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42.新しい種族かもしれない
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じたばた手足を動かし、必死に出てこようとする。手助けしていいのか迷うガブリエルの前で、卵の殻は役目を終えた。一番大きなヒビが広がって、殻が左右に転がる。中央できょとんとした様子の赤子は、くぁああ! と鳴きながらガブリエルに近づいた。
四つ足で歩く赤子はピンク色、柔らかな色だが、滅多に見ない色彩だった。花や肉球として見る色でも、全身に纏う種族は誰も知らない。つるんとした顔に鱗は見当たらず、形は竜に近かった。
「何の子だろう」
ガブリエルは首を傾げた。膨大な知識を父から吸収したが、こんな生き物の記憶はなかった。成長して外見が変化する可能性もある。ガブリエルが首を傾けると、向かいで同じ方へ首を倒す。赤子はどうしても頭が大きいので、そのまま転がった。
慌てて尻尾で支えてやる。鱗がびっしりのガブリエルの黒い尻尾に、ピンクの赤子は目を輝かせた。嬉しそうにしがみつき、あむあむと齧る仕草を見せる。その所作の理由に気づき、火竜のブネは慌てた。
「大変だ、お乳をやらなくちゃ」
誰か出産したばかりの雌はいなかったか。あたふたする彼女をよそに、赤子はガブリエルの尻尾を吸う。ちゅっちゅと音を立ててしゃぶり、涎だらけにした。少しすると寝転がってしまう。
「し……死んだんじゃ?」
泣きそうな顔と声でガブリエルが、頬を寄せる。その耳に聞こえたのは、すやすやと眠る寝息だった。単純に眠っただけらしい。ほっとして崩れるように寝そべるガブリエルの横で、バラムが獣人の雌を連れてきた。
「この子は乳が出るぜ」
「牛か!」
先日子どもを産んだ彼女は、快く授乳を申し出てくれた。まだ名前もついていない赤子を撫で、そっと抱き上げる。毛皮に覆われた彼女の腕で、赤子はぱちりと目を開いた。眠る時が唐突なら、目覚めも突然だ。じっと見上げた後、口に含まされた乳を吸う。
「よかった」
ほっとするガブリエルだったが、赤子はぺっと吐き出した。短い両手足を動かし、なんとか抜け出ようとする。落としそうなので、牛獣人の女性が下ろす。途端にトカゲのように走り出した。
突進した先はガブリエルだ。小さすぎて踏まないよう気をつけながら、ガブリエルは赤子を抱き止めた。ちゅっと鱗に吸い付く。今度は腕の内側、柔らかな部分に口を押し当てた。
「……もしかして」
気になる量ではないが、魔力が流れていく。この子は母乳や肉ではなく、魔力が主食なのか。その疑惑に、デカラビアが進み出た。じっくり観察し、疑惑が現実だと肯定する。
「魔力を食べる? そんな種族知らねぇぞ」
バラムは「ぐぁああ」と吠えながら器用に転げ回った。狼の姿だが、人化した状態なら髪を掻き乱しただろうか。牛獣人の女性に礼を伝え、ガブリエルは赤子を抱き上げた。満足したのか、赤子はにこにこと機嫌がいい。
「種族不明だが、魔族には違いない」
ガブリエルの断言に、誰もが頷いた。人族が魔力を食糧にすることはない。まあ、魔族でも該当するのは夢魔やセイレーンくらいしか思いつかないが……どちらとも違っていた。
新しい種族かもしれない。その呟きに、わっと歓声が上がる。卵が割れずに沈静化していたお祭り騒ぎが、一気に復活した。腕の中で眠った幼く儚い命に、ガブリエルは目を細める。守るべき者が増えた瞬間だった。
四つ足で歩く赤子はピンク色、柔らかな色だが、滅多に見ない色彩だった。花や肉球として見る色でも、全身に纏う種族は誰も知らない。つるんとした顔に鱗は見当たらず、形は竜に近かった。
「何の子だろう」
ガブリエルは首を傾げた。膨大な知識を父から吸収したが、こんな生き物の記憶はなかった。成長して外見が変化する可能性もある。ガブリエルが首を傾けると、向かいで同じ方へ首を倒す。赤子はどうしても頭が大きいので、そのまま転がった。
慌てて尻尾で支えてやる。鱗がびっしりのガブリエルの黒い尻尾に、ピンクの赤子は目を輝かせた。嬉しそうにしがみつき、あむあむと齧る仕草を見せる。その所作の理由に気づき、火竜のブネは慌てた。
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泣きそうな顔と声でガブリエルが、頬を寄せる。その耳に聞こえたのは、すやすやと眠る寝息だった。単純に眠っただけらしい。ほっとして崩れるように寝そべるガブリエルの横で、バラムが獣人の雌を連れてきた。
「この子は乳が出るぜ」
「牛か!」
先日子どもを産んだ彼女は、快く授乳を申し出てくれた。まだ名前もついていない赤子を撫で、そっと抱き上げる。毛皮に覆われた彼女の腕で、赤子はぱちりと目を開いた。眠る時が唐突なら、目覚めも突然だ。じっと見上げた後、口に含まされた乳を吸う。
「よかった」
ほっとするガブリエルだったが、赤子はぺっと吐き出した。短い両手足を動かし、なんとか抜け出ようとする。落としそうなので、牛獣人の女性が下ろす。途端にトカゲのように走り出した。
突進した先はガブリエルだ。小さすぎて踏まないよう気をつけながら、ガブリエルは赤子を抱き止めた。ちゅっと鱗に吸い付く。今度は腕の内側、柔らかな部分に口を押し当てた。
「……もしかして」
気になる量ではないが、魔力が流れていく。この子は母乳や肉ではなく、魔力が主食なのか。その疑惑に、デカラビアが進み出た。じっくり観察し、疑惑が現実だと肯定する。
「魔力を食べる? そんな種族知らねぇぞ」
バラムは「ぐぁああ」と吠えながら器用に転げ回った。狼の姿だが、人化した状態なら髪を掻き乱しただろうか。牛獣人の女性に礼を伝え、ガブリエルは赤子を抱き上げた。満足したのか、赤子はにこにこと機嫌がいい。
「種族不明だが、魔族には違いない」
ガブリエルの断言に、誰もが頷いた。人族が魔力を食糧にすることはない。まあ、魔族でも該当するのは夢魔やセイレーンくらいしか思いつかないが……どちらとも違っていた。
新しい種族かもしれない。その呟きに、わっと歓声が上がる。卵が割れずに沈静化していたお祭り騒ぎが、一気に復活した。腕の中で眠った幼く儚い命に、ガブリエルは目を細める。守るべき者が増えた瞬間だった。
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