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01.世界を脅かす魔王を退治したぞ
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巨体をゆらりと動かすたび、銀の鱗が光を弾く。美しいドラゴンの背はなだらかな曲線を描き、鋭い爪の付いた翼がばさりと音を立てた。建物にして三階建てに近い高さだが、これでもドラゴンは伏せている。油断しているのか、攻撃する様子はなかった。
「世界を滅ぼす悪、魔王! 覚悟!!」
ぐるる? と喉を鳴らすドラゴンが身を起こすが一足遅く、勇者の剣は銀竜の首を刎ねた。そこへ飛び込んだのは、頭にツノの生えた金髪の青年だ。目の前で起きた惨劇に激高し、叫んだ。
「何をしているのです! そのお方は……」
「もう遅い、世界を脅かす魔王を退治したぞ」
言葉を遮る形で、勇者の隣に立つ青年が口を挟む。と同時に、後ろで祈っていた神官らしき女性が叫んだ。
「転移魔法が発動します」
「っ! くそ」
ツノを持つ黒衣の青年は迷ったが、首を落とされたドラゴンへ駆け寄った。大量の血が流れ、命が尽きようとしている。逃げる四人組の人族に構っている場合ではなかった。それでも最後の抵抗とばかり、転移魔法陣に手を加えた。今はこれが精いっぱいだ。
「我が君……ああ、なんという……暴挙を」
涙を流し跪く青年に、声にならない声が届く。
『嘆くでない、すぐに復活する。アザゼル』
名を呼ぶ声を最後に、銀竜の姿は忽然と消えた。消滅は死を意味する。だが復活すると予言されたアザゼルは、血に濡れた手を見つめた。
青い瞳が憎しみに染まる。人族をこのままにする気はない。たとえ、我が君が許したとしても。背に翼が現れ、アザゼルはふわりと浮き上がった。手に残っていた主君の血が乾き、粉になって消えていくのを握り締める。
「ですが今は復活の準備をしなくては! 勇者の処理はその後です」
優先すべきは、復活を予言した主君の器の準備だ。勇者やその仲間の処理は後でいい。といっても寿命が違うので、あまり放置すると報復前に死んでしまうが。この点は執念深いアザゼルであれば、忘れることはないだろう。
艶のある金髪をばさりとかき上げたアザゼルは、声を張り上げた。
「同胞達よ、偉大なるアクラシエル陛下の名の下へ集え。我が名はアザゼル、竜王陛下の側近にして遺志を継ぐ者――」
世界に宣言を刻んでいく。魔法とは違う、世界の理に働きかける竜族の言霊だった。声に霊力を込めて全力で叩きつける言葉は、離れて暮らす同胞へ余すことなく届けられた。受け取ったドラゴン達は、「遺志」という単語で竜王の死を知る。
各地で一斉に身を起こしたドラゴンは、山を崩し海を割り火山から火を噴いた。氷の大地は裂け、緑の木々を背負った竜が舞い上がる。大切な主君を失った悲しみを嘆くように、殺された主君の無念を代弁するように。世界中で目覚めたドラゴンの鳴き声が世界に刻まれ……人族は恐れ慄く。
勇者は確かに銀竜を倒した。魔王は滅びたのだ。王を失った魔物は力を激減させ、人族を襲うことは減るはず。人々はそう信じ、それ故にドラゴン達の嘆きを理解しなかった。竜の頂点に立つ竜王陛下が、魔王ではないことも知らず……。
――これは魔王を退治にしに来た勇者が、間違えて竜王を退治してしまった人違いから始まる物語である。
「世界を滅ぼす悪、魔王! 覚悟!!」
ぐるる? と喉を鳴らすドラゴンが身を起こすが一足遅く、勇者の剣は銀竜の首を刎ねた。そこへ飛び込んだのは、頭にツノの生えた金髪の青年だ。目の前で起きた惨劇に激高し、叫んだ。
「何をしているのです! そのお方は……」
「もう遅い、世界を脅かす魔王を退治したぞ」
言葉を遮る形で、勇者の隣に立つ青年が口を挟む。と同時に、後ろで祈っていた神官らしき女性が叫んだ。
「転移魔法が発動します」
「っ! くそ」
ツノを持つ黒衣の青年は迷ったが、首を落とされたドラゴンへ駆け寄った。大量の血が流れ、命が尽きようとしている。逃げる四人組の人族に構っている場合ではなかった。それでも最後の抵抗とばかり、転移魔法陣に手を加えた。今はこれが精いっぱいだ。
「我が君……ああ、なんという……暴挙を」
涙を流し跪く青年に、声にならない声が届く。
『嘆くでない、すぐに復活する。アザゼル』
名を呼ぶ声を最後に、銀竜の姿は忽然と消えた。消滅は死を意味する。だが復活すると予言されたアザゼルは、血に濡れた手を見つめた。
青い瞳が憎しみに染まる。人族をこのままにする気はない。たとえ、我が君が許したとしても。背に翼が現れ、アザゼルはふわりと浮き上がった。手に残っていた主君の血が乾き、粉になって消えていくのを握り締める。
「ですが今は復活の準備をしなくては! 勇者の処理はその後です」
優先すべきは、復活を予言した主君の器の準備だ。勇者やその仲間の処理は後でいい。といっても寿命が違うので、あまり放置すると報復前に死んでしまうが。この点は執念深いアザゼルであれば、忘れることはないだろう。
艶のある金髪をばさりとかき上げたアザゼルは、声を張り上げた。
「同胞達よ、偉大なるアクラシエル陛下の名の下へ集え。我が名はアザゼル、竜王陛下の側近にして遺志を継ぐ者――」
世界に宣言を刻んでいく。魔法とは違う、世界の理に働きかける竜族の言霊だった。声に霊力を込めて全力で叩きつける言葉は、離れて暮らす同胞へ余すことなく届けられた。受け取ったドラゴン達は、「遺志」という単語で竜王の死を知る。
各地で一斉に身を起こしたドラゴンは、山を崩し海を割り火山から火を噴いた。氷の大地は裂け、緑の木々を背負った竜が舞い上がる。大切な主君を失った悲しみを嘆くように、殺された主君の無念を代弁するように。世界中で目覚めたドラゴンの鳴き声が世界に刻まれ……人族は恐れ慄く。
勇者は確かに銀竜を倒した。魔王は滅びたのだ。王を失った魔物は力を激減させ、人族を襲うことは減るはず。人々はそう信じ、それ故にドラゴン達の嘆きを理解しなかった。竜の頂点に立つ竜王陛下が、魔王ではないことも知らず……。
――これは魔王を退治にしに来た勇者が、間違えて竜王を退治してしまった人違いから始まる物語である。
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