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02.女神が作り与えた剣が原因
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この世界は脆い――女神が作り上げた世界はまだ若く、ゆえに未完成な部分が目立つ。その不足を補うために竜族は誕生した。いや、別の世界から守護者として呼ばれたのだ。
女神との盟約があり、あと数千万年はこの世界を守る予定になっていた。土の中に身を沈めて背に大きな森を育てたドラゴンもいれば、水の底に潜んで浄化を担当するドラゴンもいる。火山の活動を調整しながら、エネルギーのバランスをとるドラゴンもいた。
圧倒的強者である竜を束ねるのが、竜王陛下だ。その首が落とされたとあれば、一大事だった。
「女神よ、話が違います」
頼むから協力してくれと頭を下げられ、仕方なく未熟な世界に出向いた。その竜王を慕う側近やドラゴンが付き従った。まさに恩を仇で返す所業なのだ。
「……」
問い詰めるアザゼルの言葉に滲む怒りと憎悪を感じ取り、女神は無言になった。何を言っても、さらに怒らせる未来しかみえない。半透明の女神を前に、不遜にもアザゼルは舌打ちした。
本来なら敬意を示して膝をつき、視線を低くして応じるのがマナーだ。だが今回の騒動は、それらを吹き飛ばしても余りある暴挙だった。竜族の頂点に立つ竜王を、庇護対象の人族が討ち取った。いくら寝起きだからと、簡単に落とせる首ではない。
硬い鱗に守られた全身の銀鱗を切り裂く武器を、今の人族の技術で作れるはずがなく。暴力に近い強大な霊力に覆われたドラゴンに届く魔法を扱えるわけがなく。
振るわれた剣に何かあるのでは? そう疑ったアザゼルの調査結果は、最悪の結果だった。魔族に生活を脅かされた人族が、簡単に解決を試みた。異世界から力の強い者を呼び出そうとしたのだ。さすがに世界を越える召喚魔法に、女神が介入する。
召喚を諦めさせる代わりに、勇者を選んで力を与えた。その際に授けた武器が、竜王の首を落とした聖剣である。まさか世界を守護する竜王の首を落としてしまうとは思わなかった。それが女神側の言い分だった。しかし、実際に首を落とされた竜王の眷属が、それで納得できるわけがない。
「竜族は盟約から離脱します」
「それは困ります。盟約を守っていただかねば、まだ若いこの世界は滅びかねません」
「ほう。あなたは私に、主君の首を落とす無礼者を守れ、と?」
「……」
女神は困り果てた顔をするが、正直、被害者顔をされるのは業腹だ。こちらが被害者であり、そちらは加害者または加害の共犯者なのだから。武器を供与する際、どうして一言相談しなかったのか。事前に知っていれば対策が取れた。
何より、魔王と竜王の違いを理解せず襲ってくる人族の愚かさ。知的生命体として作られたのに、成すことは暴挙ばかりだった。いっそ滅ぼしてしまえばいいと声を上げたことも、一度や二度ではない。
ドラゴンが育てる森の木を考えなしに伐採し、澄んだ泉を勝手に引っ張って川にし、人族同士で戦を始める始末。
「どちらにしろ、ドラゴンの総意は変わりません。先に盟約を破ったのは、そちらです」
ぴしゃんと言い放ったアザゼルは、ドラゴンの姿に戻った。黒く艶のある鱗を煌めかせ、巨体の尻尾を大きく振る。すべての属性を操る彼は、竜王が復活するまで代理の座を預かった。
敵に回したくない強者に睨まれ、女神は頭を抱える。武器を望まれ、与えたときはいい案だと思った。自分達で魔族と戦うと決断したことを褒めもした。その結果が、守護者の首を刎ねるという失態……庇う余地はない。
女神との盟約があり、あと数千万年はこの世界を守る予定になっていた。土の中に身を沈めて背に大きな森を育てたドラゴンもいれば、水の底に潜んで浄化を担当するドラゴンもいる。火山の活動を調整しながら、エネルギーのバランスをとるドラゴンもいた。
圧倒的強者である竜を束ねるのが、竜王陛下だ。その首が落とされたとあれば、一大事だった。
「女神よ、話が違います」
頼むから協力してくれと頭を下げられ、仕方なく未熟な世界に出向いた。その竜王を慕う側近やドラゴンが付き従った。まさに恩を仇で返す所業なのだ。
「……」
問い詰めるアザゼルの言葉に滲む怒りと憎悪を感じ取り、女神は無言になった。何を言っても、さらに怒らせる未来しかみえない。半透明の女神を前に、不遜にもアザゼルは舌打ちした。
本来なら敬意を示して膝をつき、視線を低くして応じるのがマナーだ。だが今回の騒動は、それらを吹き飛ばしても余りある暴挙だった。竜族の頂点に立つ竜王を、庇護対象の人族が討ち取った。いくら寝起きだからと、簡単に落とせる首ではない。
硬い鱗に守られた全身の銀鱗を切り裂く武器を、今の人族の技術で作れるはずがなく。暴力に近い強大な霊力に覆われたドラゴンに届く魔法を扱えるわけがなく。
振るわれた剣に何かあるのでは? そう疑ったアザゼルの調査結果は、最悪の結果だった。魔族に生活を脅かされた人族が、簡単に解決を試みた。異世界から力の強い者を呼び出そうとしたのだ。さすがに世界を越える召喚魔法に、女神が介入する。
召喚を諦めさせる代わりに、勇者を選んで力を与えた。その際に授けた武器が、竜王の首を落とした聖剣である。まさか世界を守護する竜王の首を落としてしまうとは思わなかった。それが女神側の言い分だった。しかし、実際に首を落とされた竜王の眷属が、それで納得できるわけがない。
「竜族は盟約から離脱します」
「それは困ります。盟約を守っていただかねば、まだ若いこの世界は滅びかねません」
「ほう。あなたは私に、主君の首を落とす無礼者を守れ、と?」
「……」
女神は困り果てた顔をするが、正直、被害者顔をされるのは業腹だ。こちらが被害者であり、そちらは加害者または加害の共犯者なのだから。武器を供与する際、どうして一言相談しなかったのか。事前に知っていれば対策が取れた。
何より、魔王と竜王の違いを理解せず襲ってくる人族の愚かさ。知的生命体として作られたのに、成すことは暴挙ばかりだった。いっそ滅ぼしてしまえばいいと声を上げたことも、一度や二度ではない。
ドラゴンが育てる森の木を考えなしに伐採し、澄んだ泉を勝手に引っ張って川にし、人族同士で戦を始める始末。
「どちらにしろ、ドラゴンの総意は変わりません。先に盟約を破ったのは、そちらです」
ぴしゃんと言い放ったアザゼルは、ドラゴンの姿に戻った。黒く艶のある鱗を煌めかせ、巨体の尻尾を大きく振る。すべての属性を操る彼は、竜王が復活するまで代理の座を預かった。
敵に回したくない強者に睨まれ、女神は頭を抱える。武器を望まれ、与えたときはいい案だと思った。自分達で魔族と戦うと決断したことを褒めもした。その結果が、守護者の首を刎ねるという失態……庇う余地はない。
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