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43.ぬるま湯のような居心地の良さ

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 傭兵はどの国でも歓迎され、同時に嫌われる。戦う場があれば重宝するが、平時は不要だった。そのため流浪の民さながら、傭兵達は各地を移動するのが常だ。

 あちこちで血が混じり、出身国も不明の子が大きくなって傭兵になる。戦場で訳ありの兵士や騎士が合流し、戦争のたびに誰かが欠けた。出入りが激しいというなら、その通りだ。移動するために傭兵団に合流し、目的地で別れる者もいた。

 その特性から、素性を尋ねたり探る行為は御法度だ。勇者ゼルクは顔を隠すため、フードを目深に被って参加した。傭兵に顔見知りがいたブレンダのお陰で、スムーズに入り込む。

 彼女は豪快に笑い、食べ、楽しんだ。女性の少ない傭兵団だが、守る対象として考えない。戦力になることを理解し、彼女の実力を認めていた。飯炊きや洗濯を担当する女も数人同行しており、彼女らも訳ありだった。街に住めない事情があるから、傭兵団に所属するのだ。

「居心地がいいな」

「そうだろ? あたしも時々離れるけど、戻ってきちまうのさ」

 ブレンダは明るく笑った。その表情が魅力的で、ゼルクは高鳴る鼓動を誤魔化すように俯く。こんな状況で惚れてる場合じゃない。自らにそう言い聞かせた。

「今日は狩りの当番だったっけ」

 ブレンダは気づいていないようで、大剣を手に立ち上がる。同じ当番のゼルクを振り返った。

「行くよ、ゼル」

 短くして偽名にする。全く関係ない名前をつけようと思ったのだが、反応できないのだ。呼ばれても気づかない。そのため短くして愛称のように利用した。周囲は「勇者にあやかったのか?」と茶化したが、それきりだった。

「わかった」

 勇者の剣は目立つので使えない。魔王から回収した剣と共に、布で巻いてテントに置いた。盗まれたならそれはそれで、勇者の資格なしという神のご意志だろう。

 傭兵団で譲られた剣を手に、彼女と歩く。他にも数人、狩りが当番の者が合流した。弓を扱う青年と、豪快に斧を振り回す老人だ。森に入れば、獲物はすぐ見つかった。ウサギを仕留める青年の横で、老人は猪と対峙する。

 ゼルクは老人の方へ猪を追う役を買って出た。ひらひらとローブを揺らして走れば、興奮して追いかける。猪を仕留めて振り返れば、いつの間にかブレンダは子鹿を捕まえていた。

「これで足りそうだね」

「早く終わってよかった」

 獲物が見つからなければ、森の奥まで入らなければならない。夕刻に街道を外れるのは危険だった。獲物をそれぞれに担ぐ中、ブレンダの子鹿をゼルクが背負う。

「自分で持つよ」

「女性だからな」

 いつものつもりで口にすれば、ブレンダは目を丸くした。そんな扱いは初めてだと笑う。老人は肩をすくめ、ウサギを担ぐ青年は「女……分類上は女かも」と呟いてブレンダの拳をもらう。

 結局、ブレンダが老人の猪を一緒に運ぼうとしたため、軽い子鹿を返した。代わりに老人の手伝いで猪を支える。狩りで貢献することで、ゼルクは傭兵団に居場所を作った。
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