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21.領主の皮算用は通用するか

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 勇者が王都に向かっているらしい。その噂に、貴族達は色めき立つ。各地で勇者と魔法使いの目撃情報が上がり、彼らは皮算用を始めた。国王により手配がかかった状態だが、上手に利用すれば自領が守れる。戦力として期待できることは、先の魔王との戦いで証明されていた。

 王都にバレぬよう手元に引き込んで利用する。魔族との戦いが沈静化したら、国王へ突き出せばいいと考えた。単純な策だが、使える戦力をみすみす処分することはない。王宮の主より、地方貴族は生き残りに必死なのだ。

 大規模な都アナキンが滅ぼされた。周囲の街を焼かれ、殺され、逃げ込んだ民の大半が犠牲となる。大惨事だった。その災いが自分達の方へ向いたら? 領地が荒らされ、屋敷が破壊され、民が失われる。財産が勝手に目減りすると言い換えられた。

 焦る支配階級は、自分達が生き残る方法を真剣に模索する。その答えが……。

「勇者を見つけ出し、協力させよう」

「かしこまりました」

 従う者らに指示を出し、領主はどっかりと椅子に腰を下ろした。地方都市アナキンは二万人の民がいた。北の街まで滅ぼされ、最終的に生き残ったのは一割程度だ。

 厳しい道のりを他領まで歩いた民は、篩い分けされた。金があり馬車で荷物を運べた者も、貧しい連中に襲撃されて半数が消えた。金があっても生き残れない。それは特権階級を根底から否定するものであり、領主一家は到底受け入れられるはずがなかった。

「逃げる準備はしておくか」

 使用人に命じて馬車の支度をさせる。妻の実家が王都の近くなので、そこへ逃げ込むのがいいだろう。髭を撫でながら、隠し財産の処理に悩んだ。魔族は金塊や貴金属に興味を示さないが、自分達が逃げれば民に荒らされる。奴らに奪われるくらいなら、持っていくか?

 馬車に積みすぎると遅くなる。埋めて隠し、改めて掘り起こしにくるのが正しいか。迷う領主の耳に、勇者達の足音が聞こえた。居住まいを正して迎えるが、通されたのは貧民と変わらぬ青年が二人。

 汚れて擦り切れた服に、ネズミのようなローブ。絡まった艶のない髪と黒ずんだ肌……そして鼻をつく異臭。えずきかけ、領主は咳で誤魔化した。

「よく来てくれた! 我が屋敷で逗留してほしい。なに、王宮の誤解もまもなく解けるだろう。我らが働きかけている」

 顔を見合わせたゼルクとエイベルは、まだ疑いの中にいた。何か思惑があるのでは? この後、兵が飛び込んで捕縛されるのではないか。その心配が警戒心を高めた。

「部屋も用意させてもらった。食事の準備をするから、先に汗を流してきては?」

 やや硬いが笑顔で応じる領主に、二人は顔を見合わせて頷いた。風呂は交互に入り、食事もしっかり毒を確認すればいい。ひとまず温かい食べ物と風呂が優先だ。そう確認し合うと、領主に丁寧に一礼した。

「ありがとうございます」

 さあさあと促され、用意された客間の風呂へと消える。直後、領主は窓に駆け寄って大きく開いた。外の風を思い切り吸い込み、止めていた呼吸を再開する。

「臭すぎて死ぬかと思った。しばらく部屋を換気しろ」

 まだ臭う気がする。眉を寄せた領主は、屋敷中の換気と掃除を重ねて命じた。交易都市として栄えるセルザムの命運が懸かっているのだ。勇者と魔法使いを使いこなしてみせる、と領主は気合いを入れ直した。
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