

「女神様の思し召しです」

 嫌そうなブライアンの呟きに、エイブリルはうっとりと答えた。何度死んでも生き返るなら、戦力不足でも魔王城まで到達できそうだ。しかし、死ぬ時は痛い。半端なく痛い。死ぬかと思うほど痛いのだ。

 何度も味わいたくない。そう考えるのも当然だった。特に後衛職で普段はケガも少ないハロルドは、本気で離脱の機会を窺っていた。倒れていたところを村人に回収された勇者一行は、再び旅立つ。森の中で逸れたことにしようか。そんな考えに支配される魔法使いは、こっそり姿を消した。

 寝ずの番をするハロルドが消えたことで、勇者と神官は魔獣に襲われた。派手に食い散らかされたが、魔獣が離れた後に復活する。生きたまま食われた経験は、勇者を自棄っぱちにさせた。どうせ辿り着けないのだと、諦めを滲ませる。

「お戻りください。ドラゴンが出没し、王都が危険な目に!」

 森の浅い部分でもたもたしていた勇者に、使者が追いついた。騎士団から選ばれた三人に促され、魔王の首は後回しに王都へ戻る。壊れた外壁、崩壊した見張りの塔と門、街を縦断するように続く破壊の一本道。

 見慣れた都は酷い有様だった。ブライアンはすぐにドラゴンの姿を探すが、見つからない。この時点で、ベレトはすでに王都を離れていた。

 黒い鱗の竜を追って森に入った兵士が戻らない。その情報を得て、二人は森に分け入った。火を放たれ、焦げ臭い森の奥……まだ消えぬ炎の向こうに大きな影が見える。

「黒竜? 魔王の側近か」

 あの時は逃げ帰るのに必死だったが、今度こそ倒してやる。魔王は確かに死んだのだ。それにより側近が王の地位を継いだか、または報復に動いた。彼を倒せば、今度こそ平和が訪れるはず。

 自分勝手な勇者の声に、ドラゴン退治に集まった兵は湧き立った。だが……アザゼルはそんな彼らを睥睨し、大切な卵を抱いたまま。動こうとしない。好機と考えて攻撃の準備を整える勇者達は、直後……巨大なブレスで燃え尽きた。

「ナベルスかベレトに薪を運んでもらいましょう」

 やや肌寒い。その程度の感覚で勇者達を燃やした黒竜は、はふっと欠伸をした。

「我が君、早く出てきてください。私が大切に育てます」

 聞こえてくる声に、アクラシエルが何と答えるのか。それはまだ誰も知らない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放令嬢の叛逆譚〜魔王の力をこの手に〜

ノウミ
ファンタジー
かつて繁栄を誇る国の貴族令嬢、エレナは、母親の嫉妬により屋敷の奥深くに幽閉されていた。異母妹であるソフィアは、母親の寵愛を一身に受け、エレナを蔑む日々が続いていた。父親は戦争の最前線に送られ、家にはほとんど戻らなかったが、エレナを愛していたことをエレナは知らなかった。 ある日、エレナの父親が一時的に帰還し、国を挙げての宴が開かれる。各国の要人が集まる中、エレナは自国の王子リュシアンに見初められる。だが、これを快く思わないソフィアと母親は密かに計画を立て、エレナを陥れようとする。 リュシアンとの婚約が決まった矢先、ソフィアの策略によりエレナは冤罪をかぶせられ、婚約破棄と同時に罪人として国を追われることに。父親は娘の無実を信じ、エレナを助けるために逃亡を図るが、その道中で父親は追っ手に殺され、エレナは死の森へと逃げ込む。 この森はかつて魔王が討伐された場所とされていたが、実際には魔王は封印されていただけだった。魔王の力に触れたエレナは、その力を手に入れることとなる。かつての優しい令嬢は消え、復讐のために国を興す決意をする。 一方、エレナのかつての国は腐敗が進み、隣国への侵略を正当化し、勇者の名のもとに他国から資源を奪い続けていた。魔王の力を手にしたエレナは、その野望に終止符を打つべく、かつて自分を追い詰めた家族と国への復讐のため、新たな国を興し、反旗を翻す。 果たしてエレナは、魔王の力を持つ者として世界を覆すのか、それともかつての優しさを取り戻すことができるのか。 ※下記サイトにても同時掲載中です ・小説家になろう ・カクヨム

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

生贄令嬢は怠惰に生きる~小動物好き竜王陛下に日々愛でられてます~

雪野ゆきの
恋愛
叔父一家に虐げられていた少女リアはついに竜王陛下への生贄として差し出されてしまう。どんな酷い扱いをされるかと思えば、体が小さかったことが幸いして竜王陛下からは小動物のように溺愛される。そして生贄として差し出されたはずが、リアにとっては怠惰で幸福な日々が始まった―――。 感想、誤字脱字報告、エール等ありがとうございます! 【書籍化しました!】 お祝いコメントありがとうございます!

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

処理中です...